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16 数ヶ月ぶりの会話
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アリシアはお茶の用意をすると「失礼します」と言って部屋を出て行った。予言の話をしようと思って、グレンノルトのところまで来たから、彼女が部屋を出て行ってくれたのはありがたい。しかし、本音を言えば部屋の中にいて会話を回してもらいたかった。
「……」
無言の時間が続く。俺が訪ねたんだから俺から話しかけなければとは思っていたけど、グレンノルトと話すのなんて約数か月ぶりだ。思うように話す言葉が見つからなかった。緊張、でもしているのか俺は。
「予言……火事に関する予言でお話したいことがあって来ました」
「話したいこと、ですか……」
違う、もっとこう俺のイメージではびしっと言ってさっと帰るつもりだったんだ! なんでこんなもったいぶった言い方をしてるんだ! グレンノルトだって、なんか神妙な顔で頷いてるし、居たたまれない! 俺は軽く咳ばらいをしてから、「実は」と続けた。
「住んでいる場所の近くにある道具屋の子が、新しく花を売り始めたんです。あの子の店が、予言のあった店の可能性もあるなと思い……その、お伝えに来ました」
「新しい店ができてたのですか!」
グレンノルトが驚いたようにそう声を上げた。そして、慌てて「すみません」と謝る。俺はと言うと、「いえ……」なんて、当たり障りのない返事ともつかない言葉を返した。
「あと、橋についてなんですけど、既存のものでない可能性もあるのかなって」
「ああ……それなら私も考えました。ですが、新しく橋を架ける工事もなく……ですが、新しく店ができていたのは把握していませんでした。その店の周囲を調査する必要がありますね」
まあそうかと俺は納得した。橋について、俺が思いついたんだから俺よりも頭の良い人間が思いつかないはずはないか。悔しいようなほっとしたような、そんな感じがする。言いたいことはあらかた伝えただろうか。
(正直、相手をしてくれるかどうかも賭けだったな……)
俺とグレンノルトは、一言で言って非常に気まずい関係だ。俺としては、話すことなんてないと思っていながら、結局こんな風に押しかけてしまったわけだが、追い返される可能性もあるなと考えながらここまで来た。俺だって、グレンノルトに対する態度の悪さは自覚してる。別に、態度を改めるつもりはない。俺はこの人が心の底から嫌いだからだ。
(いや……追い返しはしないか。この人は俺に優しいふりをする)
嫌なことを思い出すのは止めようと、そう思った。用事は終わったんだ、もう帰ろう。予言のことだって、きっと騎士団が調べ対処してくれる。俺ができることは全部やった。紅茶はまだ残っていたけど、アリシアには悪いが飲む気になれなかった。しかし、俺が「帰ります」と言い立ち上がる前に、目の前に座っているグレンノルトが「あの」と話しかけてきた。
「ありがとうございました。あなたのおかげで、見逃していた花屋に気付くことができました」
「……俺だって、たまたま知っただけです」
「それだけじゃありません。私の元まで訪ねてきてくださり……」
「……」
グレンノルトは、口を小さく開閉した後、「先週、馬が誕生しました」と呟いた。仔馬は人間で言う未熟児だったらしい。予言を信じ、団員を配置して居なかったら仔馬の命は危なかったかもしれないと、グレンノルトは話した。
「あなたには話しておきたかった」
グレンノルトはそう言って微笑んだ。ああ! 悔しい悔しい悔しい……俺はこの人間が嫌いなんだ。こいつは最低なやつなんだ。そう分かってはいるのに、心臓は勝手にぎゅうぎゅうと締めつけられた。
「そうですか、失礼します」
俺は振り返らなかった。一刻も早く部屋を出て、グレンノルトの前から去りたかった。
(だっさ……引きずってるのは俺の方じゃん)
無人の廊下はひどく静かだった。俺は出口に向かってフラフラと歩く。しばらくは、誰とも会いたくなかった。
*
彼が部屋から出ていくのを、俺は静かに見ていた。扉が閉まり、部屋の中で一人になってから俺は大きくため息を吐く。やりすぎた……我慢が出来ず、最後に話しかけてしまった。久しぶりに彼と話せて、舞い上がったのか? ティーンか俺は。けれども、欲を言えば___
(花を贈った相手を知りたかった……)
盗み聞きをしようと思ったわけじゃない。トウセイが店員と話していると気付き、店を出ようとしたとき、たまたま聞こえてしまったんだ。
(『お世話になってる人に花を贈りたいんです』……か。誰に贈ったんだろう)
きっと俺の知らない相手だ。そんなことは分かっていた。トウセイが城を出てからもう数カ月が経っている。彼が誰と仲良くしているか、彼がどんな生活をしている俺は何も知らない。グレンノルトは、不思議な感覚だった。ほんの数カ月前は彼のことなら、俺が一番詳しいと思えたのに、今はもう彼のことが何も分からない。
(いや、こんな風に考える資格もないか)
