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第5話
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映像が乱れる。だが、すぐに地球の青空が映し出された。映像はゆっくりと動き出し、そこがビルの屋上だと分かる。しかしすぐに場面が変わり、上からの視点で猫カフェに入店する彼女ら三人を映しだした。
「貴様らは本当にしつこいのぅ」
間延びした声と鋭い音が聞こえた瞬間、青空が回転して映像が途切れた。驚いて空に浮くモニターを操作するが、真っ黒な状態で何も映らない。しばらく操作をし、笑顔でやめた。1日にカメラが2度も破壊されるのは何時ぶりだろうか。ワクワクが止まらない。
「面白くなってきた…さあ、もっと見せてちょうだい」
映像が途絶えても、すぐに続きは映る。何故なら、カメラは沢山あるのだから。そうして、モニターが映ると猫カフェ店内の映像だった。画角もバッチリの位置にある。物語の続きが見れることに微笑みつつ、かの者は甘く淡い光の玉を食べるのだった。
通い慣れたこの猫カフェで、彼女――藤田このみは己を知ることになる。
彼女ら三人が来店した時には、猫カフェはclosedとなっていた。しかし、店長である山下恵に奥へ案内されて、三人は向かい合って座っている。猫たちはいない。と、思ったらお福さんが膝に乗ってきた。お福さんは彼女の顔に鼻を近づけて匂いを嗅ぐと、ごろんとして毛繕いを始めている。その様子を眺めていると、黒髪の青年が話し出した。
「とりあえず、自己紹介をさせてもらう。俺は吉田誠。で、こいつは津田一だ」
「よろしくな!」
「あ…藤田このみです」
彼女はぺこりとお辞儀をした。垂れた髪にお福さんがイタズラをする。彼女がお福さんと戯れていても、吉田は話しを続けた。
「ここで出会ってから分かる通り、俺たちは君の事を既に知っていた。知っていて、護衛をしていたんだ」
「護衛?」
「そうだ。俺たちは君を襲った化け物――怪物と言われている存在と戦う組織に所属している。ある人の情報で君を調査した結果、今日から君を護衛する事になったんだ」
「そう、なんですか…」
お福さんが立ち上がり、伸びをして彼女の膝に座り直した。
「君が自分自身をどれくらい知っているかしらないが、日常生活で恐ろしい目に合っていただろう?それらは全て夢じゃない。現実に起こったことだ」
夢ではなく現実。彼女はフラッシュバックのように思い出した。死の感覚が襲い来る。
「うにゃ~ん」
不意にお福さんが鳴いた。ハッとして彼女がお福さんを見ると、目を瞑って尻尾をぶんぶんと振っている。吉田は更に話しを続けた。
「はっきり言って、君が怪物に襲われて何故死なないのかはまだ分かっていない。ただ、君が怪物にとって餌と認識されているのは確かだ。だから」
「餌とはなんじゃ。もっとマシな言い方をせんか、小僧」
カッと目を見開いてお福さんは言った。――言った。喋った。言語を、猫が。
「全く……戦闘の腕は確かなようじゃが、配慮がなっとらんのう」
やれやれと首を振って、お福さんはテーブルに乗った。吉田が呟く。
「猫又、ですか?」
「猫又ぁ!?妖怪のぉ!!?」
驚いて固まっていた津田が勢いよく立ち上がった。
「すげぇ!お福さんって妖怪なの!?俺、妖怪始めて見たぁ!!」
津田は子供のようにキラッキラの眼差しでお福さんを見ている。純粋な眼差しを向けられて、お福さんは満更でもなさそうだ。
「こらこらっお主、一と言ったか?まだ話の途中じゃ。あとで遊んでやるからほれ、座るがよい。で、小僧は誠と言ったか?」
「…はい」
「我もあまり上手い言い方はできぬが、もう少しオブラ~トに言ってもいいと思うんじゃよ。このみが辛いじゃろうて」
「――彼女は他に例を見ない特殊な人です。認識をしっかりと話しをした方がいいと思ったのですが……そうですね」
吉田が彼女に向き直り、頭を下げた。
「配慮が足りなかった。すまない、藤田さん。――藤田さん?」
彼女からの返事がない。吉田が顔を上げると、お福さんを見て固まっている彼女がいた。
「キャパオーバーじゃな」
「あ~、見事に固まってますね」
「一、気づいてたんなら教えてくれ」
「すんません。俺もお福さんをずっと見てました」
「やれやれ、じゃ」
お福さんは後ろ足で立つと、彼女の頭をポンポンッと優しくリズミカルに叩き出した。
