27 / 58
第一章
初恋
しおりを挟む
(戻ったな)
池のほとりの紫陽花を確認して振り向き私は仰天した。
「歌奈!どうしてここに!」
「ごめんなさい!このまま三郎と別れると思ったらつい、飛び込んじゃった・・それにね、私だって一度くらいは三郎の生きている世界を見てみたいじゃない?久しぶりに秀一にだって会いたいし!」
そう言ってずぶ濡れのまま無邪気に笑う歌奈を見て私は呆れるしかなかった。
「そうは言っても危険じゃないか!おまえに何かあったら私はどうすればいいんだ!」
「ホント!ごめんなさい!でも私言ったよね?「すぐに」って・・で、あんたも「すぐにだ」って言ってたよね?」
「それは!そうだけど・・もう~仕方ないな・・」
私は、動揺を隠せないまま、しかしずぶ濡れで謝り続ける歌奈を見ているとやはり嬉しさが込み上げて来る。
それにしても、まるで以前と同じ光景だ。
そう秀吉が付いて来た時・・
そしてやっぱり今回も万松寺ではなく中村の山頂に出たらしい。
それにしても何故かいつでも紫陽花が咲いている。
今まで気にも留めずに当たり前のように思っていたが、妙な話しだ。季節でもないのに・・まるで目印のようだ。
(そう言えば・・紫陽寺の家訓にも「紫陽花と共に」ってあったな・・)
そんな事を考えていると傍にいる歌奈の様子がおかしくなった。
「三郎・・なんかフラフラするんだけど。あんたが言ってたのってこういう事なのね・・」
そう言って歌奈が崩れて行く。
「あっ!そうだった!忘れてた!」
こんな事もあろうかと、小一郎の実家にちょっとした屋敷を構させておいた自分を褒めながら、気を失った歌奈を抱き上げ急いで山を下りた。
「お館様!大丈夫ですか!」
歌奈を抱えてやっとの思いで中村の屋敷に辿り着いた私を見て、屋敷の者たちは慌てふためいた。
「私はまだ大丈夫だ!だがすぐに私の意識もなくなるだろうから、急いで小一郎に使いを出して私達を秀吉の屋敷に運ぶように伝えてくれ。」
「分かりました!すぐ旦那様に伝えます!」
そう言って慌てるさまを横目で見ながらふと思った・・
(私が初めて平成に行った時も、秀吉が初めてここに来た時もそして今回の歌奈もすぐに意識を無くしたが、私は耐性が付いたのか意識が無くなるのが随分と遅くなったようだ・・)
一通り采配を終え、傍らの歌奈に目をやると、まるで眠っているかのように穏やかだ。
その顔を見ていると自然と笑みが零れる。
まさかここまで付いてくるとは・・
これは私の初恋・・
そして目の前にいるのは、何年も前から時折、脳裏に浮かぶ愛する人だ。
湧き上がる感情で身体が熱く感じた。
(歌奈は私の事を本当はどう思っているんだろう?あの口づけは?信じていいのだろうか・・)
遠のく意識の中でそんな事を考えていた・・
目が覚めると小一郎の顔が飛び込んで来て私は思わず声を上げた。
「びっくりするじゃないか!小一郎!なにしてるんだよ!」
「いや~2度目ですから慣れてはいるんですけど、それでもお館様がお目覚めになるまで心配だったもんで・・」
その言葉にに思わず笑いが込み上げる。
「あ!お館様。心配しないで下さい。一緒に連れて来た女の人は大切に秀吉様が見てらっしゃいます。あ!もちろん見ているのは侍女ですからね。では、私はお館様がお目覚めになったと秀吉様に知らせて来ます。」
部屋を出て行く小一郎の背中に私は声を掛けた。
「小一郎・・お前の兄に会ってきた。とても元気にしていた。お前や家族の事、心配していたが私が責任をもって世話をすると伝えてきたよ。」
一瞬、硬直した小一郎は、その後、ゆっくりと振り向き深々と頭を下げた。
「お館様、ありがとうございます。どこにいようと生きているだけで十分です。そして私はお館様と秀吉様に生涯お仕えするだけでございます。」
「ああ、ありがとう。」
小一郎は信頼のおける良く出来た男だ。その出自とは思えないほど優秀で頭も切れるし気も利く、秀吉を兄と慕い心から尽くしている。
(温和で冷静沈着な豊臣秀長か・・)
「なによ!秀一ったら自分が先に三郎を追いかけてきたくせに、私はダメだって言うの!」
「俺は男だから良いんだ!お前は女だろう!危ないじゃないか。ましてやお前までいなくなったら向こうの世界はどうするんだよ。あまりにも軽率過ぎだ!」
「古臭いわね!男とか女とか関係ないでしょ!」
あきれ果て怒る秀吉と拗ねる歌奈を宥め説き伏せて、取り合えず、歌奈の住まいを秀吉の屋敷の傍に設えさせた。
歌奈の存在もまた、誰にも知られるわけにはいかないが、三か月は確実にこの世界にいる事になるのだから適当とはいかない。
しかし、私にとってのこれからの数カ月は楽しみでありながらも、相当やっかいな時間になることは間違いなかった。
池のほとりの紫陽花を確認して振り向き私は仰天した。
「歌奈!どうしてここに!」
「ごめんなさい!このまま三郎と別れると思ったらつい、飛び込んじゃった・・それにね、私だって一度くらいは三郎の生きている世界を見てみたいじゃない?久しぶりに秀一にだって会いたいし!」
