異世界に召喚され生活してるのだが、仕事のたびに元カレと会うのツラい

だいず

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1 魔女のお茶会

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「あなたなんて信用出来ない! もう俺に話しかけるな!」
 
 ある恋の終わりに一人の男が泣いていた。
 魔女が月に願い、騎士が自分の行いを呪った。
 全員が少しずつ間違い、それでも誰かのために優しくあろうと悩み、歩き続けた。

 これは、二人の人間が過去のしがらみを断ち切り、ハッピーエンドを迎えるまでの話である。



 俺の名前は宇久田 冬晴。ある日、異世界へと飛ばされた転移者だ。すでにこの世界にきてから数カ月が経っているが、今でも自分は長い夢を見ているだけなんじゃないかと錯覚するときがある。この世界で眠るたびに、次起きたときは、自分が一人暮らしをしていた大学近くのアパートで目覚めるんじゃないか……そんな淡い思いを抱きながら俺はこの世界で変わりのない日々を過ごしていた。
 ガタっと馬車が揺れ、動きが止まった。目的地へと到着したようだ。いつもと変わらず、同乗者も俺も、何も話さなかった。俺が座席から立ち上がると、丁度よく馬車の扉が外から開けられた。

「トウセイ様。魔女の森に到着いたしました」
「はい。いつも通り、1時間ほど行ってきます。あまりにも遅いようでしたら、城の方に戻っていいですからね」

 俺の言葉に御者は帽子を取って、「いえいえ、お待ちしますよ」と困ったように笑った。まあ、戻って良いと言われて、はいそうですかと戻れるわけないか。彼の立場を考えながらも、前回は1時間と30分ほど彼らを待たせてしまったことを思い出す。結局は、俺の仕事がうまくいくかにかかっているんだ。彼らを待たせないためにも、きちんと仕事をしようと俺は思った。馬車から降りて、草を踏みしめる。さあ行くかと思ったとき、ガチャガチャと背後で音が鳴った。

「っ、あ___」
「それじゃあ、行ってきますね」

 音の正体は同乗者の着ている鎧がぶつかる音だった。思わず振り返ったせいで彼と視線がぶつかる。彼の青い瞳が驚きで揺れるのが分かった。けれども俺は、すぐに視線を逸らし森の奥へと歩いて行く。視線を逸らす瞬間、彼が傷ついたような顔をしていた気がして無性に腹が立った。

 *

「来ましたね。いらっしゃい、トウセイ。今日はどんなお話をしてくれるんですか?」
「こんにちは、魔女様。話もしますけど、まずは予言ですよ」
「ああ、少し前は私を怖がってなんでも言う通りにしてくれたのに……あなたは、今ではすっかり私に意見するようになりました……」
「森の外で人が待ってるんです。あなたの言う通り、予言を後回しにすると全然帰れないんですよ!」

 魔女はわざとらしく「うふふ」と笑うと、紅茶とクッキーの用意された椅子に座るよう、俺を促した。魔女と知り合ってしばらくたつが、彼女と話しているとまるで彼女の手の平の上で踊らされている感覚に陥る。きっと今日だって予言は後回しにされて、俺が先に話すことになるんだろう。俺は魔女に聞こえるようにため息を吐くと、用意された椅子に座った。
 転移者の仕事、それは月の初めに魔女とお茶会をすることだった。もちろん楽しいおしゃべりが目的のただのお茶会ではない。お茶会の目的は、魔女の予言を聞くことだった。この先1か月の間、国にどんなことが起きるのか、良いことであれ悪いことであれ、占った結果を教えてもらう。魔女がお茶会を始めてから、つまり予言を始めてから百年は経っているらしいが、今のところその予言は外れたことがないらしい。途方もない年月だ。本当かどうか疑いたくなるが、この国の人の反応を見るに、多分本当なんだろう。自分のいた世界では、魔女の存在なんて作り話の中にしかなかったし、予言なんて外れるのが普通だった。正直世界の滅亡とか「〇〇年に△△が起きる」なんて話、信じる人はいるのかと俺は不思議だった。けれどもこの世界には、魔女は存在するし予言は信じて当たり前の絶対のものだ。流石異世界、俺が十数年かけて育ててきた常識なんて吹けば飛ぶように儚いものか……俺が感慨に浸っていると、魔女が「トウセイ」と俺の名前を呼んだ。

「今日は何について話すのですか?」
「そうですね……先月は流行ってた音楽の話をしたから、今月は流行ってた食べ物の話をしますか」
「いいですね! ニッポンはわざわざ毒のある魚を食べたり、1種類の豆から数多くの調味料や料理を作ったりと、不思議が多いです」
「フグと大豆ですね。えっと、まずお話しするのはタピオカと言う飲み物です。日本発祥のものではないんですけど___」

 お茶会では、転移者が自分のいた世界について話す。これが、魔女の決めたルールだった。魔女は途方もなく長生きだ。この世界のことならほとんどすべて知っている。そんな彼女の、知りたいという好奇心を満たすために、転移者は自分の世界について語ることを求められた。いくら魔女と言えど、異世界に関する知識はない。1か月分の予言と引き換えに、俺は自分の世界について話した。何でも知ってる魔女にとっては初めて聞くことばかりで、俺にとっては自分の生活のすぐ横にあったものたちの話。お茶会のこの時間は、俺のいた世界を思い出す時間でもあったから、寂しい気持ちになることは多かった。その気持ちを、誰にも伝える気はないけど。

「なるほど。飲んでみたいですね、タピオカ」
「この世界に似た飲み物はないんですか?」
「果肉を使ったジュースなどはありますが、もちもちと触感を楽しむものが入っている飲み物は流石に……けれども作れそうな気もします。今度のお茶会で用意しておきましょうか?」
「あはは、いいですね。楽しみです」

 タピオカは、俺が高校生の時が一番のブームだった。クラスの女子が、駅前に店ができた、あの店のものはおいしい、いや普通だと騒いでいたのを覚えている。俺と言えば、タピオカにそこまで興味が湧かなくて、飲んだことも1度あるか無いか……そんな人間が異世界でタピオカを楽しむことになるとは不思議なものだ。時計を確認するとそれなりの時間が過ぎていた。そろそろ予言を教えてもらうか。

「魔女様。予言の方を聞かせてもらってもいいですか?」

 俺がそう尋ねると、魔女はくるんとした睫毛を震わせ、ゆっくりとまばたきをして「ええ、もちろん」と微笑んだ。
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