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第二章
歌奈
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まだ14歳の私の前に彼は突然現れた。
出会いは最悪だったけど、彼と一緒に過ごすうちに自分の周りにいる男の子たちとはどこかが違うと感じ始めた。
彼は何も覚えていないと言ったけれど、その仕草や、話し方ひとつにさえも品が溢れていて、その眼差しは優しく穏やかだったけれど、時として強く凛とする不思議な子だった。
それでいて、賢いのか無知なのか分からないような事を口にするので呆れ果ててしまった事をよく覚えている。
でもそんな彼と一緒にいると私は楽しくて仕方が無かった。
あの時はその気持ちが何なのか少しも気が付いていなかったけど。
彼が急にいなくなった時も、ただ寂しくて悲しくてひとりで泣き明かしていたっけ…
数年後、大人になって再開した時に私は初めて気が付いた。
(ああ~私は彼が好きなんだ)と…
やっと気が付いた時に、彼の秘密を知ってしまった。
平静を装ってはいたけれど、私の心の中には絶望しかなかった。
そう…私達の間にこれ以上の何かを求める事は不可能なんだと悟ったからだ。
その時私の心は諦めた。
もちろん諦めたからといって自分の心がすぐに変わる訳でもない。
でも現代に生きる自分と過去に生きる彼との超えられない距離で諦めは付くと思っていた。
大学進学をきっかけに本格的に歴史を学び直したのは、私の捨てきれない三郎への執着が変化した瞬間だったかもしれない。
そして、自分の将来を真剣に考え始めた時、未だに諦めきれない自分がいる事を改めて思い知った。
(いつかどこかでまた三郎に会えたなら彼の役に立てるかもしれない)と、私まだ思っていたのだ。
私は歴史学者への道を迷わず選択した。
そして再会…彼から気持ちを伝えられた時にはもう、私の心は決まっていたと思う。彼を支え彼の為に生きるんだと。
こんな私の気持ちなんて彼は知る由もなかっただろうけど、私は絶対に教えてやらないと思っている。
「俺の方が歌奈を愛している。愛する人は歌奈だけだ!」って一生言わせたいですから。
こんなに寂しくて辛い思いをして来たんだもの・・
全てを知る私の家族の平野家と紫陽寺の清水家の面々は運命共同体のようなもの。
その家族に見守られながら子供達を産み「その時」の為に準備を進めて来た。
事情を知らない人達にはよくお見合いを薦められたっけ…
その度に「いやいや、私は結婚なんて考えて無いんです。ひとりがいいんですよ~」
なんてはぐらかすのが大変だった。
そんな私を見て、いつだったか父が言ってきたことがある。
「もし、歌奈がこの時代で本当に好きな人が他に出来たなら迷わずその人と一緒になれば良いんだよ」ってね。
でも、私は愛する人の子供達がいてくれるだけで満足だった。
確かに、実際に彼が現れるかどうかは分からない。
もしかすると織田信長として家康に取って代わろうとこの計画を諦めているかもしれない。
様々な憶測を呼び幾度となく不安にかられた事が無い訳では無かった。
でも私は確信していた。
なぜならこの現代になんの変化も無いからだ。という事は確実に計画は進んでいるという事。
だったら私は中途半端に終わらせたくはない。そして何よりも私自身が三郎を待ちたかったから…
そして今、私達との約束を果たして彼はこの世界に戻って来てくれた。
またすぐに帰ってしまうけれど、この短い幸せな時間を無駄にはしない。感傷的になんて…浸っていたら勿体ない。
そしてこの後、私達の計画は新たな段階に入りまだまだ試練が続きます。
そうなんです!悲しんでいる暇なんて無いんです!