そう言ってずぶ濡れのまま無邪気に笑う歌奈を見て私は呆れるしかなかった。
「そうは言っても危険じゃないか!おまえに何かあったら私はどうすればいいんだ!」
「ホント!ごめんなさい!でも私言ったよね?「すぐに」って・・で、あんたも「すぐにだ」って言ってたよね?」
「それは!そうだけど・・もう~仕方ないな・・」
私は、動揺を隠せないまま、しかしずぶ濡れで謝り続ける歌奈を見ているとやはり嬉しさが込み上げて来る。
それにしても、まるで以前と同じ光景だ。
そう秀吉が付いて来た時・・
そしてやっぱり今回も万松寺ではなく中村の山頂に出たらしい。
それにしても何故かいつでも紫陽花が咲いている。
今まで気にも留めずに当たり前のように思っていたが、妙な話しだ。季節でもないのに・・まるで目印のようだ。
(そう言えば・・紫陽寺の家訓にも「紫陽花と共に」ってあったな・・)
そんな事を考えていると傍にいる歌奈の様子がおかしくなった。
「三郎・・なんかフラフラするんだけど。あんたが言ってたのってこういう事なのね・・」
そう言って歌奈が崩れて行く。
「あっ!そうだった!忘れてた!」
こんな事もあろうかと、小一郎の実家にちょっとした屋敷を構させておいた自分を褒めながら、気を失った歌奈を抱き上げ急いで山を下りた。
「お館様!大丈夫ですか!」
歌奈を抱えてやっとの思いで中村の屋敷に辿り着いた私を見て、屋敷の者たちは慌てふためいた。
「私はまだ大丈夫だ!だがすぐに私の意識もなくなるだろうから、急いで小一郎に使いを出して私達を秀吉の屋敷に運ぶように伝えてくれ。」
「分かりました!すぐ旦那様に伝えます!」
そう言って慌てるさまを横目で見ながらふと思った・・
(私が初めて平成に行った時も、秀吉が初めてここに来た時もそして今回の歌奈もすぐに意識を無くしたが、私は耐性が付いたのか意識が無くなるのが随分と遅くなったようだ・・)
一通り采配を終え、傍らの歌奈に目をやると、まるで眠っているかのように穏やかだ。
その顔を見ていると自然と笑みが零れる。
まさかここまで付いてくるとは・・
これは私の初恋・・
そして目の前にいるのは、何年も前から時折、脳裏に浮かぶ愛する人だ。
湧き上がる感情で身体が熱く感じた。
(歌奈は私の事を本当はどう思っているんだろう?あの口づけは?信じていいのだろうか・・)
遠のく意識の中でそんな事を考えていた・・
目が覚めると小一郎の顔が飛び込んで来て私は思わず声を上げた。
「びっくりするじゃないか!小一郎!なにしてるんだよ!」
「いや~2度目ですから慣れてはいるんですけど、それでもお館様がお目覚めになるまで心配だったもんで・・」
その言葉にに思わず笑いが込み上げる。
「あ!お館様。心配しないで下さい。一緒に連れて来た女の人は大切に秀吉様が見てらっしゃいます。あ!もちろん見ているのは侍女ですからね。では、私はお館様がお目覚めになったと秀吉様に知らせて来ます。」
部屋を出て行く小一郎の背中に私は声を掛けた。
「小一郎・・お前の兄に会ってきた。とても元気にしていた。お前や家族の事、心配していたが私が責任をもって世話をすると伝えてきたよ。」
一瞬、硬直した小一郎は、その後、ゆっくりと振り向き深々と頭を下げた。
「お館様、ありがとうございます。どこにいようと生きているだけで十分です。そして私はお館様と秀吉様に生涯お仕えするだけでございます。」
「ああ、ありがとう。」
小一郎は信頼のおける良く出来た男だ。その出自とは思えないほど優秀で頭も切れるし気も利く、秀吉を兄と慕い心から尽くしている。
(温和で冷静沈着な豊臣秀長か・・)
「なによ!秀一ったら自分が先に三郎を追いかけてきたくせに、私はダメだって言うの!」
「俺は男だから良いんだ!お前は女だろう!危ないじゃないか。ましてやお前までいなくなったら向こうの世界はどうするんだよ。あまりにも軽率過ぎだ!」
「古臭いわね!男とか女とか関係ないでしょ!」
あきれ果て怒る秀吉と拗ねる歌奈を宥め説き伏せて、取り合えず、歌奈の住まいを秀吉の屋敷の傍に設えさせた。
歌奈の存在もまた、誰にも知られるわけにはいかないが、三か月は確実にこの世界にいる事になるのだから適当とはいかない。
しかし、私にとってのこれからの数カ月は楽しみでありながらも、相当やっかいな時間になることは間違いなかった。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説

楽将伝
九情承太郎
歴史・時代
三人の天下人と、最も遊んだ楽将・金森長近(ながちか)のスチャラカ戦国物語
織田信長の親衛隊は
気楽な稼業と
きたもんだ(嘘)
戦国史上、最もブラックな職場
「織田信長の親衛隊」
そこで働きながらも、マイペースを貫く、趣味の人がいた
金森可近(ありちか)、後の長近(ながちか)
天下人さえ遊びに来る、趣味の達人の物語を、ご賞味ください!!

