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第一章
初恋
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(戻ったな)
池のほとりの紫陽花を確認して振り向き私は仰天した。
「歌奈!どうしてここに!」
「ごめんなさい!このまま三郎と別れると思ったらつい、飛び込んじゃった・・それにね、私だって一度くらいは三郎の生きている世界を見てみたいじゃない?久しぶりに秀一にだって会いたいし!」
そう言ってずぶ濡れのまま無邪気に笑う歌奈を見て私は呆れるしかなかった。
「そうは言っても危険じゃないか!おまえに何かあったら私はどうすればいいんだ!」
「ホント!ごめんなさい!でも私言ったよね?「すぐに」って・・で、あんたも「すぐにだ」って言ってたよね?」
「それは!そうだけど・・もう~仕方ないな・・」
私は、動揺を隠せないまま、しかしずぶ濡れで謝り続ける歌奈を見ているとやはり嬉しさが込み上げて来る。
それにしても、まるで以前と同じ光景だ。
そう秀吉が付いて来た時・・
そしてやっぱり今回も万松寺ではなく中村の山頂に出たらしい。
それにしても何故かいつでも紫陽花が咲いている。
今まで気にも留めずに当たり前のように思っていたが、妙な話しだ。季節でもないのに・・まるで目印のようだ。
(そう言えば・・紫陽寺の家訓にも「紫陽花と共に」ってあったな・・)
そんな事を考えていると傍にいる歌奈の様子がおかしくなった。
「三郎・・なんかフラフラするんだけど。あんたが言ってたのってこういう事なのね・・」
そう言って歌奈が崩れて行く。
「あっ!そうだった!忘れてた!」
こんな事もあろうかと、小一郎の実家にちょっとした屋敷を構させておいた自分を褒めながら、気を失った歌奈を抱き上げ急いで山を下りた。
「お館様!大丈夫ですか!」
歌奈を抱えてやっとの思いで中村の屋敷に辿り着いた私を見て、屋敷の者たちは慌てふためいた。
「私はまだ大丈夫だ!だがすぐに私の意識もなくなるだろうから、急いで小一郎に使いを出して私達を秀吉の屋敷に運ぶように伝えてくれ。」
「分かりました!すぐ旦那様に伝えます!」
そう言って慌てるさまを横目で見ながらふと思った・・
(私が初めて平成に行った時も、秀吉が初めてここに来た時もそして今回の歌奈もすぐに意識を無くしたが、私は耐性が付いたのか意識が無くなるのが随分と遅くなったようだ・・)
一通り采配を終え、傍らの歌奈に目をやると、まるで眠っているかのように穏やかだ。
その顔を見ていると自然と笑みが零れる。
まさかここまで付いてくるとは・・
これは私の初恋・・
そして目の前にいるのは、何年も前から時折、脳裏に浮かぶ愛する人だ。
湧き上がる感情で身体が熱く感じた。
(歌奈は私の事を本当はどう思っているんだろう?あの口づけは?信じていいのだろうか・・)
遠のく意識の中でそんな事を考えていた・・
目が覚めると小一郎の顔が飛び込んで来て私は思わず声を上げた。
「びっくりするじゃないか!小一郎!なにしてるんだよ!」
「いや~2度目ですから慣れてはいるんですけど、それでもお館様がお目覚めになるまで心配だったもんで・・」
その言葉にに思わず笑いが込み上げる。
「あ!お館様。心配しないで下さい。一緒に連れて来た女の人は大切に秀吉様が見てらっしゃいます。あ!もちろん見ているのは侍女ですからね。では、私はお館様がお目覚めになったと秀吉様に知らせて来ます。」
部屋を出て行く小一郎の背中に私は声を掛けた。
「小一郎・・お前の兄に会ってきた。とても元気にしていた。お前や家族の事、心配していたが私が責任をもって世話をすると伝えてきたよ。」
一瞬、硬直した小一郎は、その後、ゆっくりと振り向き深々と頭を下げた。
「お館様、ありがとうございます。どこにいようと生きているだけで十分です。そして私はお館様と秀吉様に生涯お仕えするだけでございます。」
「ああ、ありがとう。」
小一郎は信頼のおける良く出来た男だ。その出自とは思えないほど優秀で頭も切れるし気も利く、秀吉を兄と慕い心から尽くしている。
(温和で冷静沈着な豊臣秀長か・・)
「なによ!秀一ったら自分が先に三郎を追いかけてきたくせに、私はダメだって言うの!」
「俺は男だから良いんだ!お前は女だろう!危ないじゃないか。ましてやお前までいなくなったら向こうの世界はどうするんだよ。あまりにも軽率過ぎだ!」
「古臭いわね!男とか女とか関係ないでしょ!」
あきれ果て怒る秀吉と拗ねる歌奈を宥め説き伏せて、取り合えず、歌奈の住まいを秀吉の屋敷の傍に設えさせた。
歌奈の存在もまた、誰にも知られるわけにはいかないが、三か月は確実にこの世界にいる事になるのだから適当とはいかない。
