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17 安堵、そして少しの不安
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数日後、道具屋の近くの水路に橋が架かった。それと同じころから、騎士団の見回りが傍から見ても分かるほどに厳しくなる。リサやトニーのことは、きっと騎士団の人たちが守ってくれる。一般市民である俺が、近くをうろつくのも邪魔かと思い、俺は遠くから様子を見ていた。2日後、グラノ・ベーカリーへとやって来たリサが、店でボヤ騒ぎがあったと教えてくれた。
「あら、大丈夫だったの?」
「うん、騎士団の人がすぐ来てくれてね。お兄ちゃんも私も怪我しなかったし、お店にも大きな被害はなかったの」
マーサは、「それは良かった」と安心した表情を浮かべた。俺も彼女の話を聞き、ほっと胸をなでおろす。やはり予言のあった店は、リサが開いた店だった。怪我人も出なく、被害も荷物がいくつか焦げたくらいらしい。火元は分からないものの、多分買い入れた品物が原因なんじゃないかと、そう言っていた。
「お兄ちゃんも、これからはもっと気を付けるって」
リサは、「このお店も火事には気を付けてね。じゃあね!」と言って、パンの入った紙袋を片手に出て行った。マーサも「またね」と言って手を振り、見送る。これで今月の予言はすべて解決した。西の町に魔物が襲撃したことは、騎士団が対処して被害はほぼゼロだし、火事に関しても被害はほとんど出なかった。仔馬に関しては、昨日無事誕生したと言う話を聞いている。
「火事なんて怖いけど……でも騎士団の人が助けてくれて良かったわね」
「はい、そうですね」
あと数日で次の月になる。そうすればまた、魔女は俺をお茶会に呼び、俺は元の世界の話をして魔女から予言を授けてもらう必要があった。魔女は、次のお茶会にタピオカを用意すると言っていたがどうだろう、本当に異世界でタピオカが飲めるのかな。
(疑い……信じろ。魔女様が俺に授けた予言だったけど、結局何のことか分からなかった。もうこの予言の意味を魔女本人に聞こうかな)
マーサと他愛のないことを話しながら、そんなことを考える。次のお茶会は数日後に迫っていた。
*
ある日の夜、王都から離れた森の中に一人の魔女がいた。家の庭にあるテラス席に座り、紅茶を飲む彼女は月を見上げ、微笑んだ。彼女がトウセイに贈った言葉は、厳密には予言ではなかった。予言とは、未来に起こることを言い当てることであり、トウセイに当てた言葉は、およそ予言とは言えない。言わば、彼女なりのアドバイスだった。
「トウセイ……君は私の言葉をきちんと理解してくれるかな。理解できなければ……きみは大切な人を失ってしまうよ」
異世界へと召喚され、訳も分からないうちから「転移者」として仕事を務めてきた彼は、きっと元の世界ではどこにでもいる平凡な男の子だったのだろう。魔女の目に、トウセイのいた世界は好ましいものとして映っていた。戦争のない世界、人々がある程度平等な世界……もしかしたら平和だったのは、トウセイの周りだけかもしれないが、それでも魔女にとってトウセイのいた世界は「良いもの」だった。魔女は紅茶を一口飲む。トウセイに、この世界はどんな風に見えているのだろう。ワクワクする世界? 憎み嫌う世界? どちらにしろ、君はもう元の平和な世界には戻れない。誰のせいでと言われれば、きっと自分のせいなのだろう。魔女が異世界の話を聞きたがるから転移者は用意される。魔女は、ふうと息を吐いた。
「……私ができる、精一杯のことだったんだ」
彼に予言を授けるとき、一緒に小さな祝福も贈った。自分のせいで平和な世界から、こんな世界に喚ばれてしまった男の子。そんな彼が、せめて悲しまないようにと贈った予言と祝福は、きちんと彼のことを守ってくれるのだろうか。森の奥から風が吹き、魔女の髪を揺らす。一人の女性の祈りを、空に浮かぶ月だけが聞いていた。
「あら、大丈夫だったの?」
「うん、騎士団の人がすぐ来てくれてね。お兄ちゃんも私も怪我しなかったし、お店にも大きな被害はなかったの」
マーサは、「それは良かった」と安心した表情を浮かべた。俺も彼女の話を聞き、ほっと胸をなでおろす。やはり予言のあった店は、リサが開いた店だった。怪我人も出なく、被害も荷物がいくつか焦げたくらいらしい。火元は分からないものの、多分買い入れた品物が原因なんじゃないかと、そう言っていた。
「お兄ちゃんも、これからはもっと気を付けるって」
リサは、「このお店も火事には気を付けてね。じゃあね!」と言って、パンの入った紙袋を片手に出て行った。マーサも「またね」と言って手を振り、見送る。これで今月の予言はすべて解決した。西の町に魔物が襲撃したことは、騎士団が対処して被害はほぼゼロだし、火事に関しても被害はほとんど出なかった。仔馬に関しては、昨日無事誕生したと言う話を聞いている。
「火事なんて怖いけど……でも騎士団の人が助けてくれて良かったわね」
「はい、そうですね」
あと数日で次の月になる。そうすればまた、魔女は俺をお茶会に呼び、俺は元の世界の話をして魔女から予言を授けてもらう必要があった。魔女は、次のお茶会にタピオカを用意すると言っていたがどうだろう、本当に異世界でタピオカが飲めるのかな。
(疑い……信じろ。魔女様が俺に授けた予言だったけど、結局何のことか分からなかった。もうこの予言の意味を魔女本人に聞こうかな)
マーサと他愛のないことを話しながら、そんなことを考える。次のお茶会は数日後に迫っていた。
*
ある日の夜、王都から離れた森の中に一人の魔女がいた。家の庭にあるテラス席に座り、紅茶を飲む彼女は月を見上げ、微笑んだ。彼女がトウセイに贈った言葉は、厳密には予言ではなかった。予言とは、未来に起こることを言い当てることであり、トウセイに当てた言葉は、およそ予言とは言えない。言わば、彼女なりのアドバイスだった。
「トウセイ……君は私の言葉をきちんと理解してくれるかな。理解できなければ……きみは大切な人を失ってしまうよ」
異世界へと召喚され、訳も分からないうちから「転移者」として仕事を務めてきた彼は、きっと元の世界ではどこにでもいる平凡な男の子だったのだろう。魔女の目に、トウセイのいた世界は好ましいものとして映っていた。戦争のない世界、人々がある程度平等な世界……もしかしたら平和だったのは、トウセイの周りだけかもしれないが、それでも魔女にとってトウセイのいた世界は「良いもの」だった。魔女は紅茶を一口飲む。トウセイに、この世界はどんな風に見えているのだろう。ワクワクする世界? 憎み嫌う世界? どちらにしろ、君はもう元の平和な世界には戻れない。誰のせいでと言われれば、きっと自分のせいなのだろう。魔女が異世界の話を聞きたがるから転移者は用意される。魔女は、ふうと息を吐いた。
「……私ができる、精一杯のことだったんだ」
彼に予言を授けるとき、一緒に小さな祝福も贈った。自分のせいで平和な世界から、こんな世界に喚ばれてしまった男の子。そんな彼が、せめて悲しまないようにと贈った予言と祝福は、きちんと彼のことを守ってくれるのだろうか。森の奥から風が吹き、魔女の髪を揺らす。一人の女性の祈りを、空に浮かぶ月だけが聞いていた。
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