上 下
48 / 66
神風特攻隊

神風特別攻撃隊

しおりを挟む
 それから3日間、今までのシャーリーと違いすぎないように気をつけて大人しくすごした。
 そしてわたしを取り巻く環境について知り、いろいろと理解した。
 やっぱり目標を達成するためにはまず調査しないとね!

 まずうちは地方統治に従事する子爵家で、ちょっと広めで豊かな領地なので農作物の収穫量が多いみたい。つまり少し裕福なのよね。一人娘のわたしは入り婿を迎えて、その人にこの子爵家を継いでもらうということになるようだ。わたしの婚約者のライモンドは伯爵家の三男で、王都の学校を出た秀才だという触れ込みだけれど、あのものすごく失礼な人が?秀才かどうかは知らないけれど性格は最悪よ。お父様の見る目はよくないんじゃないかしら。
「まあ、シャーリーにも悪いところがあったのかもしれないけれど」
 おどおどして太ってて根暗なシャーリー。婚約者にも上手に対面できなかったのかしら。
 でもやっぱりあんな風に扱われるのはダメよ。
 シャーリー、もっとしっかりしないと!
 
 今までシャーリーが受けてきたであろう屈辱を思うとなんだか悲しくなってきた。
 これからはわたしがちゃんとしてあげるからね。
 
 次の日の朝、わたしは執事をつかまえて、我が家の使用人について尋ねた。
「メイドですか?」
「そう。既婚で子供のいるメイドはいるかしら?」
 子爵家にはメイドが4人いて、うち3人は20代以上の女性だ。10代のメイドはモニカだけ。
「通いのメイドですが、アンナが35歳で子供が2人いると聞いています。でも寡婦ですよ」
「まあ、ご主人は亡くなったの?お気の毒ね」
「詳しくは知りませんが、実家に身を寄せてここに働きにきているそうですよ」
 シングルマザーね、それはいいわ。

「どうしてそんな質問を?」
 執事が聞いてくる。
 この執事、お父様との関係は良いみたいだけど私とはあまりかかわりが無いのよね。親身になってほしいのだけど、どうかなあ。

「実は、今ついてくれているメイドが合わなくて、変えてもらえないかと思っているの」
「モニカですか?何かありましたか?」
 あったなんてもんじゃないけど。モニカは他の使用人とはうまくやってるのかしら。
「ええ…仕事も雑だし言葉遣いも乱暴で、わたしなんだか怖くて……」
 シャーリーはぱっとしない陰気な子だから、俯いてこう言えば執事も分かってくれるだろうか。
 
「……。モニカはお嬢様の婚約者のライモンド様の遠縁ということで紹介された者でして。年齢もお嬢様と近いのでよいかと受け入れたのですが」
 縁故ってわけね。だから態度がでかいのかしら。これは簡単には辞めさせられないかも。

「そう……。とりあえず、今日のお茶の支度はアンナにしてもらえるかしら。お願いね」
 これ以上ぐずぐず言っていると『まあ注意しておきますから、様子を見てください。また何かありましたらご相談を』なんて言われちゃうから、はっきりしっかりお願いする。執事も忙しいからね、ここはスパッと決めないと。
 執事はいつもと違う様子のわたしに『おや?』という顔をしたけど、わたしはさっさとその場を後にした。

 そしてお茶の時間。
「あの、お嬢様…お茶をお持ちいたしました」
 アンナが少し緊張した面持ちで部屋に入ってくる。痩せ気味で地味なかんじだけどきれいな人だと思う。
「ありがとう。そこにお願い」

 アンナに初めて淹れてもらった紅茶はなかなか美味しかった。
 だいたいモニカが入れるお茶ってぬるいし薄いしで、不味くて飲めたもんじゃなかったのよね!
 はあ、熱くて濃いお茶は香りもよくて美味しいわ。
 テーブルの上には紅茶のセットとお菓子の載せられたお皿。
 わたしに提供されるお茶菓子はだいたいが焼き菓子だ。ショートブレッドやクッキー、マドレーヌ、たまにシフォンケーキなんかもある。そしていつも3つ。今日のお菓子はスコーンだ。大きな焼きたてのスコーンがみっつ。3つも!ジャムとクロテッドクリームをたっぷり添えて。
 多いよね。お腹がいっぱいよ。こんなの毎日食べてたら胃袋が広がり続けるわ。
 わたしはダイエットもしたいのよ。

