いまさら!のぶなが?

華猫

文字の大きさ
上 下
43 / 58
第一章

結末

しおりを挟む
信長の脳裏にはまるで走馬灯のように過去の出来事が流れていた。
それは数々の裏切りの末路…


足利義昭のそれは、私達が企み義昭公に裏切らせるという、ある意味、当人にとっては気の毒な設定ではあったにせよ、当初その温厚な性格や優柔不断な思考を危惧していた私達の心配をよそに、いとも簡単に裏切ってくれた。
臆病なあやつはあっという間に私に対する猜疑心を募らせ、次々と勝手に頼る相手を代えていった。器の小さなあのお人は、知略や策略など巡らせなくとも、いつか必ず私を裏切ったであろう。

その義昭公の愚行の一役を担っていた越前の朝倉義景は初めから胡散臭い奴だった。
義昭公を一緒に祭り上げた時から一度たりとも信用などない、始めからの敵であった。
そしてこの義景は噂通り計算高く知略に長け、最後の最後まで抗い続けた。弟の朝倉景高を調略しやっとの思いで討ち滅ぼす事が出来た時、私は精も魂も尽き果てた。

そして、その義景と手を組み私を裏切った浅井長政。

今でも忘れられぬ痛みとして弟、信勝と同じく深く心に突き刺さっている義弟、長政の裏切り。

金ヶ崎の戦でこっぴどく裏切られる事はもちろん知ってはいたが、それまで長政との関係は良好だっただけに、心のどこかでもしかしたら?という少なからぬ期待があった。

しかし長政は私を裏切った。

長政に嫁がせていた妹の市とその子供達を救えた事だけが私自身の救いだった。

もし長政が私を裏切らなかったら…

長政を生き長らえさせる方法を、性懲りもなく必死に考えていた私にとって、弟、信勝を殺めた時のように、ただただ激しい痛みが残っただけだった。織田信長ではない「私」の残忍さを増大させただけだった。



そして今・・

私の目の前に座っている徳川家康の…妻であった築山。

それは永禄10年・・
以前から歌奈が言っていたように家康の長男、信康に嫁がせていた娘の五徳が、義母の築山と武田信玄の結託を知らせて来た事から始まった。

調べの結果は明白で築山と信康の武田方との内通が判明した。

そう、私達を悩ませる一大事であるが、私は迷わず死罪と告げた。

しかし、家康の反応はいたって冷静だった。

そして語り始めた・・

「妻は結婚した当初から私のことは馬鹿にしておりました。もちろん情なんてありません。そもそも彼女は今川の縁者です。本家から言われ渋々私と結婚したんです。それは義元公が体裁を繕うという形だけの夫婦です。人質の子でも自分の縁者を嫁にしてやったと世間に誇る為にした事だったんです。もちろん、築山は妻の務めなど全くせず、それどころか自分のやりたい放題で私の事など、ただのお飾りと思っていました。そして…それだけではありません。私達は夫婦じゃないのです。なので…信康も私の息子ではないのです。ですから、信長様、気にしないで下さい。私には初めから妻も子もいない。妻にとっても主人などいないのです。」

衝撃的だった。

「その・・信康が自分の子ではないという事は・・実際に心当たりはあるのか?」

「心当たりなんてありません。しかし成長していく息子の顔を見ていれば自ずと答えは出ました。」

家康は最後まで毅然とした態度で私に向かい合い・・

「信長様。私はちょうど良かったとさえ思っています。あの女は危険です。生かしておけばきっとこれからも禍を招く原因になる事でしょう。ですから私は築山とは縁を切りたいと思ってきました。そして出来る事なら早くこの悍ましい世界から離れたいと思うのです。ただ、実の息子では無いとは言え信康には情はございます。あの子は不憫に思うのです・・」

かける言葉が見つからなかった私はせめてもの救いに信康の命を助けた。

しかし、家康が危惧した通り築山が禍となり程なくして信康にも死罪を命じる事となった。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

楽将伝

九情承太郎
歴史・時代
三人の天下人と、最も遊んだ楽将・金森長近(ながちか)のスチャラカ戦国物語 織田信長の親衛隊は 気楽な稼業と きたもんだ(嘘) 戦国史上、最もブラックな職場 「織田信長の親衛隊」 そこで働きながらも、マイペースを貫く、趣味の人がいた 金森可近(ありちか)、後の長近(ながちか) 天下人さえ遊びに来る、趣味の達人の物語を、ご賞味ください!!

