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第一章
本能寺の変
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天正10年5月29日
小姓ほか、数十名のみを引き連れて信長は本能寺に入った。
この時なぜ僅かな手勢のみで行動していたのか?
今ならその答えが分かる。秘密の漏洩を恐れた事と、犠牲者を極力減らす事・・
この本能寺に連れて来た者たちをまた手にかけてしまうかと思うと偲びなかったが、信長は粛々と事を進めていった。
我が子として嫡男として育てて来た信忠もまた例外ではない。
この信長亡き後は、織田家の存続は極めて厳しくその血筋を守る事も不可能であろう。
残酷ではあるが、我が身内と多くの民や臣下を犠牲に私は生まれ変わるのだから、その多大な犠牲を決して無駄にしてはならない。その気持ちのみを心に置いた。
天正10年6月2日未明
明智軍は静かに本能寺を囲んだ。
その数、1万3000・・
そして明智光秀の号令と共に一気に攻め入った。
僅かな手勢で応戦した織田勢は散っていく運命だった。
「私が信長を討つ!よいか!歯向かう者は一人残らず殺せ!」
光秀は鬼の形相で本能寺の奥へと信長を追い詰めたが、暫くすると凄まじい返り血を浴びた姿で本陣へと戻って来た。
「奥は火の勢いが強過ぎる。残念だが信長には逃げられた。しかしこの血を見よ!憎っくき信長に致命傷を与える事は出来た!信長はもう逃げられん!皆の者、今すぐ寺に火を放て!信長もろとも本能寺を焼き尽くせ!」
その炎は一瞬で燃え盛り、本能寺を覆い尽くした。
明智光秀は声高らかに勝利を宣言する。
「織田信長は、この明智光秀が討ち取った!!」
焼け崩れた本能寺から織田信長らしき遺体は見つかる事はなかったが・・
それは公然の秘密として闇に葬られた。
「明智光秀謀反!織田信長公討死!」
その知らせは瞬く間に全国に広まっていった。
「信長様!お怪我はないですか!大丈夫ですか?」
勢いよく飛び込んできた光秀に信長は笑顔で答えた。
「問題ない。それにしても光秀、早かったな?」
「当然です!早いほど良いに決まってるじゃないですか!さあ早く逃げましょう!」
そう言って予め用意しておいた抜け道を使い光秀が先導する。
そんな光秀の背中に向けて信長は小声で呟く・・
「おまえ言った?」
「何をです?」
「ほら、あれ『敵は本能寺にあり!』って・・」
「なっ!こんな時になにを悠長に言ってるんですか!」
「緊張してる時こそユーモアは必要だからね。」
「ユーモアって?・・よく分かりませんが!その…屋敷を出る前に一応言いました…何かは言わないと恰好が付かないですからね!」
「さずがは光秀だ!私の期待を裏切らん。」
「何なんですか…その期待って…」
「ところで蘭丸は大丈夫か?」
「大丈夫です。斎藤利三に相手をするようにいっておりますので今頃は二人で大芝居を打ってる事でしょう。隙を見て逃がしますから任せて下さい。」
「そうか・・良かった・・蘭丸はまだ若い。密かに生かしておいても問題はないだろう。賢い奴の事だから必ず理解してくれると思っていた。そしていつの日かまた私の前に現れるだろうさ。」
「そうですね。しかし今は信長様が逃げる事が先です。急ぎましょう。」
織田信長として、明智光秀として互いに会う事が出来るのはここまで・・
「光秀・・この後の事、宜しくたのむ。本能寺は必ず燃やし尽くせ!そして安土の城も必ず燃やすのだ!跡形もなくだ!証拠はひとつたりとも残すな!そしてここからは暫しの別れとなるが、この後の天下は一旦、秀吉に託す。お前は計画通りに行動し必ず生き残るんだぞ!」
「分かっております。見事に散った「織田信長公」と共に、この「明智光秀」も盛大に死んでみせます。ご安心ください!」
「頼んだぞ!ではさらばだ!必ず生きてまた会おう!」
この『本能寺の変』を境に、ここから先は各々が違う生き方で違う人生を歩んでいく事になる。
天下泰平への道はまだまだ遠くさらに続いていく。
小姓ほか、数十名のみを引き連れて信長は本能寺に入った。
この時なぜ僅かな手勢のみで行動していたのか?