「ほれほれ、気をしっかり保つんじゃ。話しはまだまだ続くぞ~ほっほっほっ」
「ハッ!?――あ?ああ…お福さん」
「そうじゃ。お福じゃ」
彼女の意識が戻ったところで、お福さんは腰に手を当てて胸を張った。
「とりあえず、我は妖怪の猫又『お福』である。言語の理解も喋れるのも猫又だからと理解するのじゃ。分かったな、このみ」
「えっ?あ、うん……はっはい、分かりました――?」
疑問が残る言い方になってしまっているが、とりあえずの理解を彼女は示した。それに満足して、お福さんは尻尾を振った。すると、コーヒーの香りが漂ってくる。店長が木のお盆に全員分のコーヒーを淹れてきてくれた。
「お待たせしてごめんなさいね。はい、飲み物をどうぞ」
店長は手際良くコーヒーを並べて席についた。もちろん、彼女にはカフェオレである。お福さんが言った。
「遅かったのぅ……何かあったか?」
「ああ、大丈夫よ。明日の来店予約の電話があって、対応してたら遅くなっちゃったの」
「なるほどなるほど。商売繁盛、良きかな良きかな」
「とっても有難いわ~!――ところで、ことみちゃん吃驚したでしょ?お福さんがお喋り出来るだなんて」
和かに話しかける店長に、彼女は呆けながら答えた。
「はっはい。吃驚しました……えっと、猫又さん??」
「むぅ……そんな他人行儀にならんでおくれ。猫又と言えど、もう隠居の身。ここで子猫らの世話をしてまったり猫生を満喫しておるんじゃよ。そう固くならんと、いつも通りお福と呼んで、いつも通りに撫でておくれ」
そう言って、お福さんは彼女の手に頭を擦り寄せた。その仕草は正に甘え上手な猫である。彼女は頬を緩めてお福さんを撫でまくった。
「それで、このみちゃんにはどこまで話しをしたの?」
「それが肝心なところはまだ……」
「我が横槍入れたからのぅ。ほとんど覚えていないじゃろうて。それに恵も来たことだし、最初から話した方が良い。そうじゃろ、ことみ」
「う……確かに、話が全然頭に入ってないです」
「仕方ないわ……非現実な話だもの。でも、現実の話だからしっかりと聞いてほしい。大丈夫。ここにいる私たちはことみちゃん、貴方の味方よ」
吉田も津田も、お福さんも店長と同じくしっかりと彼女を見ていた。眼差しが暖かい。彼女は少し気持ちが落ち着いた。
「はい……話をよろしくお願いします」
店長が吉田を見て頷いた。吉田は頷くと、ゆっくりと話し出したのだった。
「貴様らは本当にしつこいのぅ」
間延びした声と鋭い音が聞こえた瞬間、青空が回転して映像が途切れた。驚いて空に浮くモニターを操作するが、真っ黒な状態で何も映らない。しばらく操作をし、笑顔でやめた。1日にカメラが2度も破壊されるのは何時ぶりだろうか。ワクワクが止まらない。
「面白くなってきた…さあ、もっと見せてちょうだい」
映像が途絶えても、すぐに続きは映る。何故なら、カメラは沢山あるのだから。そうして、モニターが映ると猫カフェ店内の映像だった。画角もバッチリの位置にある。物語の続きが見れることに微笑みつつ、かの者は甘く淡い光の玉を食べるのだった。
通い慣れたこの猫カフェで、彼女――藤田このみは己を知ることになる。
彼女ら三人が来店した時には、猫カフェはclosedとなっていた。しかし、店長である山下恵に奥へ案内されて、三人は向かい合って座っている。猫たちはいない。と、思ったらお福さんが膝に乗ってきた。お福さんは彼女の顔に鼻を近づけて匂いを嗅ぐと、ごろんとして毛繕いを始めている。その様子を眺めていると、黒髪の青年が話し出した。
「とりあえず、自己紹介をさせてもらう。俺は吉田誠。で、こいつは津田一だ」
「よろしくな!」
「あ…藤田このみです」
彼女はぺこりとお辞儀をした。垂れた髪にお福さんがイタズラをする。彼女がお福さんと戯れていても、吉田は話しを続けた。
「ここで出会ってから分かる通り、俺たちは君の事を既に知っていた。知っていて、護衛をしていたんだ」
「護衛?」
「そうだ。俺たちは君を襲った化け物――怪物と言われている存在と戦う組織に所属している。ある人の情報で君を調査した結果、今日から君を護衛する事になったんだ」
「そう、なんですか…」
お福さんが立ち上がり、伸びをして彼女の膝に座り直した。
「君が自分自身をどれくらい知っているかしらないが、日常生活で恐ろしい目に合っていただろう?それらは全て夢じゃない。現実に起こったことだ」
夢ではなく現実。彼女はフラッシュバックのように思い出した。死の感覚が襲い来る。
