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閑話休題①

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その光景を見たとき、目の前が真っ白になった。トウセイの後ろに近づく男、そして殴られ倒れ込むトウセイ。彼の額には赤い血が流れていた。

(俺が、守ると決めたのに)

 頭の中が赤で塗られていく。大切にしたいと思ったのに傷つけた。ならばせめて守りたいと思った。真っ赤になった頭の中で何かが爆発する。

「貴様ぁぁぁあああ! その手を放せ!!」

 後ろから来ていた男の仲間を切りつけ、地面を踏み込み一気にトウセイの元に走る。そして男にグレンノルトは切りかかった。

「その甲冑、噂の騎士団長サマか! あんたがいるなんて聞いてないぜ」
「黙れ!」
「その様子だと馬車のほうに向かわせた奴らは全員倒されたか」

 グレンノルトの剣と男の剣がつばぜり合いとなる。グレンノルトの殺気を間近に受けながら、男はまるで獣だと思った。番、家族……それらを殺された獣が怒りのまま襲い掛かってきているようだ。このままじゃ殺される。そう悟った男は剣を滑らせ、グレンノルトと距離を取ると、今その瞬間に男を切ろうと剣を構えたグレンノルトに、片手に持っている人間を見せた。

「それ以上動けばこの人間を切るぜ!」

 剣をトウセイの首に当てる。気を失っているんだろう。トウセイは体をだらんとさせ、薄皮が切れた首に血が滲んだ。グレンノルトの動きが止まる。男はこういう戦いに慣れていた。

「武器をその場に置け。おい誰かこい! こいつの手足を縛れ!」

 男の声を聞き、草わらから男の部下らしき人間が出てくる。本来は転移者を縛り上げるために用意したロープで、グレンノルトの手足を縛った。男は気まぐれに剣をトウセイの首に当てて傷をつける。そんな光景を見せられ、グレンノルトは抵抗できない。青筋を浮かべて地面に転がされた。

「絶対にお前を殺す。何があろうとお前だけは俺の手で殺す」
「そうか。楽しみにしてるぜ騎士サマ」

 男の部下が持った棍棒が、グレンノルトの頭に真っすぐに落ち、鈍い音をさせた。流れる血の生暖かい触感と激しい痛み。意識が薄れる中、グレンノルトは後悔を感じていた。

(トウセイに、こんなにも痛い思いをさせたのか……)

 戦いとは無縁の日常にいた彼は、きっと頭を殴られたことなんてなかっただろう。他人に襲われた経験もなかったかもしれない。ああ、痛い思いを、怖い思いをさせてしまった。俺は、俺は___

(騎士失格だ)

 後悔の中でグレンノルトは意識を手放した。
 
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