獅子の末裔
卯花月影
歴史・時代
未だ戦乱続く近江の国に生まれた蒲生氏郷。主家・六角氏を揺るがした六角家騒動がようやく落ち着いてきたころ、目の前に現れたのは天下を狙う織田信長だった。
和歌をこよなく愛する温厚で無力な少年は、信長にその非凡な才を見いだされ、戦国武将として成長し、開花していく。
前作「滝川家の人びと」の続編です。途中、エピソードの被りがありますが、蒲生氏郷視点で描かれます。
敵は家康
早川隆
歴史・時代
旧題:礫-つぶて-
【第六回アルファポリス歴史・時代小説大賞 特別賞受賞作品】
俺は石ころじゃない、礫(つぶて)だ!桶狭間前夜を駆ける無名戦士達の物語。永禄3年5月19日の早朝。桶狭間の戦いが起こるほんの数時間ほど前の話。出撃に際し戦勝祈願に立ち寄った熱田神宮の拝殿で、織田信長の眼に、彼方の空にあがる二条の黒い煙が映った。重要拠点の敵を抑止する付け城として築かれた、鷲津砦と丸根砦とが、相前後して炎上、陥落したことを示す煙だった。敵は、餌に食いついた。ひとりほくそ笑む信長。しかし、引き続く歴史的大逆転の影には、この両砦に籠って戦い、玉砕した、名もなき雑兵どもの人生と、夢があったのである・・・
本編は「信長公記」にも記された、このプロローグからわずかに時間を巻き戻し、弥七という、矢作川の流域に棲む河原者(被差別民)の子供が、ある理不尽な事件に巻き込まれたところからはじまります。逃亡者となった彼は、やがて国境を越え、風雲急を告げる東尾張へ。そして、戦地を駆ける黒鍬衆の一人となって、底知れぬ謀略と争乱の渦中に巻き込まれていきます。そして、最後に行き着いた先は?
ストーリーはフィクションですが、周辺の歴史事件など、なるべく史実を踏みリアリティを追求しました。戦場を駆ける河原者二人の眼で、戦国時代を体感しに行きましょう!
戦国を駆ける軍師・雪之丞見参!
沙羅双樹
歴史・時代
川中島の合戦で亡くなった軍師、山本勘助に嫡男がいた。その男は、山本雪之丞と言い、頭が良く、姿かたちも美しい若者であった。その日、信玄の館を訪れた雪之丞は、上洛の手段を考えている信玄に、「第二啄木鳥の戦法」を提案したのだった……。
この小説はカクヨムに連載中の「武田信玄上洛記」を大幅に加筆訂正したものです。より読みやすく面白く書き直しました。「武田信玄上洛の巻」の後は、「明智光秀の本能寺の変の巻」、さらにそのあとは鎌倉の商人、紅屋庄右衛門が登場する「商売人、紅屋庄右衛門の巻」、そして下野の国宇都宮で摩耶姫に会う「妖美なる姫君、摩耶姫の巻」へと展開していきます。
出撃!特殊戦略潜水艦隊
ノデミチ
歴史・時代
海の狩人、潜水艦。
大国アメリカと短期決戦を挑む為に、連合艦隊司令山本五十六の肝入りで創設された秘匿潜水艦。
戦略潜水戦艦 伊号第500型潜水艦〜2隻。
潜水空母 伊号第400型潜水艦〜4隻。
広大な太平洋を舞台に大暴れする連合艦隊の秘密兵器。
一度書いてみたかったIF戦記物。
この機会に挑戦してみます。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる