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39 大雨の前の日
しおりを挟む「それにしても、疲れましたね……」
「ええ、まさか帰ってすぐに、逃げ出したリスを捕まえることになるとは」
「でもこれで、予言の内容が全部分かりましたね!」
リスをアリシアに任せ、俺とグレンノルトは部屋へと戻りながらそう話した。転移者として行った初めての仕事で魔女から託された5つの予言。そのすべての内容が明らかとなり、ほとんどを解決できているとなると、俺としても安心できた。
「残ってるのは、大雨と川の氾濫でしたよね?」
「はい。すでに一般への知らせは出ています。ですが、どうやら明日の夜から降り始めるようです」
なるほど。と言うことは出かけるのが1日でも遅かったら、大雨と被っていたのか。今さらながら、予定がギリギリだったことを理解する。無理をしていたわけではないが、そういうことなら大雨を避けて来月に行けば良かったんじゃないか? そう思っていると、グレンノルトと視線がぶつかった。
「大雨は国全体に及びます。あの森も、ただでは済まないかもしれない。今のあの光景をあなたに見せたかったのです」
「そ、そうなんですか」
俺は恥ずかしくて、彼から視線を逸らした。グレンノルトのこの感じは今に始まったことではないが、彼だけ余裕があるみたいでいい気はしない。俺は自分の部屋に着くと、さっさと扉を開けて部屋に入った。でもまあ、このままさようならは失礼だろうと思い、俺はグレンノルトの方を振り返る。
「グレン、今日は___」
振り返った俺は、俺のすぐ後ろにいたものに顔をぶつけた。それが何かなんて、考えなくても分かる。俺はぶつかったことを謝り、彼から離れようとし、しかし俺の後ろ頭を彼は抑えた。
「疲れが取れるよう、ゆっくりとお休みください」
内緒話でもするかのように、彼はそう囁いた。俺の耳元に息がかかる。彼は揶揄うように、俺の頭を撫で、そして簡単にその体温は離れて行った。
「では、おやすみなさい」
そう言って軽く微笑んでから、グレンノルトは行ってしまった。
*
さて、大変なのは残された俺だ。扉を閉め、そのままずるずるとその場に座り込む。心臓がバクバクとなって仕方がなかった。きっと、今の俺の顔は真っ赤なんだろう。そんな自分の姿を見られたのかと思うと、それも恥ずかしくてまた顔に熱が集まった。
(完全に油断してた……)
何となく、グレンノルトはハグとかそういった触れ合いを、嫌っていると思っていた。だからあんな風に抱きしめられるなんて思いもしなかったんだ。一応、恋人という関係だし、別に可笑しくはないんだけど……こうしていても仕方がない。俺はため息を吐いてから、立ち上がると、近くに置いてあった鞄を手に取った。
(アリシアにお土産を渡したし……あとは自分に買ったものだけか)
お土産を渡す相手が1人しかいないなんて、今さらながら友人の少なさに悲しくなる。城にいる人はグレンノルトとアリシア以外、どこかよそよそしいけど、これからはもう少し頑張って交友関係を広げよう。俺は鞄から荷物を取り出し、整理しながらそんなことを考えていた。
「あれ、これは……」
最後に俺が手に取ったもの。それは、紺色の手帳だった。中を見るのはためらわれたが、きっとグレンノルトの手帳だ。宿に泊まったときにでも俺の鞄に入ってしまったのだろう。俺は手帳の表紙を見て、初めて城の外に出てグレンノルトと一緒に町を見たことを思い出した。自分のいた世界と似てはいるがどこか違う街並み、そして時計塔から見た光景。どれも新鮮で、美しくて、そんな世界を見せてくれたグレンノルトを、きっと俺は好きになったんだろう。
「……まあ、とりあえず持ち主に返さなくちゃね」
あんなやり取りをしてすぐに顔を合わせるのは正直、気が進まない。でも、明日グレンノルトと合えるとも限らないし、手帳がなくて困るのは彼だ。恋愛慣れしてない俺の変な意地で、彼を困らせるのも良くないと思った。
(まだ城の中にはいるよね。グレンの部屋に行ってみるか)
俺はそう考え、手帳を手に部屋を出た。その選択が間違いだとも知らずに。
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