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13 翌朝
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朝、頭痛に顔を歪めながら俺はベッドから起きた。時計を見ると、いつも起きる時間より1時間も遅く起きてしまった。俺はノロノロと立ち上がり、顔を洗う。昨夜は、久しぶりにお酒を飲んだ。マーサはいつもより腕によりをかけて料理を作ったし、ヘンドリックはいつもは飲まない高いお酒を出して一緒に飲んだ。食卓の近くには、花瓶に俺の贈った花が飾られていて、マーサはその花を見るたびに目を潤ませ、ヘンドリックは一際大きな声で笑った。喜ぶ2人の姿を見て、俺も嬉しくなる。美味しい料理に、美味しいお酒……飲みすぎてしまうのは仕方がないことだった。
「おはようございます……」
「ああ、おはよう。酷い顔だなぁ、トウセイ」
ヘンドリックはそう言って、コップに水を入れて渡してくれた。俺はお礼を言ってから受け取る。乾いた喉に、冷たい水は美味しかった。
「すみません、寝坊しちゃって」
「気にすんな、どのみち今日は休みだ」
どうやら、俺ほどではないにしろ、ヘンドリックもいつもより遅く起きてしまったらしい。マーサはいつものように起きれたらしく、すでに出かけていて家にはいなかった。もしかしてこの3人の中で一番お酒に強いのはマーサなのか?
「朝食食べれるか?」
「あ、はい。いただきます」
今日の朝食はクリーム粥だった。ヘンドリックが器に装ってくれる。きっと、マーサが胃に優しいものをと思って作ってくれたんだろう。俺は手を合わせてから、スプーンですくって食べた。濃厚過ぎない、優しい味だ。
「そういえば、マーサさんはどこに出掛けてるんですけ?」
俺は、近くの椅子に座って朝配達されたばかりのペーパーを読んでいるヘンドリックに、そう尋ねた。ヘンドリックが顔を上げる。
「酒場にまで行ってるよ。もう帰ってくる頃かと思うが……」
ヘンドリックがそう言ったとき、丁度店の扉が開いた。紙袋を持ったマーサが「ただいま」と言って入ってくる。マーサは俺と目が合うと、「起きたんだね、おはよう」と言った。
「おはようございます」
「気分はどうかしら? ああそう、帰ってくるとき、道具屋のリサに会ってリンゴを貰ったの。デザートにどう?」
マーサはそう言うと、紙袋からずっしりと重みのある大きなリンゴを取り出した。俺はもちろん、「食べたいです!」と答える。マーサは笑って、「分かった」と言うと、追加でもう1つ紙袋からリンゴを取り出し、皮をむいて皿に盛りつけた。
「あなたもどうぞ」
「ああ」
「そうそう、酒場でね、久しぶりに薬屋の店主と会ったんだけど___」
マーサはそう言って話し始めた。ヘンドリックと2人っきりのときの静かな空気も好きだが、マーサもいるときのこの明るい空気も好きだ。俺は、シャキシャキとした瑞々しいリンゴを食べながらそう思った。
「それでね、リサに会ったんだけど、私、我慢できなくて彼女にも昨日のこと自慢しちゃったの! トウセイが花を贈ってくれたって!」
「明後日にはもう、ここらで花のこと知らない奴はいなくなるんじゃないか?」
ヘンドリックはそう呆れたように言った。マーサは会う人会う人に、昨日贈った花束の話をしたらしい。正直、喜んでもらえて嬉しいような恥ずかしいような、そんな感じだ。
「あら、ごめんなさい。トウセイは嫌かしら?」
「そんなことないですよ」
俺が首を振ってそう伝えると、マーサは「そう? 良かった」と微笑んだ。
「女の子だからかしら? リサったら私の話を聞いて、『トウセイすごい! すてき!』ってすごく喜んでくれて」
「そ、そこまで言われると照れますね……」
「ふふっ、リサ、お花が好きでしょう? それで、自分もお花を売り始めたいんですって。もう準備はしてあるんだけど、私の話を聞いたら俄然やる気が出てきたらしくて___」
俺はマーサの言葉を聞き、自分の表情が引きつるのが分かった。花屋を3店回りながらも、結局予言の店がどれか分からないまま終わってしまった昨日の調査。その最後に、もしや4店目があるのではと考えていたが、まさか、まさか___
「ど、どこでお店を開くとか言っていましたか!?」
俺は思わず、そうマーサに尋ねた。俺が突然大きな声を出したことに、マーサもhんドリックも驚いている。俺は慌てて「すみません……」と謝った。
「そ、そうね……たしか道具屋の隣の空いてるスペースでやるって言ってたけど……」
道具屋……それなら何回も行ったことがある。場所も、周りに何があるかもきちんと覚えていた。
(道具屋の向かいには、水路が通ってた!)
