DEAR ROIに帰ろう

紫野楓

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「明日? いや無理だよ……どうしてもって言われても……」

 翔は立て込んでいるらしい。すごく砕けた、フレンドリーな雰囲気だった。普通の友達とは一線を画すような、そんな感じがした。

 僕と話すのとも違う雰囲気だった。

「待ってよ、それは前から言ってるじゃん……落ち着いたら付き合う、って……忘れてないよ、それが今じゃないだけで……嫌ってないって、好きだよ、むしろ大好きだよ! 何度も言ってるじゃん」

 ……?

 困ったな、僕はそんなに想像力が豊かな方じゃない。

「困ってるのは痛いほど伝わってくるよ」

 どき、と、今日一番心臓が飛び出るくらい驚いた。

 僕に言ってるんじゃないのは、後になって分かる。

 電話口の、絹ちゃん、って、人は相当困っているらしい。

 そして翔と『落ち着いたら付き合う』らしい。

 落ち着いたらっていつだよ。

 嘘吐き。

 人が舞い上がるような言葉、さっきから言い過ぎ。好きとか大好きとか。

 思ったことしか言わないって言ってたのはどの口?

 立て込んでるって、何が?

 僕らのこと言ってるの?

 なんかイライラしてきた。

「え? いや、いい街だよ、ここは……失礼だな……不思議な人が、たくさんいてね……一緒にいるだけで面白いし……それに夜空がとても綺麗だ」

 やっぱり僕、彼の口車に乗せられてるだけだ。

 不思議な人をからかうことが、面白いんだ。

 そうだ、きっと。

 ……翔は僕のことを特別な人だと言った。

「あはは、ロマンチックだった? 俺くらいの歳の人はみんなそうなの! ロマン追い求めてるの……うん、この街であったこと、全部話すよ、だから、絹ちゃんが心配するようなことは、なんにもないし……」

 物珍しいって、意味なんだろう。

 僕をからかって、楽しかったかな、この人。

「ちゃんと帰るよ……うーん……それにしたって、急すぎる……ちょっと考えさせて。決めたら連絡する、明日の朝までには……間に合うでしょ?」

 声が聞こえなくなったから、どうやら通話が終わったらしい。『DEAR ROI』の扉が閉まる音がした。僕は緊張の糸が切れたように、建物の壁に寄りかかりながらズルズルと座り込んでしまった。

 脚に力が入らない。脚の間に顔を埋めると頭の血管がどくどくと脈打った。

 ここ二、三日にあったことを、走馬灯のように頭に巡らせていた。

 翔は明日帰るのかな。

 いいよいいよ、それでいい。

 もう翔なんか見たくない。

 さっさと帰ってしまえばいい。

 そう思うのに、なんでだろう。

 辛い。辛くて寂しい。

 僕はすっかり、翔の罠にはまってしまったのかもしれない。

 翔になんて、会わなきゃよかった。

 明日には僕の平穏と日常が帰ってくるんだと思った。

 安心した。

 安心したけど、苦しさが電撃みたいに走って、しばらく体が動かなかった。





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