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プロローグ
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高校入学の直前、そいつは俺の夢の中に突然現れた。
「私はあなたのご先祖様よ。自分の子孫を見守っていたら、私の先祖返りが現れたじゃない。アドバイスに来ちゃった……なにポカンとしてるの?」
そいつは、見た目からして可笑しかった。まず羽が生えている。蝙蝠みたいな羽だ。そして、耳も尖っている。悪魔みたいな尻尾も生えていた。服装も、なんと言えばいいのか……あえて表現するなら、かなり際どい水着? いや下着か? とにかく、子どもには見せられない格好だった。
「これは夢か」
「そうよ、夢よ」
そいつはにこりと微笑んだ。不思議と、一ミリもドキリとしない。そういえば彼女の格好を見ても、「うわぁ……」と思うだけで、エロいなとは思わなかった。
「言っておくけど、サキュバスの色香は身内には効かないの。私に魅力がないとか、そういうことじゃないから」
思考を読まれた。何でだろう、顔に出ていたのかな。ニコニコしているそいつを見ながら、そんなことを考えていたら、自分がある言葉を危うく流しかけていることに気づいた。
「さ、サキュバス……?」
「そうよ。サキュバス。私と、そしてあなた♡」
そう言って、そいつは俺を指さした。子供の悪戯が成功したときに見せるような、嬉しそうな顔だった。
「先祖返りって知ってるかしら?」
その言葉から始まったそいつの説明を聞き、俺は頭を抱えた。曰く、俺は彼女の遠い遠い子孫らしい。自分は蒸気機関車が初めて走るのを見たと自慢されたが、本当かどうかは分からない。というか、興味がない。とにかく、彼女は俺の祖先で、そしてサキュバスであった。そして、俺が先祖返り、つまりサキュバスになってしまったと、そういうことだった。
「大変よ~サキュバス。精子もらえなくちゃ、お腹へって死にそうになるの。お腹が減るとね、勝手に色香が出て、周りの男誘惑しちゃって。まあ、私は結構早くダーリン見つけたから、彼から貰ってたけど」
そいつは、話の内容がまるで重要じゃないみたいな、いかにも気の抜けた話し方をした。俺はずっと混乱しっぱなしだ。でも、このまま彼女の話を「へえそうですか」と聞くわけにもいかず、何か反論がしたかった。
「で、でも! 今まで生活してきて、そんな、お腹が減ることなかった!」
「今発現したのよ。あなたは、昨日までは人間。明日からはサキュバス……けど、見た目は変わらないみたいね。これじゃあ、半サキュバスってとこかしら」
サキュバスだろうが、半サキュバスだろうが、どっちでもいい。俺は自分を落ち着かせるために、大きく息を吸って吐いた。
「それじゃあ、子孫クン。何か聞きたいことは?」
「……まずはその、色香ってなに?」
「男を誘う香りよ。いくらエロくて可愛くてもね、手を出さない男だっているわ。紳士的で良いことね。でも、サキュバスは手を出されなきゃ死んじゃうの。だから、そんな男の理性を溶かしてぐちゃぐちゃにして、発情させて、獣みたいにしちゃう。それがサキュバスの色香よ」
「俺、男なんだけど」
「それは知らないわよ。もしかしたら、世界初かもね。男のサキュバス」
「その、精子を貰うって……」
「セックスよセックス。飲んだり、中に出してもらったり、とにかく相手の精液を」
「あーー!!! もういい、もう充分です!」
俺は肩ではあはあと息をした。なぜだかどっと疲れた。ご先祖様はじっと俺を見た後、不意にほほ笑んだ。
「多分、唾液とか汗とか、体液で大丈夫よ。回数もきっと少なくて済むはずだわ。私は週に1回は、誰かと身体を重ねなくちゃいけなかったけど、それより軽く済むわよ」
「体液なんて、どうやって他人からもらうんだよ……」
気づくと周りが薄らと明るくなってきていた。彼女は周りを見渡して、「起きるのね」と呟いた。
「おへその下に淫紋が出たら気をつけなさい。色香が出て、男であるならだれでも構わずに誘惑するようになるわ。それじゃあ、まあ、頑張りなさい」
きっと、彼女は誰かに強制されてこの場に来たわけではないのだろう。自分の先祖返りをした子孫を態々訪ねて、アドバイスをしたのは彼女の善意、おせっかいと言えた。世界が白い光に包まれる。俺は目を覚ますその瞬間、光の向こうで彼女が優しく笑って手を振っているのが見えた気がした。
彼女は知っていることをすべて夢の中で俺に話してくれた。彼女のアドバイスがなかったら、きっと俺は今よりも大変なことになっていただろう。ただ惜しむなら。
