1 / 10
プロローグ
しおりを挟む
「地球は青かった」
とても有名で、宇宙から見た地球を表現した言葉である。いつ聞いてもシンプルで、中々良い言葉だ。そう微笑み、今日も窓越しの丸い青を見る。
今は夜。指を鳴らして、やはり、今日も彼女を見ることにした。
月夜の下、茶色の髪を前に三つ編みをした女性――藤田このみは急いでいた。手提げバッグとエコバッグの紐を握り締め、時々通る車に気をつけつつ颯爽と歩く。簡素な住宅街を足早に歩くのは怖いからに他ならない。そして、怖いからこそ彼女は考える。
『いつもなら寝坊しないのに』とか、『久々にアクセサリーの材料を買いに行くから絶対に帰るのが遅くなる』とか、『あのパーツを組み合わせたら可愛いのでは?』とか、『次はあのお店も行ってみたいなぁ』とか、『あれも買った方が良かったのでは?』とか、『今日猫カフェいけなかったぁ』とか、止めどなく考えを巡らせた。正にどうでも良い事である。
さて、この角を曲がればもう家に着く。左右に気をつけて曲がれば一際明るい街灯があった。その明るさで少しの安心感が彼女に生まれる、はずだった。
「――猫?」
そう言って、彼女は立ち止まる。
視線の先の明るい街灯の下、足先が白色の黒いネコが座っていた。夜の空をじいっと見ている。
「猫……――いや、ネコ」
ぼんやりと彼女が呟いた。
彼女の言葉にネコの耳が動く。ネコがゆっくりと彼女を見た。街灯の下でもネコの瞳は綺麗なアンバーの色と分かる。しかし、『見られている』ことが彼女には分かっているのだろう。彼女は心臓が激しく脈打っているようで、胸に手をやり服を握りしめていた。
「…帰らないと」
呼吸を整えて、彼女は一歩を踏み出した。
カシャリッ。
音が聞こえて、強い光を感じた彼女はキツく目を閉じる。光が目に染みる感覚に手で目元を押さえた。頭を振り、ゆっくりと目を開けると、ネコはもういなかった。代わりに、ひたっ…ひたっ…と背後で音がする。急いで振り返るが何もいない。そう思ったのも束の間、急に辺りが暗くなった。街灯があるのに何故?と彼女が前を向くと――。
映像はそこで途切れたのだった。
とても有名で、宇宙から見た地球を表現した言葉である。いつ聞いてもシンプルで、中々良い言葉だ。そう微笑み、今日も窓越しの丸い青を見る。
今は夜。指を鳴らして、やはり、今日も彼女を見ることにした。
月夜の下、茶色の髪を前に三つ編みをした女性――藤田このみは急いでいた。手提げバッグとエコバッグの紐を握り締め、時々通る車に気をつけつつ颯爽と歩く。簡素な住宅街を足早に歩くのは怖いからに他ならない。そして、怖いからこそ彼女は考える。
『いつもなら寝坊しないのに』とか、『久々にアクセサリーの材料を買いに行くから絶対に帰るのが遅くなる』とか、『あのパーツを組み合わせたら可愛いのでは?』とか、『次はあのお店も行ってみたいなぁ』とか、『あれも買った方が良かったのでは?』とか、『今日猫カフェいけなかったぁ』とか、止めどなく考えを巡らせた。正にどうでも良い事である。
さて、この角を曲がればもう家に着く。左右に気をつけて曲がれば一際明るい街灯があった。その明るさで少しの安心感が彼女に生まれる、はずだった。
「――猫?」
そう言って、彼女は立ち止まる。
視線の先の明るい街灯の下、足先が白色の黒いネコが座っていた。夜の空をじいっと見ている。
「猫……――いや、ネコ」
ぼんやりと彼女が呟いた。
彼女の言葉にネコの耳が動く。ネコがゆっくりと彼女を見た。街灯の下でもネコの瞳は綺麗なアンバーの色と分かる。しかし、『見られている』ことが彼女には分かっているのだろう。彼女は心臓が激しく脈打っているようで、胸に手をやり服を握りしめていた。
「…帰らないと」
呼吸を整えて、彼女は一歩を踏み出した。
カシャリッ。
音が聞こえて、強い光を感じた彼女はキツく目を閉じる。光が目に染みる感覚に手で目元を押さえた。頭を振り、ゆっくりと目を開けると、ネコはもういなかった。代わりに、ひたっ…ひたっ…と背後で音がする。急いで振り返るが何もいない。そう思ったのも束の間、急に辺りが暗くなった。街灯があるのに何故?と彼女が前を向くと――。
映像はそこで途切れたのだった。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
3024年宇宙のスズキ
神谷モロ
SF
俺の名はイチロー・スズキ。
もちろんベースボールとは無関係な一般人だ。
21世紀に生きていた普通の日本人。
ひょんな事故から冷凍睡眠されていたが1000年後の未来に蘇った現代の浦島太郎である。
今は福祉事業団体フリーボートの社員で、福祉船アマテラスの船長だ。
※この作品はカクヨムでも掲載しています。

海道一の弓取り~昨日なし明日またしらぬ、人はただ今日のうちこそ命なりけれ~
海野 入鹿
SF
高校2年生の相場源太は暴走した車によって突如として人生に終止符を打たれた、はずだった。
再び目覚めた時、源太はあの桶狭間の戦いで有名な今川義元に転生していた―
これは現代っ子の高校生が突き進む戦国物語。
史実に沿って進みますが、作者の創作なので架空の人物や設定が入っております。
不定期更新です。
SFとなっていますが、歴史物です。
小説家になろうでも掲載しています。
おにぎり屋さんの裏稼業 〜お祓い請け賜わります〜
瀬崎由美
キャラ文芸
高校2年生の八神美琴は、幼い頃に両親を亡くしてからは祖母の真知子と、親戚のツバキと一緒に暮らしている。
大学通りにある屋敷の片隅で営んでいるオニギリ屋さん『おにひめ』は、気まぐれの営業ながらも学生達に人気のお店だ。でも、真知子の本業は人ならざるものを対処するお祓い屋。霊やあやかしにまつわる相談に訪れて来る人が後を絶たない。
そんなある日、祓いの仕事から戻って来た真知子が家の中で倒れてしまう。加齢による力の限界を感じた祖母から、美琴は祓いの力の継承を受ける。と、美琴はこれまで視えなかったモノが視えるようになり……。
第8回キャラ文芸大賞にて奨励賞をいただきました。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる