いまさら!のぶなが?

華猫

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第二章

変身

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僅かに目を開けると白い天井が見えた。
「三郎大丈夫?気分はどう?」
それは妻の声だった。
「ああ…平気だよ。」
「良かった。」
「夢を見ていた。もの凄く長くて…現実のような夢…」
「そう…きっと疲れているのね。」
「あ…そうだな…」
それだけ答えると私はまた深い眠りに引き込まれた。



「それにしても三か月か。回復の時間を考えると決して長くはないな…」
「そうだね。でも兄さんお願い。三郎が来たらすぐに手術をして欲しいの。全ての人達の運命が掛かっているんだから悠長な事は言ってられないから。」
「分かってるよ。もうそのつもりで準備は終わってる。後は三郎君が来るのを待つだけだ。」
そう言って平野家の長男、孝人は大きく深呼吸をした。
「しかし本当に彼は来るのか?どうも心配で落ち着かないよ。」

次男の勝人が不安げな表情を見せる。

「大丈夫。きっと来る。勝人は心配症だな~。」
「おい!心配性とはなんだよ!俺は慎重で繊細なの。俺だって兄貴と一緒に執刀するんだから心配くらいするわ!」
「はいはい。分かってますって。どうぞうちの旦那様をよろしくお願いします!」
「まったく・・お前らは相変わらずだな。」

孝人はいくつになっても変わらない弟と妹を見てため息を付いた。
半分苦笑いの二人だったが少しだけ三人の緊張がほぐれた気がした。


平野孝人は日本整形外科学会の会長を務め、美容整形界ではカリスマ的な存在になっていた。
それもこれも戦国時代からやって来る妹の旦那の為に20年以上も前から決意した仕事の為である。
次男の勝人はその兄に協力すべく、そしてまた可愛い妹の為に研究畑を捨て形成外科医としてその腕を磨いて来た。
そして妻である歌奈は歴史学者として二人の子供を育てながらその夫である織田信長を待ち続けていた。
平野家の三人は準備万端でただ一人の男を待ち続けていた。


そして今、その男の顔に巻かれていた包帯が解かれようとしていた。

「三郎君、手術は上手くいったよ。だが実際に顔の腫れがひいてみなければ分からないがね。でもその都度、手を加えていくから心配はいらないよ。」
「そうよ。大丈夫よ。兄さんは日本一の整形外科医なんだから。三郎、心配しないでもう少しの辛抱よ。」
「ああ。分かってる。孝人さんを信じてるから…」
「顔だけじゃなく体の方も少しばかり手を加えてあるから暫くは動く事は出来ないが頑張ってくれよな。」
「勝人さんありがとうございます。そのくらい平気です。本当に皆さんにはお世話をかけます。」
「これは、俺たち平野家の使命みたいなものだからね。気にする事は無いよ。」

そんな孝人の言葉通り平野家の面々は誇らしくさえ感じていた。

「しかし、家康と逸れたと分かった時は心底動揺したよ。顔の見本が無いってね。」
「そうね。岩崎さんに感謝ね。そして本物の家康さんにも・・」
「そうだな。まさか家康の写真を持ってきてくれるとは驚いたよ。」
「それも家康さんの遺言だなんて。」
「家康は自分の責任だと思っていたのかもしれないな。しかし幕末に出るとは驚いた。苦労したんだろうな。」
「でも、楽しい人生だったって!遺言にあったって言ってたでしょう。」
「私の人生に巻き込んでしまったが、最後まで私を助ける事を忘れないでいてくれて感謝しかないな。」
「そうだね。それにしても岩崎弥太郎って聞いた時は本当に驚いたわよ。三郎は岩崎弥太郎と言ってもそんなにピンと来ないと思うけど、私達現代人にとってはそりゃびっくりするほど本当に有名な人なんだよ。」
「ああ。幕末の事は少しは学んだつもりだけど…でも家康が関わっているというならこれからもっと詳しく知りたいと思うよ。」
「しかし、歌奈の言う通り、あの岩崎弥太郎が本当は徳川家康だったって…信じられない驚きだよ。」

そう言う孝人に勝人がいつになく真剣に答えた。

「そうなんだよな。そう考えるとおれ達の気付かないところで実は未来も微妙に変化してるのかもしれないよね。」
「そうかもしれませんね。私は過去を変えないようにここまで努めてきたけれど、絶対に変わってないとは言い切れませんから…」
「ただ、現時点でこの未来に大きな変化が見られないって事は、今のところこの計画は上手く機能してると思って良いって事なのかなと私は思うけどな~。」
「確かに・・」
「とにかく、ここまで来たからには私は途中で諦めたりはしません。やり遂げて見せます。」

信長は改めて宣言をした。

「ま~何はともあれ、やっぱり。事実は小説より奇なりって事だな。」

そんな勝人の言葉に皆自然と笑みが零れた。

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