今、彼の背中を見送って私は思っている。
(三郎。子供達を残してくれてありがとう。この子達がこれからも、貴方やこの国に役立つ人間になる為に私が立派に導いて見せるから安心して頂戴。そして宿題をありがとう。やりがいのある仕事が出来て嬉しいわ。私は世界の救世主になる為に!もうひと踏ん張り頑張るわね~)
「そうよ!わたしがやらなきゃ誰がやるのよ!」
思いっきり大げさに自分を慰めた。
出会いは最悪だったけど、彼と一緒に過ごすうちに自分の周りにいる男の子たちとはどこかが違うと感じ始めた。
彼は何も覚えていないと言ったけれど、その仕草や、話し方ひとつにさえも品が溢れていて、その眼差しは優しく穏やかだったけれど、時として強く凛とする不思議な子だった。
それでいて、賢いのか無知なのか分からないような事を口にするので呆れ果ててしまった事をよく覚えている。
でもそんな彼と一緒にいると私は楽しくて仕方が無かった。
あの時はその気持ちが何なのか少しも気が付いていなかったけど。
彼が急にいなくなった時も、ただ寂しくて悲しくてひとりで泣き明かしていたっけ…
数年後、大人になって再開した時に私は初めて気が付いた。
(ああ~私は彼が好きなんだ)と…
やっと気が付いた時に、彼の秘密を知ってしまった。
平静を装ってはいたけれど、私の心の中には絶望しかなかった。
そう…私達の間にこれ以上の何かを求める事は不可能なんだと悟ったからだ。
その時私の心は諦めた。
もちろん諦めたからといって自分の心がすぐに変わる訳でもない。
でも現代に生きる自分と過去に生きる彼との超えられない距離で諦めは付くと思っていた。
大学進学をきっかけに本格的に歴史を学び直したのは、私の捨てきれない三郎への執着が変化した瞬間だったかもしれない。
そして、自分の将来を真剣に考え始めた時、未だに諦めきれない自分がいる事を改めて思い知った。
(いつかどこかでまた三郎に会えたなら彼の役に立てるかもしれない)と、私まだ思っていたのだ。
私は歴史学者への道を迷わず選択した。
そして再会…彼から気持ちを伝えられた時にはもう、私の心は決まっていたと思う。彼を支え彼の為に生きるんだと。
こんな私の気持ちなんて彼は知る由もなかっただろうけど、私は絶対に教えてやらないと思っている。
「俺の方が歌奈を愛している。愛する人は歌奈だけだ!」って一生言わせたいですから。
こんなに寂しくて辛い思いをして来たんだもの・・
全てを知る私の家族の平野家と紫陽寺の清水家の面々は運命共同体のようなもの。
その家族に見守られながら子供達を産み「その時」の為に準備を進めて来た。
事情を知らない人達にはよくお見合いを薦められたっけ…
その度に「いやいや、私は結婚なんて考えて無いんです。ひとりがいいんですよ~」
なんてはぐらかすのが大変だった。
そんな私を見て、いつだったか父が言ってきたことがある。
「もし、歌奈がこの時代で本当に好きな人が他に出来たなら迷わずその人と一緒になれば良いんだよ」ってね。
でも、私は愛する人の子供達がいてくれるだけで満足だった。
確かに、実際に彼が現れるかどうかは分からない。
もしかすると織田信長として家康に取って代わろうとこの計画を諦めているかもしれない。
様々な憶測を呼び幾度となく不安にかられた事が無い訳では無かった。
でも私は確信していた。
なぜならこの現代になんの変化も無いからだ。という事は確実に計画は進んでいるという事。
だったら私は中途半端に終わらせたくはない。そして何よりも私自身が三郎を待ちたかったから…
そして今、私達との約束を果たして彼はこの世界に戻って来てくれた。
またすぐに帰ってしまうけれど、この短い幸せな時間を無駄にはしない。感傷的になんて…浸っていたら勿体ない。
そしてこの後、私達の計画は新たな段階に入りまだまだ試練が続きます。
そうなんです!悲しんでいる暇なんて無いんです!
今、彼の背中を見送って私は思っている。
(三郎。子供達を残してくれてありがとう。この子達がこれからも、貴方やこの国に役立つ人間になる為に私が立派に導いて見せるから安心して頂戴。そして宿題をありがとう。やりがいのある仕事が出来て嬉しいわ。私は世界の救世主になる為に!もうひと踏ん張り頑張るわね~)
「そうよ!わたしがやらなきゃ誰がやるのよ!」
思いっきり大げさに自分を慰めた。
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