いまさら!のぶなが?

華猫

文字の大きさ
上 下
57 / 58
第二章

歌奈

しおりを挟む
まだ14歳の私の前に彼は突然現れた。
出会いは最悪だったけど、彼と一緒に過ごすうちに自分の周りにいる男の子たちとはどこかが違うと感じ始めた。
彼は何も覚えていないと言ったけれど、その仕草や、話し方ひとつにさえも品が溢れていて、その眼差しは優しく穏やかだったけれど、時として強く凛とする不思議な子だった。
それでいて、賢いのか無知なのか分からないような事を口にするので呆れ果ててしまった事をよく覚えている。
でもそんな彼と一緒にいると私は楽しくて仕方が無かった。
あの時はその気持ちが何なのか少しも気が付いていなかったけど。
彼が急にいなくなった時も、ただ寂しくて悲しくてひとりで泣き明かしていたっけ…

数年後、大人になって再開した時に私は初めて気が付いた。
(ああ~私は彼が好きなんだ)と…

やっと気が付いた時に、彼の秘密を知ってしまった。
平静を装ってはいたけれど、私の心の中には絶望しかなかった。
そう…私達の間にこれ以上の何かを求める事は不可能なんだと悟ったからだ。
その時私の心は諦めた。
もちろん諦めたからといって自分の心がすぐに変わる訳でもない。
でも現代に生きる自分と過去に生きる彼との超えられない距離で諦めは付くと思っていた。

大学進学をきっかけに本格的に歴史を学び直したのは、私の捨てきれない三郎への執着が変化した瞬間だったかもしれない。
そして、自分の将来を真剣に考え始めた時、未だに諦めきれない自分がいる事を改めて思い知った。
(いつかどこかでまた三郎に会えたなら彼の役に立てるかもしれない)と、私まだ思っていたのだ。
私は歴史学者への道を迷わず選択した。

そして再会…彼から気持ちを伝えられた時にはもう、私の心は決まっていたと思う。彼を支え彼の為に生きるんだと。
こんな私の気持ちなんて彼は知る由もなかっただろうけど、私は絶対に教えてやらないと思っている。
「俺の方が歌奈を愛している。愛する人は歌奈だけだ!」って一生言わせたいですから。
こんなに寂しくて辛い思いをして来たんだもの・・


全てを知る私の家族の平野家と紫陽寺の清水家の面々は運命共同体のようなもの。
その家族に見守られながら子供達を産み「その時」の為に準備を進めて来た。
事情を知らない人達にはよくお見合いを薦められたっけ…
その度に「いやいや、私は結婚なんて考えて無いんです。ひとりがいいんですよ~」
なんてはぐらかすのが大変だった。
そんな私を見て、いつだったか父が言ってきたことがある。
「もし、歌奈がこの時代で本当に好きな人が他に出来たなら迷わずその人と一緒になれば良いんだよ」ってね。
でも、私は愛する人の子供達がいてくれるだけで満足だった。
確かに、実際に彼が現れるかどうかは分からない。
もしかすると織田信長として家康に取って代わろうとこの計画を諦めているかもしれない。
様々な憶測を呼び幾度となく不安にかられた事が無い訳では無かった。
でも私は確信していた。
なぜならこの現代になんの変化も無いからだ。という事は確実に計画は進んでいるという事。
だったら私は中途半端に終わらせたくはない。そして何よりも私自身が三郎を待ちたかったから…


そして今、私達との約束を果たして彼はこの世界に戻って来てくれた。
またすぐに帰ってしまうけれど、この短い幸せな時間を無駄にはしない。感傷的になんて…浸っていたら勿体ない。
そしてこの後、私達の計画は新たな段階に入りまだまだ試練が続きます。
そうなんです!悲しんでいる暇なんて無いんです!


今、彼の背中を見送って私は思っている。
(三郎。子供達を残してくれてありがとう。この子達がこれからも、貴方やこの国に役立つ人間になる為に私が立派に導いて見せるから安心して頂戴。そして宿題をありがとう。やりがいのある仕事が出来て嬉しいわ。私は世界の救世主になる為に!もうひと踏ん張り頑張るわね~)

「そうよ!わたしがやらなきゃ誰がやるのよ!」

思いっきり大げさに自分を慰めた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

楽将伝

九情承太郎
歴史・時代
三人の天下人と、最も遊んだ楽将・金森長近(ながちか)のスチャラカ戦国物語 織田信長の親衛隊は 気楽な稼業と きたもんだ(嘘) 戦国史上、最もブラックな職場 「織田信長の親衛隊」 そこで働きながらも、マイペースを貫く、趣味の人がいた 金森可近(ありちか)、後の長近(ながちか) 天下人さえ遊びに来る、趣味の達人の物語を、ご賞味ください!!

【⁉】意味がわかると怖い話【解説あり】

絢郷水沙
ホラー
普通に読めばそうでもないけど、よく考えてみたらゾクッとする、そんな怖い話です。基本1ページ完結。 下にスクロールするとヒントと解説があります。何が怖いのか、ぜひ推理しながら読み進めてみてください。 ※全話オリジナル作品です。

月が導く異世界道中

あずみ 圭
ファンタジー
 月読尊とある女神の手によって癖のある異世界に送られた高校生、深澄真。  真は商売をしながら少しずつ世界を見聞していく。  彼の他に召喚された二人の勇者、竜や亜人、そしてヒューマンと魔族の戦争、次々に真は事件に関わっていく。  これはそんな真と、彼を慕う(基本人外の)者達の異世界道中物語。  漫遊編始めました。  外伝的何かとして「月が導く異世界道中extra」も投稿しています。

出撃!特殊戦略潜水艦隊

ノデミチ
歴史・時代
海の狩人、潜水艦。 大国アメリカと短期決戦を挑む為に、連合艦隊司令山本五十六の肝入りで創設された秘匿潜水艦。 戦略潜水戦艦 伊号第500型潜水艦〜2隻。 潜水空母   伊号第400型潜水艦〜4隻。 広大な太平洋を舞台に大暴れする連合艦隊の秘密兵器。 一度書いてみたかったIF戦記物。 この機会に挑戦してみます。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

獅子の末裔

卯花月影
歴史・時代
未だ戦乱続く近江の国に生まれた蒲生氏郷。主家・六角氏を揺るがした六角家騒動がようやく落ち着いてきたころ、目の前に現れたのは天下を狙う織田信長だった。 和歌をこよなく愛する温厚で無力な少年は、信長にその非凡な才を見いだされ、戦国武将として成長し、開花していく。 前作「滝川家の人びと」の続編です。途中、エピソードの被りがありますが、蒲生氏郷視点で描かれます。

戦国を駆ける軍師・雪之丞見参!

沙羅双樹
歴史・時代
川中島の合戦で亡くなった軍師、山本勘助に嫡男がいた。その男は、山本雪之丞と言い、頭が良く、姿かたちも美しい若者であった。その日、信玄の館を訪れた雪之丞は、上洛の手段を考えている信玄に、「第二啄木鳥の戦法」を提案したのだった……。 この小説はカクヨムに連載中の「武田信玄上洛記」を大幅に加筆訂正したものです。より読みやすく面白く書き直しました。「武田信玄上洛の巻」の後は、「明智光秀の本能寺の変の巻」、さらにそのあとは鎌倉の商人、紅屋庄右衛門が登場する「商売人、紅屋庄右衛門の巻」、そして下野の国宇都宮で摩耶姫に会う「妖美なる姫君、摩耶姫の巻」へと展開していきます。

処理中です...