いまさら!のぶなが?

華猫

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第一章

安土城

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山頂にひと際輝く天守閣を備え安土城はその姿を現した。

長い年月をかけて完成したその城は、豪華絢爛な色彩と鮮やかな朱色に目を見張る。
そして黄金色の天守と相まってその圧倒的な景観は見る者を賛美と恐怖に突き落とした。

ある者は言う…

「なんて立派な城だ!信長様じゃなきゃあんな城は作れない!」

そしてまたある者が言う。

「こんな城は誰も作れやしない。いったいどうやったらこんな城が出来るんだ・・」

ここに織田信長の権威と威厳を知らしめる巨大な城は誕生した。

この場所に誰にも作れない城を築くと決めた時から、その城下に民や商人を集め、日本一豊かで賑やかな城下町を作るという、信長の壮大な計画は始まっていた。
税の免除や商売の独占を緩和する「楽市楽座」を積極的に、尚且つ大胆に取り入れ商業の拠点となりえる城下町を目指すため、安土城下に多くの民や商人が移り住むことを推奨した。
そしてその政策が功を奏し、安土城の完成を境に他に類のない新しい姿の繁栄を築いていた。



「この天守からの眺めはいつ見てもまことに壮大だな!なあ秀吉!」
安土城の天守閣から城下を見下ろし私はまた秀吉に問いかける。
「はいはい。そうですね・・もう天守に上がるといつも同じ事を言ってますよね・・」
呆れた声で返事をする秀吉だが、この功績は何度でも称えたいと思ってしまうほど私を満足させている。

そもそもこの安土城はその昔、秀吉がCG画像とやらで見たという安土城の記憶を頼りに作られた。

「建築は私の専門ではないですが、歴史を学ぶ者としては過去の建造物にも一応精通していないと当時の文化など語れませんからね!少しは力になれますよ。」

そう言って秀吉は城の建築に携わった。
歴史的にも建築に詳しかったという豊臣秀吉なので、私はこれっぽっちも心配せずに秀吉に任せたが、まさかこれほどの城を作れるとは思ってもみなかった。

まったく大した「さる」である。

私達がこの城を作った目的は史実に基いてという事もあるが、それ以外にも私達の秘密を隠す為に堅牢な場所が必要であった事は言うまでもない。
数は少ないが歌奈が未来から持ち込んだものや、秀吉が記憶を頼りに歴史を書き留めた物など。そして未来の知識を得て様々な戦で用いた戦略の記述など。他の者には見せられない物を、安土城のその奥に隠すという目的があった。


「お館様。そろそろ始まりますよ。」

秀吉のその言葉に私は城下を見下ろした。

ひとつ、またひとつと、たいまつに火が灯っていく。

それは安土城から広がる何本もの火柱となり城下へと連なっていく。
その揺らめく幻想的な灯かりは辺り一帯を淡く映し出しまるで黄泉の国に足を踏み入れたような景色が広がる。

そうまるで懐かしいあの日を想い出すような光景。

紫陽寺の祭りを見に、歌奈と歩いた本堂へと続く参道。両脇に咲く紫陽花と共に淡く光るライトアップの灯かり。
いつか必ずこの私の時代で試してみようと長年心に秘めていた。

その願いが今叶う・・

幻想的な灯かりが城下と城を照らす。
「歌奈にも見せたいな…」
思いがけず声になってしまったその切なさで不覚にも涙が頬を伝った。
「お館様・・」
「なに・・今日だけだ・・今だけだよ・・」


「昔・・私が初めて未来に翔んだ時、平野の母上に連れていって貰った商店街は驚きの連続だった。その中で、働く者、皆が生き生きとし自由に平和に暮らしていることが、どれ程羨ましかったか・・あの頃はまだ天下を取る事など夢にも思っていなかったが、せめて自分の国だけでもあのような世界にしたいと心から願ったものだ。」

「そうですね・・でもあんな平和な時代になるまで日本という国も紆余曲折、様々な辛い時代もあったんですよ。今のこの戦乱の時代を終わらせる事と同じくらい多大な犠牲を払ってきたんです。私はその平和な時代に産まれて、戦乱の世など考えた事もありませんでしたが、今現実にこの乱世にいると自分が生まれ育ったあの時代は確かに羨ましいと思ってしまいます。」

「お前もそう思うのか?」

「思いますよ!私はもうこの時代の人間になってるんですから!向こうにいたらこんな野蛮な?性格になんてなってなかったと思うし、もっと穏やかに暮らしてたはずですよ!仕事とかしてたとしても上司に対してこんなに丁寧な言葉使いだってきっとしてませんよ!どれだけこの時代に適応したと思ってるんですか!」

「確かに・・今のお前は筋金入りの武将だし、敬語も尾張なまりも本当に板についているからな~」

秀吉は憮然とした顔で私を睨んだ。


この夜のたいまつの灯は、安土城の荘厳さと豪華さに、より一層の迫力を見せつけ、見る者を圧倒した。

織田信長は名実ともに天下の覇者と恐れられ、築城を成し遂げた羽柴秀吉の手腕と名声もその噂と共に全国に広まっていった。



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