しかし、私にとってのこれからの数カ月は楽しみでありながらも、相当やっかいな時間になることは間違いなかった。
池のほとりの紫陽花を確認して振り向き私は仰天した。
「歌奈!どうしてここに!」
「ごめんなさい!このまま三郎と別れると思ったらつい、飛び込んじゃった・・それにね、私だって一度くらいは三郎の生きている世界を見てみたいじゃない?久しぶりに秀一にだって会いたいし!」
そう言ってずぶ濡れのまま無邪気に笑う歌奈を見て私は呆れるしかなかった。
「そうは言っても危険じゃないか!おまえに何かあったら私はどうすればいいんだ!」
「ホント!ごめんなさい!でも私言ったよね?「すぐに」って・・で、あんたも「すぐにだ」って言ってたよね?」
「それは!そうだけど・・もう~仕方ないな・・」
私は、動揺を隠せないまま、しかしずぶ濡れで謝り続ける歌奈を見ているとやはり嬉しさが込み上げて来る。
それにしても、まるで以前と同じ光景だ。
そう秀吉が付いて来た時・・
そしてやっぱり今回も万松寺ではなく中村の山頂に出たらしい。
それにしても何故かいつでも紫陽花が咲いている。
今まで気にも留めずに当たり前のように思っていたが、妙な話しだ。季節でもないのに・・まるで目印のようだ。
(そう言えば・・紫陽寺の家訓にも「紫陽花と共に」ってあったな・・)
そんな事を考えていると傍にいる歌奈の様子がおかしくなった。
「三郎・・なんかフラフラするんだけど。あんたが言ってたのってこういう事なのね・・」
そう言って歌奈が崩れて行く。
「あっ!そうだった!忘れてた!」
こんな事もあろうかと、小一郎の実家にちょっとした屋敷を構させておいた自分を褒めながら、気を失った歌奈を抱き上げ急いで山を下りた。
「お館様!大丈夫ですか!」
歌奈を抱えてやっとの思いで中村の屋敷に辿り着いた私を見て、屋敷の者たちは慌てふためいた。
「私はまだ大丈夫だ!だがすぐに私の意識もなくなるだろうから、急いで小一郎に使いを出して私達を秀吉の屋敷に運ぶように伝えてくれ。」
「分かりました!すぐ旦那様に伝えます!」
そう言って慌てるさまを横目で見ながらふと思った・・
(私が初めて平成に行った時も、秀吉が初めてここに来た時もそして今回の歌奈もすぐに意識を無くしたが、私は耐性が付いたのか意識が無くなるのが随分と遅くなったようだ・・)
一通り采配を終え、傍らの歌奈に目をやると、まるで眠っているかのように穏やかだ。
その顔を見ていると自然と笑みが零れる。
まさかここまで付いてくるとは・・
これは私の初恋・・
そして目の前にいるのは、何年も前から時折、脳裏に浮かぶ愛する人だ。
湧き上がる感情で身体が熱く感じた。
(歌奈は私の事を本当はどう思っているんだろう?あの口づけは?信じていいのだろうか・・)
遠のく意識の中でそんな事を考えていた・・
目が覚めると小一郎の顔が飛び込んで来て私は思わず声を上げた。
「びっくりするじゃないか!小一郎!なにしてるんだよ!」
「いや~2度目ですから慣れてはいるんですけど、それでもお館様がお目覚めになるまで心配だったもんで・・」
その言葉にに思わず笑いが込み上げる。
「あ!お館様。心配しないで下さい。一緒に連れて来た女の人は大切に秀吉様が見てらっしゃいます。あ!もちろん見ているのは侍女ですからね。では、私はお館様がお目覚めになったと秀吉様に知らせて来ます。」
部屋を出て行く小一郎の背中に私は声を掛けた。
「小一郎・・お前の兄に会ってきた。とても元気にしていた。お前や家族の事、心配していたが私が責任をもって世話をすると伝えてきたよ。」
一瞬、硬直した小一郎は、その後、ゆっくりと振り向き深々と頭を下げた。
「お館様、ありがとうございます。どこにいようと生きているだけで十分です。そして私はお館様と秀吉様に生涯お仕えするだけでございます。」
「ああ、ありがとう。」
小一郎は信頼のおける良く出来た男だ。その出自とは思えないほど優秀で頭も切れるし気も利く、秀吉を兄と慕い心から尽くしている。
(温和で冷静沈着な豊臣秀長か・・)
「なによ!秀一ったら自分が先に三郎を追いかけてきたくせに、私はダメだって言うの!」
「俺は男だから良いんだ!お前は女だろう!危ないじゃないか。ましてやお前までいなくなったら向こうの世界はどうするんだよ。あまりにも軽率過ぎだ!」
「古臭いわね!男とか女とか関係ないでしょ!」
あきれ果て怒る秀吉と拗ねる歌奈を宥め説き伏せて、取り合えず、歌奈の住まいを秀吉の屋敷の傍に設えさせた。
歌奈の存在もまた、誰にも知られるわけにはいかないが、三か月は確実にこの世界にいる事になるのだから適当とはいかない。
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