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第一章
責任
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「秀一はご迷惑をかけてはおりませんか?」
ご住職からそう問われて私はかなりバツが悪かった。
「迷惑だなんて・・むしろ私が秀一に迷惑ばかりかけてます・・」
「そうですか。ではお役に立っているという事ですね。安心しました。あの子には家訓の話しはまだしていなかったので正直心配していたのですよ。三郎さんの邪魔をしたりしていないかと・・」
「いいえ!秀一は今、羽柴秀吉として私の傍にいます。そしていつも私の為に苦労しています・・そしてこの後は、豊臣秀吉として私の世界に残る事になるでしょう。なので・・すみません・・この時代に戻る事は出来ないと思っています。お二人には大変申し訳ないと・・私には謝る事しか出来ません・・」
三郎は頭を下げた。
「とんでもない!三郎さん・・いいえ、今は信長様ですね。この紫陽寺、清水家に生まれたからにはその運命を背負う事が私達子孫の務めなんです。ですから如何なる運命も苦労も受け入れなければなりません。そして弟の務めはきっと今のその「豊臣秀吉」という運命を背負う事なんです。ですからあなたのせいではないのです。」
「そうですね、信長様、利信の言う通りなのです。ですから責任など感じないで下さい。それよりもまず、先ほど仰っていたように、お戻りになりましたらこの先の事、秀一と相談して頂きたいのです。そしてその秀一の運命を背負う務めを見守って頂きたいのです。宜しくお願い致します。」
この500年余りの紫陽寺の責任は、いったいどれだけ重かったのだろうと胸が締め付けられる思いがした。
「お二人のお気持ちはよく分かりました。この先はこの信長も紫陽寺の皆様と同じようにこの重責を担って参ります。」
ここ数日、紫陽寺や平野家の面々と話し合い、近々必要と思われる事案のみを伝授してもらい、私は早々に過去へと戻る準備をしていた。
しかし準備万端になったとして、実際に池に飛び込んでみなければ帰れるかどうか分からないのだが・・
それでも何故か不思議な事に、私には根拠のない自信があった。
なので、心に決めた最後の準備に取り掛かる。
私は、その日歌奈を誘った。
「歌奈!デートしよう!」
「デート?いつその言葉覚えたのよ!」
二人で楽しく食事をして・・帰り道
「明日はもう帰ろうと思う。秀一も待ってると思うから。まあ実際に帰れるかどうかは分からないけど、やってみるよ。」
「そうか・・そうだね。秀一が待ってるし、三郎は帰ってやらなきゃ無い事たくさんあるもんね・・」
「ああ。今回は本当に来て良かったと思ってる。紫陽寺の事。大切な事が分かって、自分の気持ちも整理することが出来た。そして『天下泰平の未来を創る為に尽力する志!』なんて重大な責任を得た事は貴重な収穫だよ。私は・・その志半ばで死ぬ運命かもしれないが、でも、今はそんな事考えない。そして諦めずに少しだけ運命に抗ってみようかとも思ってる。」
「うん。なるほど・・そうね。秀一も傍にいる事だしまだ、先は長い。何か手立てはあるはず・・私も考えて見る。諦めずにポジティブに行こう!」
「ポジティブ?」
「あ~前向きに?いい方向にとか・・未来は明るいみたいなことよ!」
思わず噴き出したが、では、その覚えたばかりのポジティブにこの想いを告白しよう。
「ありがとう歌奈。でもね1つだけこの時代に心残りがあるんだ。」
「心残り?」
「そう。心残り・・それは君なんだ。実はね・・私は歌奈を想ってる。たぶん初めてここに来た時から。だからどんな時にも歌奈に会いたくなる。寂しい時も悲しい時も、嬉しい時も楽しい時も、君が恋しかった。だけど君を連れていく訳には行かない。そして私達の境遇では約束も出来ない。でも、いつかは歌奈の傍で暮らしたいと思ってる。もしそんな日が来ることがあったなら私を受け入れてくれるかい?」
歌奈は驚いた顔で私を見つめ・・そして急に怒りだした!
