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第一章
作戦
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信長は歌奈と子供の住まいを「吉乃庵」と名付けた。
同時に身寄りのない子供達を引き取り、信長と吉乃の二人の子供として育て始めた。
そして、歌奈が帰るであろう三か月が訪れる前に、出来る限り今後を考えた計画を練っておこうと作戦会議に入った。
「歌奈のおかげで、これは大きなヒントになったね。私の考えを簡単に言えば、お館様が家康の代わりに天下人になればいいってことだ。歌奈が吉乃になったようにね。」
秀吉は得意満面にそう言ったが信長は怪訝そうな顔で詳細を促した。
「秀吉、吉乃は存在してなかったから何とかなったが、元康(家康)は実際にいるじゃないか?そこはどうやって私が元康(家康)になれるというんだ?ましてや本能寺の変で私は死ななければならない。私の代わりに元康(家康)に死んでくれとでもいうのか?」
「そこなんだ・・確かに元康(家康)殿とお館様が本能寺で入れ替わって貰うのが一番手っ取り早いんだけど・・簡単に「本能寺で死んでくれ!」って言う訳にも行かないしね。でも、正直、元康(家康)殿が実際に天下を取れるような方なのかそうでないのか・・まだ判断も付かない。だけど方向性は間違ってないと思うんだ。しかし事はそんなに簡単じゃないからね・・まあ~この先少しずつ考えていこう。」
「そうだな・・そうするしか無いだろう。」
信長はそう呟いて話しを続けた。
「そもそも私は太平の世を作りたいと思っているのが先なんだ。だからもし本能寺で死ぬことになっても元康(家康)がその意志を繋いでくれるのなら、それでも良いと思っている。ただ、そうでないならやはり密かに本能寺を生き延びて、太平の未来を創る為に陰ながらでも貢献をしたいと思っている。しかし、それを見極めるのはまだ先の事。元康(家康)との同盟さえもまだ先の話しだ。この後は先ず、今川や武田を始めとする諸国を制しなければならないから、今は現状を変えることなくそちらの対処をすることが先決だと思っている。」
「確かに、お館様が言う通り先ずは、過去を変えずに如何にして本能寺の変まで持って行くのかが大事って事だ。とにかく今の目先を上手く乗り切る事を考えながらってとこだね。」
二人は顔を見合わせ大きく頷いた。
2人の話しを黙って聞いていた歌奈が1つの疑問を言い出した。
「あなた達の計画は分かったけど、実は私、1つ心配してる事があるの。それは明智光秀の事なんだけど・・彼はもう存在しているよね?出来れば所在を確かめておいた方が良いと思う。」
「光秀か・・」
「うん。秀一も知ってると思うけど、歴史上でもその出自が疑問視されてるでしょう。何だか不安なのよ。」
「そうだな・・吉乃も存在していなかったくらいだから、光秀もあり得るって事だな。なら、お館様が濃姫に聞いてみるってのはどうかな?そもそも明智一族は濃姫と縁戚関係だろ。濃姫なら何か知ってるんじゃないかな?」
「そうだな。ただ濃姫から上手く聞き出せるかどうかは私にも分からない。何と言っても、私達は形ばかりの夫婦だから普段からまともに話しもしないからな~」
「私、そこが変だと思ってたのよね~。だって貴方たちはもう何年も夫婦として暮らしているのに未だに敵同士みたいな生活って・・この時代の政略結婚って本当にそういうものなの?」
歌奈の不意な問いかけに信長は神妙な顔で答えた。
「他の夫婦の事はよく知らないが、少なくとも私達は本当に名前だけの夫婦だよ。でも濃姫に関して言えば敵として私を憎んでるとか嫌いだとかそういう感じではないと思う。常に穏やかには暮らしているから・・ただ敢えて私には心を開きたくない、私とは打ち解けたくないといった様子に見えるな。」
「なるほど・・あなたの事が嫌いではない・・なら、たとえ政略結婚だとしても何年も経ってしまえば、夫婦としては多少なりとも成立していくのが普通よね。それを拒んでるって事は・・ホントは結婚前に想ってた人でもいたんじゃないの?そして今でもその人に操を立てているとか?」
「なるほど!あり得るかも!」
「秀一!何かの時代劇でもあったじゃない!濃姫の好きだった人が明智光秀だったってストーリーが・・もしそうだとしたら大変よ。濃姫はこのまま蚊帳の外って訳には行かなくなるよ。事と次第によっては遠ざけるか、仲間に引き入れるかしないと今後の計画に響いてくるのは間違いないと思う。」
「確かに、歌奈の言う通りだな。このままにはしておけない。どんな形でさえ私の妻には間違いないのだから。責任は持たないと・・」
「分かった。じゃあ濃姫と明智光秀の事をハッキリさせる。それを今日の議題によう。」
三人は暫くの議論の結果、1つの芝居を打つことに決めた。
「歌奈には負担がかかるけど大丈夫かい?」
「心配しないで!上手くやってみせる。もし違う展開になったとしてもなんとか濃姫の本心を探ってみるから心配しないで任せて頂戴!」
その日信長は、朝餉の際に濃姫にこう切り出した。
「急で悪いんだが・・その・・今後の事もあるから吉乃を呼んだ。いつかは挨拶をさせようと思っていたんだが今日になった。取り敢えず会ってやってくれるか?」