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

獅子の末裔

卯花月影
歴史・時代
未だ戦乱続く近江の国に生まれた蒲生氏郷。主家・六角氏を揺るがした六角家騒動がようやく落ち着いてきたころ、目の前に現れたのは天下を狙う織田信長だった。 和歌をこよなく愛する温厚で無力な少年は、信長にその非凡な才を見いだされ、戦国武将として成長し、開花していく。 前作「滝川家の人びと」の続編です。途中、エピソードの被りがありますが、蒲生氏郷視点で描かれます。

敵は家康

早川隆
歴史・時代
旧題:礫-つぶて- 【第六回アルファポリス歴史・時代小説大賞 特別賞受賞作品】 俺は石ころじゃない、礫(つぶて)だ!桶狭間前夜を駆ける無名戦士達の物語。永禄3年5月19日の早朝。桶狭間の戦いが起こるほんの数時間ほど前の話。出撃に際し戦勝祈願に立ち寄った熱田神宮の拝殿で、織田信長の眼に、彼方の空にあがる二条の黒い煙が映った。重要拠点の敵を抑止する付け城として築かれた、鷲津砦と丸根砦とが、相前後して炎上、陥落したことを示す煙だった。敵は、餌に食いついた。ひとりほくそ笑む信長。しかし、引き続く歴史的大逆転の影には、この両砦に籠って戦い、玉砕した、名もなき雑兵どもの人生と、夢があったのである・・・ 本編は「信長公記」にも記された、このプロローグからわずかに時間を巻き戻し、弥七という、矢作川の流域に棲む河原者(被差別民)の子供が、ある理不尽な事件に巻き込まれたところからはじまります。逃亡者となった彼は、やがて国境を越え、風雲急を告げる東尾張へ。そして、戦地を駆ける黒鍬衆の一人となって、底知れぬ謀略と争乱の渦中に巻き込まれていきます。そして、最後に行き着いた先は? ストーリーはフィクションですが、周辺の歴史事件など、なるべく史実を踏みリアリティを追求しました。戦場を駆ける河原者二人の眼で、戦国時代を体感しに行きましょう!

戦国を駆ける軍師・雪之丞見参!

沙羅双樹
歴史・時代
川中島の合戦で亡くなった軍師、山本勘助に嫡男がいた。その男は、山本雪之丞と言い、頭が良く、姿かたちも美しい若者であった。その日、信玄の館を訪れた雪之丞は、上洛の手段を考えている信玄に、「第二啄木鳥の戦法」を提案したのだった……。 この小説はカクヨムに連載中の「武田信玄上洛記」を大幅に加筆訂正したものです。より読みやすく面白く書き直しました。「武田信玄上洛の巻」の後は、「明智光秀の本能寺の変の巻」、さらにそのあとは鎌倉の商人、紅屋庄右衛門が登場する「商売人、紅屋庄右衛門の巻」、そして下野の国宇都宮で摩耶姫に会う「妖美なる姫君、摩耶姫の巻」へと展開していきます。

出撃!特殊戦略潜水艦隊

ノデミチ
歴史・時代
海の狩人、潜水艦。 大国アメリカと短期決戦を挑む為に、連合艦隊司令山本五十六の肝入りで創設された秘匿潜水艦。 戦略潜水戦艦 伊号第500型潜水艦〜2隻。 潜水空母   伊号第400型潜水艦〜4隻。 広大な太平洋を舞台に大暴れする連合艦隊の秘密兵器。 一度書いてみたかったIF戦記物。 この機会に挑戦してみます。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

処理中です...