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Ⅲ
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しおりを挟むリビングダイニングに戻ると、マダムが、僕が用意した朝食をテーブルに並べて待っていてくれた。枯れ草色の上品で落ち着いたクロスの上にシンプルな白の丸いプレートが置いてある。上には僕がさっき作ったサンドウィッチと、いちごと新鮮な葉野菜が乗っていた。ドレッシングがかかっているのか、朝日を浴びてキラキラしている。スープカップには卵のスープも入っていた。
「起きたのね、おはよう」
振り返ったマダムは、僕らに向かって笑顔で言った。
「ばあちゃん! おはよう!」
ノエルがマダムに飛びついている。ノエルの頭を撫でるマダムの手は優しかったけど、顔は少し引きつっていた。
「前みたいに、ヒメって呼んでいいのよ、ノエル」
「カケルが、ばあちゃんってよぶのがほんとう、っていってたよ」
マダムが翔を見てあからさまに嫌そうな顔をした。翔はその表情を笑って跳ね除けている。
「だって本当のことだもん、だろ? 優月」
僕に振らないでほしい、やれやれって顔をしながら、二人分の椅子を引いた。
「ノエル、ばあちゃんのとなり!」
僕はノエルの要望に頷いて、マダムがいつも座っている椅子の隣に、ソファの上から持ってきたクッションを椅子の上に置いた。ノエルがよじ登ろうとするので、抱き上げて座らせる。
「上手に食べられそう?」
「たべられそう! ありがとう! いちごだ! あー! おほしさまだー!」
ノエルは目の前に広がる朝食を見て嬉しそうに言った。それを用意した僕はノエルの百倍くらい嬉しい。チーズを星型に切っただけでこんなに喜んでもらえるなら僕は世界中のありとあらゆるチーズを星の形にくり抜いても構わないと思った。
翔に席を勧めて座らせる。
「飲み物はコーヒーと、オレンジジュースと、水と、紅茶と、野菜ジュース、牛乳……どれがいい?」
マダムは水、と言った。ノエルは牛乳、と言った。
僕は言われたものを手際よく用意していく。
「……手伝うよ」
リビングダイニングでカップやグラスを拭いていたら、翔が手を伸ばしてきた。
「いいよ、座ってて」
「やらせて、なんかやだから。俺もやる、料理はそんなにしたことないけど……飲み物くらい注げるから!」
マダムがクスクス笑ってる。
「これ、全部ユヅキが作ったのよ、すごいでしょ」
マダムは自分のことを自慢するように言った。今日のご飯は、マダムも少し作ってくれたけどね。翔がわなわなしながら小さなグラスに牛乳を注いでいる。
「全部用意してもらって、自分が恥ずかしい……!」
「気にすることないのに」
「やだやだ、恥ずかしい、明日は最初から手伝う! ねぼすけって恥ずかしい!」
ノエルがカウンター越しに翔を指差して笑う。
「ねぼすけー!」
「あー! ノエルは静かに!」
大人げない恥ずかしがりかたを見てると、胸がこそばゆくなった。まじまじと彼を見つめてしまう。目が合った。僕が吹き出すように笑ったら、翔の顔がもっと赤くなる。
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