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プロローグ
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「地球は青かった」
とても有名で、宇宙から見た地球を表現した言葉である。いつ聞いてもシンプルで、中々良い言葉だ。そう微笑み、今日も窓越しの丸い青を見る。
今は夜。指を鳴らして、やはり、今日も彼女を見ることにした。
月夜の下、茶色の髪を前に三つ編みをした女性――藤田このみは急いでいた。手提げバッグとエコバッグの紐を握り締め、時々通る車に気をつけつつ颯爽と歩く。簡素な住宅街を足早に歩くのは怖いからに他ならない。そして、怖いからこそ彼女は考える。
『いつもなら寝坊しないのに』とか、『久々にアクセサリーの材料を買いに行くから絶対に帰るのが遅くなる』とか、『あのパーツを組み合わせたら可愛いのでは?』とか、『次はあのお店も行ってみたいなぁ』とか、『あれも買った方が良かったのでは?』とか、『今日猫カフェいけなかったぁ』とか、止めどなく考えを巡らせた。正にどうでも良い事である。
さて、この角を曲がればもう家に着く。左右に気をつけて曲がれば一際明るい街灯があった。その明るさで少しの安心感が彼女に生まれる、はずだった。
「――猫?」
そう言って、彼女は立ち止まる。
視線の先の明るい街灯の下、足先が白色の黒いネコが座っていた。夜の空をじいっと見ている。
「猫……――いや、ネコ」
ぼんやりと彼女が呟いた。
彼女の言葉にネコの耳が動く。ネコがゆっくりと彼女を見た。街灯の下でもネコの瞳は綺麗なアンバーの色と分かる。しかし、『見られている』ことが彼女には分かっているのだろう。彼女は心臓が激しく脈打っているようで、胸に手をやり服を握りしめていた。
「…帰らないと」
呼吸を整えて、彼女は一歩を踏み出した。
カシャリッ。
音が聞こえて、強い光を感じた彼女はキツく目を閉じる。光が目に染みる感覚に手で目元を押さえた。頭を振り、ゆっくりと目を開けると、ネコはもういなかった。代わりに、ひたっ…ひたっ…と背後で音がする。急いで振り返るが何もいない。そう思ったのも束の間、急に辺りが暗くなった。街灯があるのに何故?と彼女が前を向くと――。
映像はそこで途切れたのだった。
とても有名で、宇宙から見た地球を表現した言葉である。いつ聞いてもシンプルで、中々良い言葉だ。そう微笑み、今日も窓越しの丸い青を見る。
今は夜。指を鳴らして、やはり、今日も彼女を見ることにした。
月夜の下、茶色の髪を前に三つ編みをした女性――藤田このみは急いでいた。手提げバッグとエコバッグの紐を握り締め、時々通る車に気をつけつつ颯爽と歩く。簡素な住宅街を足早に歩くのは怖いからに他ならない。そして、怖いからこそ彼女は考える。
『いつもなら寝坊しないのに』とか、『久々にアクセサリーの材料を買いに行くから絶対に帰るのが遅くなる』とか、『あのパーツを組み合わせたら可愛いのでは?』とか、『次はあのお店も行ってみたいなぁ』とか、『あれも買った方が良かったのでは?』とか、『今日猫カフェいけなかったぁ』とか、止めどなく考えを巡らせた。正にどうでも良い事である。
さて、この角を曲がればもう家に着く。左右に気をつけて曲がれば一際明るい街灯があった。その明るさで少しの安心感が彼女に生まれる、はずだった。
「――猫?」
そう言って、彼女は立ち止まる。
視線の先の明るい街灯の下、足先が白色の黒いネコが座っていた。夜の空をじいっと見ている。
「猫……――いや、ネコ」
ぼんやりと彼女が呟いた。
彼女の言葉にネコの耳が動く。ネコがゆっくりと彼女を見た。街灯の下でもネコの瞳は綺麗なアンバーの色と分かる。しかし、『見られている』ことが彼女には分かっているのだろう。彼女は心臓が激しく脈打っているようで、胸に手をやり服を握りしめていた。
「…帰らないと」
呼吸を整えて、彼女は一歩を踏み出した。
カシャリッ。
音が聞こえて、強い光を感じた彼女はキツく目を閉じる。光が目に染みる感覚に手で目元を押さえた。頭を振り、ゆっくりと目を開けると、ネコはもういなかった。代わりに、ひたっ…ひたっ…と背後で音がする。急いで振り返るが何もいない。そう思ったのも束の間、急に辺りが暗くなった。街灯があるのに何故?と彼女が前を向くと――。
映像はそこで途切れたのだった。
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