道具屋は町の入り口から城にかけて通っている、大通りの途中にあった。その大通りを挟んだ向こう側には、確か水路が通っていたはずだ。
「トウセイ? どうかしたか?」
「俺……すみません、でかける用事ができました!」
俺はそう言うと、持っていたリンゴを口いっぱいに頬張り、急いで2階へと向かった。今月はあと1週間もない。いつ火事が起きるか分からないんだ。それに加え、俺の行動にリサが触発され、今日にでも花を売ることを始めてしまったら……今日火事が起きる可能性も十分にあった。俺は着替えて上着を羽織ると、不思議がっているマーサたちに「行ってきます!」と挨拶したから店を飛び出した。
「おはようございます……」
「ああ、おはよう。酷い顔だなぁ、トウセイ」
ヘンドリックはそう言って、コップに水を入れて渡してくれた。俺はお礼を言ってから受け取る。乾いた喉に、冷たい水は美味しかった。
「すみません、寝坊しちゃって」
「気にすんな、どのみち今日は休みだ」
どうやら、俺ほどではないにしろ、ヘンドリックもいつもより遅く起きてしまったらしい。マーサはいつものように起きれたらしく、すでに出かけていて家にはいなかった。もしかしてこの3人の中で一番お酒に強いのはマーサなのか?
「朝食食べれるか?」
「あ、はい。いただきます」
今日の朝食はクリーム粥だった。ヘンドリックが器に装ってくれる。きっと、マーサが胃に優しいものをと思って作ってくれたんだろう。俺は手を合わせてから、スプーンですくって食べた。濃厚過ぎない、優しい味だ。
「そういえば、マーサさんはどこに出掛けてるんですけ?」
俺は、近くの椅子に座って朝配達されたばかりのペーパーを読んでいるヘンドリックに、そう尋ねた。ヘンドリックが顔を上げる。
「酒場にまで行ってるよ。もう帰ってくる頃かと思うが……」
ヘンドリックがそう言ったとき、丁度店の扉が開いた。紙袋を持ったマーサが「ただいま」と言って入ってくる。マーサは俺と目が合うと、「起きたんだね、おはよう」と言った。
「おはようございます」
「気分はどうかしら? ああそう、帰ってくるとき、道具屋のリサに会ってリンゴを貰ったの。デザートにどう?」
マーサはそう言うと、紙袋からずっしりと重みのある大きなリンゴを取り出した。俺はもちろん、「食べたいです!」と答える。マーサは笑って、「分かった」と言うと、追加でもう1つ紙袋からリンゴを取り出し、皮をむいて皿に盛りつけた。
「あなたもどうぞ」
「ああ」
「そうそう、酒場でね、久しぶりに薬屋の店主と会ったんだけど___」
マーサはそう言って話し始めた。ヘンドリックと2人っきりのときの静かな空気も好きだが、マーサもいるときのこの明るい空気も好きだ。俺は、シャキシャキとした瑞々しいリンゴを食べながらそう思った。
「それでね、リサに会ったんだけど、私、我慢できなくて彼女にも昨日のこと自慢しちゃったの! トウセイが花を贈ってくれたって!」
「明後日にはもう、ここらで花のこと知らない奴はいなくなるんじゃないか?」
ヘンドリックはそう呆れたように言った。マーサは会う人会う人に、昨日贈った花束の話をしたらしい。正直、喜んでもらえて嬉しいような恥ずかしいような、そんな感じだ。
「あら、ごめんなさい。トウセイは嫌かしら?」
「そんなことないですよ」
俺が首を振ってそう伝えると、マーサは「そう? 良かった」と微笑んだ。
「女の子だからかしら? リサったら私の話を聞いて、『トウセイすごい! すてき!』ってすごく喜んでくれて」
「そ、そこまで言われると照れますね……」
「ふふっ、リサ、お花が好きでしょう? それで、自分もお花を売り始めたいんですって。もう準備はしてあるんだけど、私の話を聞いたら俄然やる気が出てきたらしくて___」
俺はマーサの言葉を聞き、自分の表情が引きつるのが分かった。花屋を3店回りながらも、結局予言の店がどれか分からないまま終わってしまった昨日の調査。その最後に、もしや4店目があるのではと考えていたが、まさか、まさか___
「ど、どこでお店を開くとか言っていましたか!?」
俺は思わず、そうマーサに尋ねた。俺が突然大きな声を出したことに、マーサもhんドリックも驚いている。俺は慌てて「すみません……」と謝った。
「そ、そうね……たしか道具屋の隣の空いてるスペースでやるって言ってたけど……」
道具屋……それなら何回も行ったことがある。場所も、周りに何があるかもきちんと覚えていた。
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「トウセイ? どうかしたか?」
「俺……すみません、でかける用事ができました!」
俺はそう言うと、持っていたリンゴを口いっぱいに頬張り、急いで2階へと向かった。今月はあと1週間もない。いつ火事が起きるか分からないんだ。それに加え、俺の行動にリサが触発され、今日にでも花を売ることを始めてしまったら……今日火事が起きる可能性も十分にあった。俺は着替えて上着を羽織ると、不思議がっているマーサたちに「行ってきます!」と挨拶したから店を飛び出した。
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