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学生時代

紗和目線の物語①

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初めて心から好きになった人は、軍人さんでした。


私は、東京で絵の勉強をしていました。
将来は画家になりたかったのです。
画家になって、いつかは個展を出したい!
と言う夢を描いていました。

でも、私の夢への道が閉ざされてしまいました。

日中戦争が始まって間もない1938年頃から、
学生は労働力確保の為、軍需工場で強制的に働かされる様になりました。
私が通っていた学校も、1939年に軍需工場となりました。



私は、ミシンを使って、軍人さんの服を縫う仕事をしていました。

「(戦争で労働力が減っているから仕方ないけど…。
でも私、絵を勉強する為に、神戸から東京に来たのに…。)」

なんて思ってみたりしましたが、
他の学校も同じ様に軍需工場になって行くのを見ていたので、覚悟はしていました。

労働時間は10時間程でした。
ずっと座って細かい作業をしているものですから、腰とおしりが痛かったです。
どうせやりたい事が出来ないなら、
実家に帰って母の仕事の手伝いがしたい。
そう思いました。

「はぁ…」
「どうしたの?」 
「え?あ、ごめん。ちょっと考え事してて。」

溜息をついている所を、友人の山尾すずちゃんに聞かれてしまいました。

「大丈夫?良かったら話聞くよ?」
「ありがとう。実は、実家に帰りたくて…。」
「紗和ちゃんの実家って、確か神戸だよね?」
「うん。お母さんが軍人さんの学校の寮母さんやってるの。」
「!!それだったらさ、もしかしたら帰ることが出来るかも!!」

すずちゃんは
『私の実家は、軍人の学生寮です。
母親の手伝いをする事で、お国の為に戦う軍人さんの手助けをしたいので実家に帰らせて下さい。』
みたいな事を言えば、帰れるかも!
…との事なんだけど…。

「…………。」

そう上手くは行きませんでした。



「ごめんね…紗和ちゃん。」
「すずちゃんが謝る事ないよ。
寧ろすんなり話しが通った方が、腰抜かして驚くわ。」

ですが、本当に腰を抜かして驚く事が起こりました。
3ヶ月程経って、お許しが出たのです。

「帰省は来年になるが…。
残りの日数、しっかり労働に励む様に。」
「はい!」

私は、真っ先にすずちゃんにこの事を報告しました。
 
「本当!?良かった…!」
「すずちゃんのおかげだよ。
本当にありがとう!」
「でも、紗和ちゃんが実家に帰っちゃうの、ちょっと寂しいなぁ~…。」
「すずちゃん…。」
「あ!ごめん。気にしないで!!」



そして、実家に帰る日が来ました。

「紗和ちゃん、向こうでも元気でね。」
「うん。すずちゃんも。
戦争が終わったら、また東京に行くからね。手紙も書く。」
「うん。私も書くよ!」

すずちゃんは、姿が見えなくなるまでずっと手を振ってくれました。



汽車を乗り継いで、やっと三宮に着きました。

「(着いた!!)」

私が生まれ育った三宮!!
懐かしい…!!
私は三宮駅から出て、実家へ向かいました。

「なぁ、そこのお嬢ちゃん」
「?」

声を掛けられた気がして振り向くと、
素行の悪そうな男が2人立っていました。

「もしかして、三宮に働きに来たんか?」
「違います。急いでいるんで。」
「そんなせかせかせんでもええやん。
楽しい所連れてったるで~。」

1人が、私の肩に触れました。

「離してよ!!」
「そこまで拒否せんでもええやん。」
「俺らとちょっと遊ぼうやぁ」

「……おい」 

「!!」

透き通った低い声が聞こえ、振り向くと、
そこにはとても整った顔をした軍人さんがいました。
軍人さんは私に絡んできた男の腕を掴みました。

「なっ!!」
「何だよおめー…っ!?」
 
軍人さんは、男達を鋭い目つきで睨み、
言いました。

「か弱い女性に何している!!それでも日本男児か!!恥を知れ!!」

「………」
「ちっ!なんだよ、軍人かよ…っ!!」
「おい、逃げるぞ!!」

軍人さんが腕を離すと、2人は風の様な速さで去って行きました。

「……(かっこいい…)」

ちんぴらが絡んで来た事なんて、すっかり忘れてしまうぐらい、私はこの軍人さんに見惚れてしまいました。
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