DEAR ROIに帰ろう

紫野楓

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 行きは3人で乗った電車に蕗ちゃんと2人で乗りながら、考えるのは翔とノエルのことだった。乗客の少ない車両の座席に並んで座ると、蕗ちゃんはさっきまで活動していたサークルの話や、大学の講義の話や、友人関係の話を途切れないBGMみたいに話始める。僕はそうなんだ、とか、へえ、とか、話の接ぎ穂を拾いながら、上の空で相槌を打っていた。左手に彼女の右手の感触がある。僕はそれを振りほどくことができない。

 彼女はとても楽しそうで幸せそうだった。彼女をそうさせたのは、紛れもなく僕が彼女を選んだからに違いない。それは喜ばしいことだと思う。

 控えめに言っても、蕗ちゃんはいろんな人から人気がある。女の人からも男の人からも信頼が厚いし、可愛い、優しい、と評判だと思う。何人も男の人に声を掛けられているのに、彼女は少しもなびかない。硬派な感じが、女の人の信頼にも繋がっている。

 蕗ちゃんはモテる。蕗ちゃんが参加しているサークルには、蕗ちゃんを狙っている人が何人もいる。でも彼女は、僕にばっかり構うから、そのせいで僕は居心地が悪い。

 お茶を研究したり嗜んだりするサークルだから、活動内容自体は好きなんだけど、お茶の活動を目的にしている人は僕くらいしかいない。

 所謂、名前だけの、出会いを求めた感じの、サークルだった。

 そこに誘ったのは蕗ちゃんだけど、僕は蕗ちゃんにサークル活動をしたくない、とは言い出せないでいる。

 ずるずると、もう3年目だ。

 僕は3年も彼女に僕の本当の気持ちを伝えることができない。

 きっとこれからもそうなんだ、って漠然と思う。だって僕は、翔とノエルを選ぶことができなかったから。

 結局、翔を追いかけるどころか、二人を探すことすらできなかった。

 ……違う。できなかったんじゃない。

 ……しなかったんだ。

 二人を見放して、僕はいつも通りの大学生活を手に入れることができた。

 喜んだほうがいいのに、悲しい気分になった。自分が嫌になる。

 僕は翔を追えばよかったのだろうか。

 日が沈みかけた時間になっても答えは出せなかった。

 白萩の駅で降りて、蕗ちゃんとはそこで別れた。またね、と彼女は笑顔で手を振る。

 僕も笑顔を作って彼女に手を振った。

 『DEAR ROI』までの道のりを、たった一人で歩く。

 日が沈んで、街頭に火が灯った。見上げると暗い夜空に眩しい。宵の明星が控えめに輝いている。

 『DEAR ROI』に帰るのに、こんなに気まずい気持ちになったのは初めてのことだ。人目を忍ぶように道の端っこのさらに端を背中を丸めて歩いた。店のある小径に入ると、出入り口の前に人影が見えてくる。僕は不審に思いながら気配を消して歩いて行った。

 話し声が聞こえる。

「こんばんは……久しぶり」

 翔の声だった。でも人影は一人だ。

 ……通話しているみたいだ。




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