今ならその答えが分かる。秘密の漏洩を恐れた事と、犠牲者を極力減らす事・・
この本能寺に連れて来た者たちをまた手にかけてしまうかと思うと偲びなかったが、信長は粛々と事を進めていった。
我が子として嫡男として育てて来た信忠もまた例外ではない。
この信長亡き後は、織田家の存続は極めて厳しくその血筋を守る事も不可能であろう。
残酷ではあるが、我が身内と多くの民や臣下を犠牲に私は生まれ変わるのだから、その多大な犠牲を決して無駄にしてはならない。その気持ちのみを心に置いた。
天正10年6月2日未明
明智軍は静かに本能寺を囲んだ。
その数、1万3000・・
そして明智光秀の号令と共に一気に攻め入った。
僅かな手勢で応戦した織田勢は散っていく運命だった。
「私が信長を討つ!よいか!歯向かう者は一人残らず殺せ!」
光秀は鬼の形相で本能寺の奥へと信長を追い詰めたが、暫くすると凄まじい返り血を浴びた姿で本陣へと戻って来た。
「奥は火の勢いが強過ぎる。残念だが信長には逃げられた。しかしこの血を見よ!憎っくき信長に致命傷を与える事は出来た!信長はもう逃げられん!皆の者、今すぐ寺に火を放て!信長もろとも本能寺を焼き尽くせ!」
その炎は一瞬で燃え盛り、本能寺を覆い尽くした。
明智光秀は声高らかに勝利を宣言する。
「織田信長は、この明智光秀が討ち取った!!」
焼け崩れた本能寺から織田信長らしき遺体は見つかる事はなかったが・・
それは公然の秘密として闇に葬られた。
「明智光秀謀反!織田信長公討死!」
その知らせは瞬く間に全国に広まっていった。
「信長様!お怪我はないですか!大丈夫ですか?」
勢いよく飛び込んできた光秀に信長は笑顔で答えた。
「問題ない。それにしても光秀、早かったな?」
「当然です!早いほど良いに決まってるじゃないですか!さあ早く逃げましょう!」
そう言って予め用意しておいた抜け道を使い光秀が先導する。
そんな光秀の背中に向けて信長は小声で呟く・・
「おまえ言った?」
「何をです?」
「ほら、あれ『敵は本能寺にあり!』って・・」
「なっ!こんな時になにを悠長に言ってるんですか!」
「緊張してる時こそユーモアは必要だからね。」
「ユーモアって?・・よく分かりませんが!その…屋敷を出る前に一応言いました…何かは言わないと恰好が付かないですからね!」
「さずがは光秀だ!私の期待を裏切らん。」
「何なんですか…その期待って…」
「ところで蘭丸は大丈夫か?」
「大丈夫です。斎藤利三に相手をするようにいっておりますので今頃は二人で大芝居を打ってる事でしょう。隙を見て逃がしますから任せて下さい。」
「そうか・・良かった・・蘭丸はまだ若い。密かに生かしておいても問題はないだろう。賢い奴の事だから必ず理解してくれると思っていた。そしていつの日かまた私の前に現れるだろうさ。」
「そうですね。しかし今は信長様が逃げる事が先です。急ぎましょう。」
織田信長として、明智光秀として互いに会う事が出来るのはここまで・・
「光秀・・この後の事、宜しくたのむ。本能寺は必ず燃やし尽くせ!そして安土の城も必ず燃やすのだ!跡形もなくだ!証拠はひとつたりとも残すな!そしてここからは暫しの別れとなるが、この後の天下は一旦、秀吉に託す。お前は計画通りに行動し必ず生き残るんだぞ!」
「分かっております。見事に散った「織田信長公」と共に、この「明智光秀」も盛大に死んでみせます。ご安心ください!」
「頼んだぞ!ではさらばだ!必ず生きてまた会おう!」
この『本能寺の変』を境に、ここから先は各々が違う生き方で違う人生を歩んでいく事になる。
天下泰平への道はまだまだ遠くさらに続いていく。
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