突然の事に驚きを隠せずにいた濃姫だったが「分かりました」と返事を返した。
同時に身寄りのない子供達を引き取り、信長と吉乃の二人の子供として育て始めた。
そして、歌奈が帰るであろう三か月が訪れる前に、出来る限り今後を考えた計画を練っておこうと作戦会議に入った。
「歌奈のおかげで、これは大きなヒントになったね。私の考えを簡単に言えば、お館様が家康の代わりに天下人になればいいってことだ。歌奈が吉乃になったようにね。」
秀吉は得意満面にそう言ったが信長は怪訝そうな顔で詳細を促した。
「秀吉、吉乃は存在してなかったから何とかなったが、元康(家康)は実際にいるじゃないか?そこはどうやって私が元康(家康)になれるというんだ?ましてや本能寺の変で私は死ななければならない。私の代わりに元康(家康)に死んでくれとでもいうのか?」
「そこなんだ・・確かに元康(家康)殿とお館様が本能寺で入れ替わって貰うのが一番手っ取り早いんだけど・・簡単に「本能寺で死んでくれ!」って言う訳にも行かないしね。でも、正直、元康(家康)殿が実際に天下を取れるような方なのかそうでないのか・・まだ判断も付かない。だけど方向性は間違ってないと思うんだ。しかし事はそんなに簡単じゃないからね・・まあ~この先少しずつ考えていこう。」
「そうだな・・そうするしか無いだろう。」
信長はそう呟いて話しを続けた。
「そもそも私は太平の世を作りたいと思っているのが先なんだ。だからもし本能寺で死ぬことになっても元康(家康)がその意志を繋いでくれるのなら、それでも良いと思っている。ただ、そうでないならやはり密かに本能寺を生き延びて、太平の未来を創る為に陰ながらでも貢献をしたいと思っている。しかし、それを見極めるのはまだ先の事。元康(家康)との同盟さえもまだ先の話しだ。この後は先ず、今川や武田を始めとする諸国を制しなければならないから、今は現状を変えることなくそちらの対処をすることが先決だと思っている。」
「確かに、お館様が言う通り先ずは、過去を変えずに如何にして本能寺の変まで持って行くのかが大事って事だ。とにかく今の目先を上手く乗り切る事を考えながらってとこだね。」
二人は顔を見合わせ大きく頷いた。
2人の話しを黙って聞いていた歌奈が1つの疑問を言い出した。
「あなた達の計画は分かったけど、実は私、1つ心配してる事があるの。それは明智光秀の事なんだけど・・彼はもう存在しているよね?出来れば所在を確かめておいた方が良いと思う。」
「光秀か・・」
「うん。秀一も知ってると思うけど、歴史上でもその出自が疑問視されてるでしょう。何だか不安なのよ。」
「そうだな・・吉乃も存在していなかったくらいだから、光秀もあり得るって事だな。なら、お館様が濃姫に聞いてみるってのはどうかな?そもそも明智一族は濃姫と縁戚関係だろ。濃姫なら何か知ってるんじゃないかな?」
「そうだな。ただ濃姫から上手く聞き出せるかどうかは私にも分からない。何と言っても、私達は形ばかりの夫婦だから普段からまともに話しもしないからな~」
「私、そこが変だと思ってたのよね~。だって貴方たちはもう何年も夫婦として暮らしているのに未だに敵同士みたいな生活って・・この時代の政略結婚って本当にそういうものなの?」
歌奈の不意な問いかけに信長は神妙な顔で答えた。
「他の夫婦の事はよく知らないが、少なくとも私達は本当に名前だけの夫婦だよ。でも濃姫に関して言えば敵として私を憎んでるとか嫌いだとかそういう感じではないと思う。常に穏やかには暮らしているから・・ただ敢えて私には心を開きたくない、私とは打ち解けたくないといった様子に見えるな。」
「なるほど・・あなたの事が嫌いではない・・なら、たとえ政略結婚だとしても何年も経ってしまえば、夫婦としては多少なりとも成立していくのが普通よね。それを拒んでるって事は・・ホントは結婚前に想ってた人でもいたんじゃないの?そして今でもその人に操を立てているとか?」
「なるほど!あり得るかも!」
「秀一!何かの時代劇でもあったじゃない!濃姫の好きだった人が明智光秀だったってストーリーが・・もしそうだとしたら大変よ。濃姫はこのまま蚊帳の外って訳には行かなくなるよ。事と次第によっては遠ざけるか、仲間に引き入れるかしないと今後の計画に響いてくるのは間違いないと思う。」
「確かに、歌奈の言う通りだな。このままにはしておけない。どんな形でさえ私の妻には間違いないのだから。責任は持たないと・・」
「分かった。じゃあ濃姫と明智光秀の事をハッキリさせる。それを今日の議題によう。」
三人は暫くの議論の結果、1つの芝居を打つことに決めた。
「歌奈には負担がかかるけど大丈夫かい?」
「心配しないで!上手くやってみせる。もし違う展開になったとしてもなんとか濃姫の本心を探ってみるから心配しないで任せて頂戴!」
その日信長は、朝餉の際に濃姫にこう切り出した。
「急で悪いんだが・・その・・今後の事もあるから吉乃を呼んだ。いつかは挨拶をさせようと思っていたんだが今日になった。取り敢えず会ってやってくれるか?」
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