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第一章
お膳立て
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大局に備え信長の心は安堵していた。
長年続いていた宗教一派の弾圧が功を奏し一昨年には本願寺との折り合いも付いた。
そして今回、悲願であった武田勝頼を討ち取ることが叶い、家康と光秀を伴い信長は帰路に就いていた。
その道中、三人は密かに顔を突き合わせた。
「いよいよですね・・」
「ああ~」
「大丈夫ですかね?私は上手く演じられるでしょうか?」
「大丈夫だろう。」
「しかし、芝居なんてやった事もないので・・」
「光秀が上手く先導してくれるだろう。」
「しかし、周りに気付かれやしませんかね?」
信長と光秀は家康をじろりと睨んだ。
「あ~スミマセン!大丈夫です!任せて下さい。私は上手くやりますから!」
呆れた様子で光秀が口を開く。
「いいですか家康殿!あなたが私に難癖を付けるのですから自身を持って堂々と演じて貰わなければ、私だって困ります!無理だと言うのなら本当に腐った魚を出しますからね!重要な役目なんですよ!心配だとか言わないで頂きたい!」
「スミマセン・・」
口うるさい光秀に気弱な家康を見て吹き出しそうになるのを堪え信長は言った。
「なあ家康。先日も言っただろう。主役はお前じゃなくて私と光秀だと。」
「は~・・」
「もう一度言っておく。この宴は光秀が私を討ちたいと決心する重要な場面なんだ。しかし謀反を起すという事は余程この私に恨みがなければそうはならない。そのために私はなが~い年月をかけて光秀に邪心を抱かせる為の画策をず~と施してきたんだ。そしてこの宴で「堪忍袋の緒が切れる」ように仕向けるのも私の役目だ。お前はその原因を作るだけ。なので芝居じみてても一向に構わない。むしろそのくらいの方が周りの者たちには信憑性があるという事だ。分かるな家康。お前のセリフはほぼ二行くらいしかないんだぞ。」
「はい・・そうでした・・」
家康はバツの悪そうな顔で苦笑いを浮かべた。
「そして要になるのは、光秀お前だ!しっかり頼んだぞ!」
「はい!お任せください!」
明智光秀の顔は自信に満ち溢れていた。
「こんなもの食えるか!!」
信長は勢いよく膳を蹴飛ばした。
「貴様!こんな適当なもてなしで私に恥をかかせるつもりか!主を愚弄するつもりなのか!」
光秀は慌てて信長の前にひれ伏した。
「申し訳ございません!お館様!しかしこれは・・この光秀が全て確認してお出しした膳でございます。家康殿が仰るような痛んでいるものなど無かったはずだと・・」
「なに?では家康がわざとお前に難癖を付けているとでも言いたいのか?」
「いえ・・そのような事はけっして・・」
信長は傍らの器を手に取り、光秀に向かって叩きつけた。
「信長様!どうか明智殿をお許し下さい。きっとこの家康の舌がおかしいのでしょう。なにせ私は明智殿とは違い田舎者ですので・・」
「家康。お前は口を挟まなくてよい。私はこの期に及んでも言い訳など抜かす、こやつの態度が気に入らんのだ!」
「お館様。誠に申し訳ございません・・」
血まみれになり頭を畳に擦り付けた光秀を力いっぱい蹴り倒し、肩を震わせながら信長は宴を後にした。
「光秀。良い度胸だ。覚悟しておけ!」
頭を下げ続けながらも怒り心頭に達しているであろう光秀の様子は誰の目にも明らかだった。
こうして本能寺の変の首謀者「明智光秀」は誕生した。
(やはり家康は大根役者だな)
信長は込み上げる笑いを必死にこらえたが、その震える肩を抑える事は無理であった。
長年続いていた宗教一派の弾圧が功を奏し一昨年には本願寺との折り合いも付いた。
そして今回、悲願であった武田勝頼を討ち取ることが叶い、家康と光秀を伴い信長は帰路に就いていた。
その道中、三人は密かに顔を突き合わせた。
「いよいよですね・・」
「ああ~」
「大丈夫ですかね?私は上手く演じられるでしょうか?」
「大丈夫だろう。」
「しかし、芝居なんてやった事もないので・・」
「光秀が上手く先導してくれるだろう。」
「しかし、周りに気付かれやしませんかね?」
信長と光秀は家康をじろりと睨んだ。
「あ~スミマセン!大丈夫です!任せて下さい。私は上手くやりますから!」
呆れた様子で光秀が口を開く。
「いいですか家康殿!あなたが私に難癖を付けるのですから自身を持って堂々と演じて貰わなければ、私だって困ります!無理だと言うのなら本当に腐った魚を出しますからね!重要な役目なんですよ!心配だとか言わないで頂きたい!」
「スミマセン・・」
口うるさい光秀に気弱な家康を見て吹き出しそうになるのを堪え信長は言った。
「なあ家康。先日も言っただろう。主役はお前じゃなくて私と光秀だと。」
「は~・・」
「もう一度言っておく。この宴は光秀が私を討ちたいと決心する重要な場面なんだ。しかし謀反を起すという事は余程この私に恨みがなければそうはならない。そのために私はなが~い年月をかけて光秀に邪心を抱かせる為の画策をず~と施してきたんだ。そしてこの宴で「堪忍袋の緒が切れる」ように仕向けるのも私の役目だ。お前はその原因を作るだけ。なので芝居じみてても一向に構わない。むしろそのくらいの方が周りの者たちには信憑性があるという事だ。分かるな家康。お前のセリフはほぼ二行くらいしかないんだぞ。」
「はい・・そうでした・・」
家康はバツの悪そうな顔で苦笑いを浮かべた。
「そして要になるのは、光秀お前だ!しっかり頼んだぞ!」
「はい!お任せください!」
明智光秀の顔は自信に満ち溢れていた。
「こんなもの食えるか!!」
信長は勢いよく膳を蹴飛ばした。
「貴様!こんな適当なもてなしで私に恥をかかせるつもりか!主を愚弄するつもりなのか!」
光秀は慌てて信長の前にひれ伏した。
「申し訳ございません!お館様!しかしこれは・・この光秀が全て確認してお出しした膳でございます。家康殿が仰るような痛んでいるものなど無かったはずだと・・」
「なに?では家康がわざとお前に難癖を付けているとでも言いたいのか?」
「いえ・・そのような事はけっして・・」
信長は傍らの器を手に取り、光秀に向かって叩きつけた。
「信長様!どうか明智殿をお許し下さい。きっとこの家康の舌がおかしいのでしょう。なにせ私は明智殿とは違い田舎者ですので・・」
「家康。お前は口を挟まなくてよい。私はこの期に及んでも言い訳など抜かす、こやつの態度が気に入らんのだ!」
「お館様。誠に申し訳ございません・・」
血まみれになり頭を畳に擦り付けた光秀を力いっぱい蹴り倒し、肩を震わせながら信長は宴を後にした。
「光秀。良い度胸だ。覚悟しておけ!」
頭を下げ続けながらも怒り心頭に達しているであろう光秀の様子は誰の目にも明らかだった。
こうして本能寺の変の首謀者「明智光秀」は誕生した。
(やはり家康は大根役者だな)
信長は込み上げる笑いを必死にこらえたが、その震える肩を抑える事は無理であった。
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