気持ちを切り替えようと、そう思った。彼が教えてくれた、新しい花屋について調べる必要がある。今月も残りわずか、いつ橋ができて火事が起きるか分からない。グレンノルトは息を1つ吐いて立ち上がると、資料室へと向かった。
「……」
無言の時間が続く。俺が訪ねたんだから俺から話しかけなければとは思っていたけど、グレンノルトと話すのなんて約数か月ぶりだ。思うように話す言葉が見つからなかった。緊張、でもしているのか俺は。
「予言……火事に関する予言でお話したいことがあって来ました」
「話したいこと、ですか……」
違う、もっとこう俺のイメージではびしっと言ってさっと帰るつもりだったんだ! なんでこんなもったいぶった言い方をしてるんだ! グレンノルトだって、なんか神妙な顔で頷いてるし、居たたまれない! 俺は軽く咳ばらいをしてから、「実は」と続けた。
「住んでいる場所の近くにある道具屋の子が、新しく花を売り始めたんです。あの子の店が、予言のあった店の可能性もあるなと思い……その、お伝えに来ました」
「新しい店ができてたのですか!」
グレンノルトが驚いたようにそう声を上げた。そして、慌てて「すみません」と謝る。俺はと言うと、「いえ……」なんて、当たり障りのない返事ともつかない言葉を返した。
「あと、橋についてなんですけど、既存のものでない可能性もあるのかなって」
「ああ……それなら私も考えました。ですが、新しく橋を架ける工事もなく……ですが、新しく店ができていたのは把握していませんでした。その店の周囲を調査する必要がありますね」
まあそうかと俺は納得した。橋について、俺が思いついたんだから俺よりも頭の良い人間が思いつかないはずはないか。悔しいようなほっとしたような、そんな感じがする。言いたいことはあらかた伝えただろうか。
(正直、相手をしてくれるかどうかも賭けだったな……)
俺とグレンノルトは、一言で言って非常に気まずい関係だ。俺としては、話すことなんてないと思っていながら、結局こんな風に押しかけてしまったわけだが、追い返される可能性もあるなと考えながらここまで来た。俺だって、グレンノルトに対する態度の悪さは自覚してる。別に、態度を改めるつもりはない。俺はこの人が心の底から嫌いだからだ。
(いや……追い返しはしないか。この人は俺に優しいふりをする)
嫌なことを思い出すのは止めようと、そう思った。用事は終わったんだ、もう帰ろう。予言のことだって、きっと騎士団が調べ対処してくれる。俺ができることは全部やった。紅茶はまだ残っていたけど、アリシアには悪いが飲む気になれなかった。しかし、俺が「帰ります」と言い立ち上がる前に、目の前に座っているグレンノルトが「あの」と話しかけてきた。
「ありがとうございました。あなたのおかげで、見逃していた花屋に気付くことができました」
「……俺だって、たまたま知っただけです」
「それだけじゃありません。私の元まで訪ねてきてくださり……」
「……」
グレンノルトは、口を小さく開閉した後、「先週、馬が誕生しました」と呟いた。仔馬は人間で言う未熟児だったらしい。予言を信じ、団員を配置して居なかったら仔馬の命は危なかったかもしれないと、グレンノルトは話した。
「あなたには話しておきたかった」
グレンノルトはそう言って微笑んだ。ああ! 悔しい悔しい悔しい……俺はこの人間が嫌いなんだ。こいつは最低なやつなんだ。そう分かってはいるのに、心臓は勝手にぎゅうぎゅうと締めつけられた。
「そうですか、失礼します」
俺は振り返らなかった。一刻も早く部屋を出て、グレンノルトの前から去りたかった。
(だっさ……引きずってるのは俺の方じゃん)
無人の廊下はひどく静かだった。俺は出口に向かってフラフラと歩く。しばらくは、誰とも会いたくなかった。
*
彼が部屋から出ていくのを、俺は静かに見ていた。扉が閉まり、部屋の中で一人になってから俺は大きくため息を吐く。やりすぎた……我慢が出来ず、最後に話しかけてしまった。久しぶりに彼と話せて、舞い上がったのか? ティーンか俺は。けれども、欲を言えば___
(花を贈った相手を知りたかった……)
盗み聞きをしようと思ったわけじゃない。トウセイが店員と話していると気付き、店を出ようとしたとき、たまたま聞こえてしまったんだ。
(『お世話になってる人に花を贈りたいんです』……か。誰に贈ったんだろう)
きっと俺の知らない相手だ。そんなことは分かっていた。トウセイが城を出てからもう数カ月が経っている。彼が誰と仲良くしているか、彼がどんな生活をしている俺は何も知らない。グレンノルトは、不思議な感覚だった。ほんの数カ月前は彼のことなら、俺が一番詳しいと思えたのに、今はもう彼のことが何も分からない。
(いや、こんな風に考える資格もないか)
気持ちを切り替えようと、そう思った。彼が教えてくれた、新しい花屋について調べる必要がある。今月も残りわずか、いつ橋ができて火事が起きるか分からない。グレンノルトは息を1つ吐いて立ち上がると、資料室へと向かった。
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