「冗談じゃない!そんなに待てる訳ないじゃない!すぐにじゃなきゃダメよ、すぐよ!」
「ああ~分かった!絶対にすぐ、すぐにだ!任せろ!」
歌奈の剣幕に咄嗟に出たその私の答えに彼女は大笑いし、そして私の頬に軽く口づけをした。
「すぐにだなんて無理に決まってるじゃない。嘘つきね~まあ~いいわ。じゃあ考えとく!」
驚きと同時にあまりに突然すぎて、その言葉の意味もその口づけの意味も、それこそすぐに理解することは不可能だった。
しかし、わずかな期待と新たな目標が出来たようで俄然!やる気が湧いて来た。
ご住職からそう問われて私はかなりバツが悪かった。
「迷惑だなんて・・むしろ私が秀一に迷惑ばかりかけてます・・」
「そうですか。ではお役に立っているという事ですね。安心しました。あの子には家訓の話しはまだしていなかったので正直心配していたのですよ。三郎さんの邪魔をしたりしていないかと・・」
「いいえ!秀一は今、羽柴秀吉として私の傍にいます。そしていつも私の為に苦労しています・・そしてこの後は、豊臣秀吉として私の世界に残る事になるでしょう。なので・・すみません・・この時代に戻る事は出来ないと思っています。お二人には大変申し訳ないと・・私には謝る事しか出来ません・・」
三郎は頭を下げた。
「とんでもない!三郎さん・・いいえ、今は信長様ですね。この紫陽寺、清水家に生まれたからにはその運命を背負う事が私達子孫の務めなんです。ですから如何なる運命も苦労も受け入れなければなりません。そして弟の務めはきっと今のその「豊臣秀吉」という運命を背負う事なんです。ですからあなたのせいではないのです。」
「そうですね、信長様、利信の言う通りなのです。ですから責任など感じないで下さい。それよりもまず、先ほど仰っていたように、お戻りになりましたらこの先の事、秀一と相談して頂きたいのです。そしてその秀一の運命を背負う務めを見守って頂きたいのです。宜しくお願い致します。」
この500年余りの紫陽寺の責任は、いったいどれだけ重かったのだろうと胸が締め付けられる思いがした。
「お二人のお気持ちはよく分かりました。この先はこの信長も紫陽寺の皆様と同じようにこの重責を担って参ります。」
ここ数日、紫陽寺や平野家の面々と話し合い、近々必要と思われる事案のみを伝授してもらい、私は早々に過去へと戻る準備をしていた。
しかし準備万端になったとして、実際に池に飛び込んでみなければ帰れるかどうか分からないのだが・・
それでも何故か不思議な事に、私には根拠のない自信があった。
なので、心に決めた最後の準備に取り掛かる。
私は、その日歌奈を誘った。
「歌奈!デートしよう!」
「デート?いつその言葉覚えたのよ!」
二人で楽しく食事をして・・帰り道
「明日はもう帰ろうと思う。秀一も待ってると思うから。まあ実際に帰れるかどうかは分からないけど、やってみるよ。」
「そうか・・そうだね。秀一が待ってるし、三郎は帰ってやらなきゃ無い事たくさんあるもんね・・」
「ああ。今回は本当に来て良かったと思ってる。紫陽寺の事。大切な事が分かって、自分の気持ちも整理することが出来た。そして『天下泰平の未来を創る為に尽力する志!』なんて重大な責任を得た事は貴重な収穫だよ。私は・・その志半ばで死ぬ運命かもしれないが、でも、今はそんな事考えない。そして諦めずに少しだけ運命に抗ってみようかとも思ってる。」
「うん。なるほど・・そうね。秀一も傍にいる事だしまだ、先は長い。何か手立てはあるはず・・私も考えて見る。諦めずにポジティブに行こう!」
「ポジティブ?」
「あ~前向きに?いい方向にとか・・未来は明るいみたいなことよ!」
思わず噴き出したが、では、その覚えたばかりのポジティブにこの想いを告白しよう。
「ありがとう歌奈。でもね1つだけこの時代に心残りがあるんだ。」
「心残り?」
「そう。心残り・・それは君なんだ。実はね・・私は歌奈を想ってる。たぶん初めてここに来た時から。だからどんな時にも歌奈に会いたくなる。寂しい時も悲しい時も、嬉しい時も楽しい時も、君が恋しかった。だけど君を連れていく訳には行かない。そして私達の境遇では約束も出来ない。でも、いつかは歌奈の傍で暮らしたいと思ってる。もしそんな日が来ることがあったなら私を受け入れてくれるかい?」
歌奈は驚いた顔で私を見つめ・・そして急に怒りだした!
「冗談じゃない!そんなに待てる訳ないじゃない!すぐにじゃなきゃダメよ、すぐよ!」
「ああ~分かった!絶対にすぐ、すぐにだ!任せろ!」
歌奈の剣幕に咄嗟に出たその私の答えに彼女は大笑いし、そして私の頬に軽く口づけをした。
「すぐにだなんて無理に決まってるじゃない。嘘つきね~まあ~いいわ。じゃあ考えとく!」
驚きと同時にあまりに突然すぎて、その言葉の意味もその口づけの意味も、それこそすぐに理解することは不可能だった。
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