男に作用するサキュバスの色香が、性別男である元人間、つまり俺に効く可能性を教えて欲しかった。
「私はあなたのご先祖様よ。自分の子孫を見守っていたら、私の先祖返りが現れたじゃない。アドバイスに来ちゃった……なにポカンとしてるの?」
そいつは、見た目からして可笑しかった。まず羽が生えている。蝙蝠みたいな羽だ。そして、耳も尖っている。悪魔みたいな尻尾も生えていた。服装も、なんと言えばいいのか……あえて表現するなら、かなり際どい水着? いや下着か? とにかく、子どもには見せられない格好だった。
「これは夢か」
「そうよ、夢よ」
そいつはにこりと微笑んだ。不思議と、一ミリもドキリとしない。そういえば彼女の格好を見ても、「うわぁ……」と思うだけで、エロいなとは思わなかった。
「言っておくけど、サキュバスの色香は身内には効かないの。私に魅力がないとか、そういうことじゃないから」
思考を読まれた。何でだろう、顔に出ていたのかな。ニコニコしているそいつを見ながら、そんなことを考えていたら、自分がある言葉を危うく流しかけていることに気づいた。
「さ、サキュバス……?」
「そうよ。サキュバス。私と、そしてあなた♡」
そう言って、そいつは俺を指さした。子供の悪戯が成功したときに見せるような、嬉しそうな顔だった。
「先祖返りって知ってるかしら?」
その言葉から始まったそいつの説明を聞き、俺は頭を抱えた。曰く、俺は彼女の遠い遠い子孫らしい。自分は蒸気機関車が初めて走るのを見たと自慢されたが、本当かどうかは分からない。というか、興味がない。とにかく、彼女は俺の祖先で、そしてサキュバスであった。そして、俺が先祖返り、つまりサキュバスになってしまったと、そういうことだった。
「大変よ~サキュバス。精子もらえなくちゃ、お腹へって死にそうになるの。お腹が減るとね、勝手に色香が出て、周りの男誘惑しちゃって。まあ、私は結構早くダーリン見つけたから、彼から貰ってたけど」
そいつは、話の内容がまるで重要じゃないみたいな、いかにも気の抜けた話し方をした。俺はずっと混乱しっぱなしだ。でも、このまま彼女の話を「へえそうですか」と聞くわけにもいかず、何か反論がしたかった。
「で、でも! 今まで生活してきて、そんな、お腹が減ることなかった!」
「今発現したのよ。あなたは、昨日までは人間。明日からはサキュバス……けど、見た目は変わらないみたいね。これじゃあ、半サキュバスってとこかしら」
サキュバスだろうが、半サキュバスだろうが、どっちでもいい。俺は自分を落ち着かせるために、大きく息を吸って吐いた。
「それじゃあ、子孫クン。何か聞きたいことは?」
「……まずはその、色香ってなに?」
「男を誘う香りよ。いくらエロくて可愛くてもね、手を出さない男だっているわ。紳士的で良いことね。でも、サキュバスは手を出されなきゃ死んじゃうの。だから、そんな男の理性を溶かしてぐちゃぐちゃにして、発情させて、獣みたいにしちゃう。それがサキュバスの色香よ」
「俺、男なんだけど」
「それは知らないわよ。もしかしたら、世界初かもね。男のサキュバス」
「その、精子を貰うって……」
「セックスよセックス。飲んだり、中に出してもらったり、とにかく相手の精液を」
「あーー!!! もういい、もう充分です!」
俺は肩ではあはあと息をした。なぜだかどっと疲れた。ご先祖様はじっと俺を見た後、不意にほほ笑んだ。
「多分、唾液とか汗とか、体液で大丈夫よ。回数もきっと少なくて済むはずだわ。私は週に1回は、誰かと身体を重ねなくちゃいけなかったけど、それより軽く済むわよ」
「体液なんて、どうやって他人からもらうんだよ……」
気づくと周りが薄らと明るくなってきていた。彼女は周りを見渡して、「起きるのね」と呟いた。
「おへその下に淫紋が出たら気をつけなさい。色香が出て、男であるならだれでも構わずに誘惑するようになるわ。それじゃあ、まあ、頑張りなさい」
きっと、彼女は誰かに強制されてこの場に来たわけではないのだろう。自分の先祖返りをした子孫を態々訪ねて、アドバイスをしたのは彼女の善意、おせっかいと言えた。世界が白い光に包まれる。俺は目を覚ますその瞬間、光の向こうで彼女が優しく笑って手を振っているのが見えた気がした。
彼女は知っていることをすべて夢の中で俺に話してくれた。彼女のアドバイスがなかったら、きっと俺は今よりも大変なことになっていただろう。ただ惜しむなら。
男に作用するサキュバスの色香が、性別男である元人間、つまり俺に効く可能性を教えて欲しかった。
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