「うにゃ~ん」
不意にお福さんが鳴いた。ハッとして彼女がお福さんを見ると、目を瞑って尻尾をぶんぶんと振っている。吉田は更に話しを続けた。
「はっきり言って、君が怪物に襲われて何故死なないのかはまだ分かっていない。ただ、君が怪物にとって餌と認識されているのは確かだ。だから」
「餌とはなんじゃ。もっとマシな言い方をせんか、小僧」
カッと目を見開いてお福さんは言った。――言った。喋った。言語を、猫が。
「全く……戦闘の腕は確かなようじゃが、配慮がなっとらんのう」
やれやれと首を振って、お福さんはテーブルに乗った。吉田が呟く。
「猫又、ですか?」
「猫又ぁ!?妖怪のぉ!!?」
驚いて固まっていた津田が勢いよく立ち上がった。
「すげぇ!お福さんって妖怪なの!?俺、妖怪始めて見たぁ!!」
津田は子供のようにキラッキラの眼差しでお福さんを見ている。純粋な眼差しを向けられて、お福さんは満更でもなさそうだ。
「こらこらっお主、一と言ったか?まだ話の途中じゃ。あとで遊んでやるからほれ、座るがよい。で、小僧は誠と言ったか?」
「…はい」
「我もあまり上手い言い方はできぬが、もう少しオブラ~トに言ってもいいと思うんじゃよ。このみが辛いじゃろうて」
「――彼女は他に例を見ない特殊な人です。認識をしっかりと話しをした方がいいと思ったのですが……そうですね」
吉田が彼女に向き直り、頭を下げた。
「配慮が足りなかった。すまない、藤田さん。――藤田さん?」
彼女からの返事がない。吉田が顔を上げると、お福さんを見て固まっている彼女がいた。
「キャパオーバーじゃな」
「あ~、見事に固まってますね」
「一、気づいてたんなら教えてくれ」
「すんません。俺もお福さんをずっと見てました」
「やれやれ、じゃ」
お福さんは後ろ足で立つと、彼女の頭をポンポンッと優しくリズミカルに叩き出した。
「ほれほれ、気をしっかり保つんじゃ。話しはまだまだ続くぞ~ほっほっほっ」
「ハッ!?――あ?ああ…お福さん」
「そうじゃ。お福じゃ」
彼女の意識が戻ったところで、お福さんは腰に手を当てて胸を張った。
「とりあえず、我は妖怪の猫又『お福』である。言語の理解も喋れるのも猫又だからと理解するのじゃ。分かったな、このみ」
「えっ?あ、うん……はっはい、分かりました――?」
疑問が残る言い方になってしまっているが、とりあえずの理解を彼女は示した。それに満足して、お福さんは尻尾を振った。すると、コーヒーの香りが漂ってくる。店長が木のお盆に全員分のコーヒーを淹れてきてくれた。
「お待たせしてごめんなさいね。はい、飲み物をどうぞ」
店長は手際良くコーヒーを並べて席についた。もちろん、彼女にはカフェオレである。お福さんが言った。
「遅かったのぅ……何かあったか?」
「ああ、大丈夫よ。明日の来店予約の電話があって、対応してたら遅くなっちゃったの」
「なるほどなるほど。商売繁盛、良きかな良きかな」
「とっても有難いわ~!――ところで、ことみちゃん吃驚したでしょ?お福さんがお喋り出来るだなんて」
和かに話しかける店長に、彼女は呆けながら答えた。
「はっはい。吃驚しました……えっと、猫又さん??」
「むぅ……そんな他人行儀にならんでおくれ。猫又と言えど、もう隠居の身。ここで子猫らの世話をしてまったり猫生を満喫しておるんじゃよ。そう固くならんと、いつも通りお福と呼んで、いつも通りに撫でておくれ」
そう言って、お福さんは彼女の手に頭を擦り寄せた。その仕草は正に甘え上手な猫である。彼女は頬を緩めてお福さんを撫でまくった。
「それで、このみちゃんにはどこまで話しをしたの?」
「それが肝心なところはまだ……」
「我が横槍入れたからのぅ。ほとんど覚えていないじゃろうて。それに恵も来たことだし、最初から話した方が良い。そうじゃろ、ことみ」
「う……確かに、話が全然頭に入ってないです」
「仕方ないわ……非現実な話だもの。でも、現実の話だからしっかりと聞いてほしい。大丈夫。ここにいる私たちはことみちゃん、貴方の味方よ」
吉田も津田も、お福さんも店長と同じくしっかりと彼女を見ていた。眼差しが暖かい。彼女は少し気持ちが落ち着いた。
「はい……話をよろしくお願いします」
店長が吉田を見て頷いた。吉田は頷くと、ゆっくりと話し出したのだった。
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