「ねえアンナ」
「は、はい。紅茶は熱すぎましたか?」
「いいえ、とっても美味しいわ。ありがとう。このお茶、毎日飲みたいと思うくらいよ」
「ありがとうございます……」
 アンナは戸惑っているがわたしはどんどん話を続ける。

「ねえ、アンナってお子さんがいるんですって?2人と聞いたわ」
「え、ええ。そうです」
「女手ひとつでお仕事もして子育てもなんて大変よね。なにか困っていることはない?」
「え?あ、ありがとうございます……?
 今は母と共に暮らしておりますので大丈夫ですわ。父も亡くなっておりますので、母に子供を見てもらって私が働いております」
「そうなの、よかったわね。お子さんも安心ね」
 わたしが突然大人っぽいことを話し始めたからか、アンナは怪訝な顔をしてそれでも答えてくれる。ごめんなさいね、今わたしの中身は43歳なのよ。
 アンナが働いて母親と子供2人を養っているのね。うちで働いているくらいだから身元はしっかりしているだろうけど、お金に余裕はないだろうな。なんてことを考えることもできるのよ。
 
「ところでアンナ、このお菓子を見てどう思う?」
「えっ」
「多すぎると思わない?わたし毎日こんなに食べるのは大変で、実は困っているの。でも料理人はわたしが喜ぶと思って毎日用意してくれるのよね。だから減らしてくれってなかなか言い出せなくて」
「はい……」
「もしよかったら、このうち2つ、お子さんに持って帰ってくれないかしら」
「ええ?」
「お願いよ」
 そう言ってわたしは用意しておいたナプキンにスコーンを包み、袋に入れてアンナに渡した。

「誰にも見つからないように、持って帰ってね」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

女豹の恩讐『死闘!兄と妹。禁断のシュートマッチ』

コバひろ
大衆娯楽
前作 “雌蛇の罠『異性異種格闘技戦』男と女、宿命のシュートマッチ” (全20話)の続編。 https://www.alphapolis.co.jp/novel/329235482/129667563/episode/6150211 男子キックボクサーを倒したNOZOMIのその後は? そんな女子格闘家NOZOMIに敗れ命まで落とした父の仇を討つべく、兄と娘の青春、家族愛。 格闘技を通して、ジェンダーフリー、ジェンダーレスとは?を描きたいと思います。

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

パンツを拾わされた男の子の災難?

ミクリ21
恋愛
パンツを拾わされた男の子の話。

石榴(ざくろ)の月~愛され求められ奪われて~

めぐみ
歴史・時代
お民は江戸は町外れ徳平店(とくべいだな)に夫源治と二人暮らし。  源治はお民より年下で、お民は再婚である。前の亭主との間には一人息子がいたが、川に落ちて夭折してしまった。その後、どれだけ望んでも、子どもは授からなかった。  長屋暮らしは慎ましいものだが、お民は夫に愛されて、女としても満ち足りた日々を過ごしている。  そんなある日、徳平店が近々、取り壊されるという話が持ちあがる。徳平店の土地をもっているのは大身旗本の石澤嘉門(いしざわかもん)だ。その嘉門、実はお民をふとしたことから見初め、お民を期間限定の側室として差し出すなら、長屋取り壊しの話も考え直しても良いという。  明らかにお民を手に入れんがための策略、しかし、お民は長屋に住む皆のことを考えて、殿様の取引に応じるのだった。 〝行くな!〟と懸命に止める夫に哀しく微笑み、〝約束の1年が過ぎたから、きっとお前さんの元に帰ってくるよ〟と残して―。

処理中です...