いまさら!のぶなが?

華猫

文字の大きさ
上 下
25 / 58
第一章

告白

しおりを挟む
三郎の告白に平野家の面々は暫くの間、何も言えずに困惑していた。

そんな事があるなんてにわかには信じられなかったが、しかし思い返してみれば、この三郎少年と出会った日から彼に会うたび奇妙の連続だったと改めて感じていた。

そんな平野家の反応とは裏腹に、紫陽寺の二人は至って冷静に三郎のその告白を聞き終わると、皆を前に住職は静かに話しだした。

「皆さんに謝らなければなりません。」

急な事に皆がざわつく・・

「実は、私達は初めて三郎さんにお会いした時からこの事実を知っておりました。そして藤吉郎さんが現れた時、歌奈さんから詳細を伺い、そしてこの度、三郎さんとまたお会いして確信いたしました。今まで隠していた事お詫びいたします。」

住職は深々と頭を下げ話しを続けた。

「そもそもこの紫陽寺は皆さんも噂では聞いた事があるかと思いますが、徳川家康公が実際に建立したお寺なんです。初代住職は家康公の側室のお竹の局の連れ子です。なので私達は徳川の末裔という事になりますが、血の繋がりはないので一族のような感じです。このいきさつは当時でもどなたもご存じないので、史実ではお竹の局もそのお子さんも早くに亡くなった事になっています。そうしなければならない理由があり、それほどに内密に作らなければならなかったのがこの紫陽寺なんです。」

皆、息を飲んだ・・

「この秘密を守る事が、徳川家康公の遺言であり我が寺の「家訓」でもあります。そしてその秘密とは・・まさにこの現代に三郎さんが現れる、この事実の事なんです。話せば長くなりますが正直・・三郎さんが現れてから自分たちが何をすればよいのか?具体的な事は殆んど書かれてはおりません。なのでそれを今、皆さんにお見せする事が最善なのではないかと思っています。」

そう言って住職はその『家訓』を目の前に広げた。



皆が慎重に覗き込んだその『家訓』には、確かに三郎の事が書かれてはいたが、今のこの現状が理解出来るほど詳しい記述は一切なかった。
明らかに自分たちの独自の解釈で読み取るしか方法は無いようだった。

「要は、天下泰平の世の中を作る為に力を尽くせって事よね・・」

「そうだな・・って事は徳川が天下人になる為にって事だよな、きっと・・」

「たぶんね・・じゃあ三郎君が家康を助けろって意味じゃないの?」

「うん・・その為に私は未来に来たのか?」

「かもね。で、紫陽寺がバックアップしろって事?」

「はい。そのように読み取れますよね。」

「でも、待って。逆に三郎が何もしなければ家康は天下が取れないって事?」

「・・・!」

「そしたら、未来が変わるよね・・」

「えっ!それやばいくない!」

「ですね・・」

「では、やっぱりその為に私はここに来たんでしょうか?未来を変えない為に・・」

「そんなところでしょうか・・」


【歴史を変えてはいけない!】と言った秀一の言葉は正しかったようだ。
三郎はこの時、自分が平成に跳んだ理由が少しだけ分かったような気がした。


「そう言えば、全然関係ないんだけど・・昔、三郎君を連れて帰ったっていうあの使用人って人はどっから来たの?ほら、イギリスに連れてったっていう・・」

「あっ!それは‥私が用意した・・その・・バイトの俳優さんでして・・」

「ご住職が!?」

「バイトの人・・」

「はい・・すみません・・なにせ助けろという家訓なものですから・・」

「そうですよね~三郎を助けないと自分が助けて貰えないって家康は知っててこのお寺を建てたんですから、当然ですよね~」

「そう言う事になりますか・・」

「私もおかしいとは思ったんですが・・すみません!あの時は突然こっちに戻れたもので、何も答えを用意してなかったのでつい、話しに乗っかっちゃいました・・」

「はは・・まあ仕方ないですよね・・」

皆の引きつった顔に苦笑いが浮かんだ。

「でも皆さん!今日ここで少しですが、私の役目が分かったような気がします。これから何をどうしたらいいかはまだ定かではありませんが、私は取り敢えず私の世界に戻って一旦考えます。向こうには秀一もいる事ですから、二人で相談してみます。それに、歴史的に見ても『本能寺』はまだまだ先の事ですし、それまでは秀一と二人で尽力して見せます。お約束します!歴史は絶対に変えません。その上で、この先に皆さんにお手伝いをお願いする日が来るかもしれませんが、その時はお願いします。」

三郎は深々と頭を下げた。


正直、家康の天下取りと、その後の天下泰平の世を作る為に、自分が何をすれば良いのかなんてさっぱり分からなかったが、それでも三郎の心は決まっていた。

そしてこの先、どんな形にせよ紫陽寺が力添えをしてくれるとご住職は約束してくれた。
それが紫陽花寺の未来永劫の務めだと・・

三郎は改めて自分を奮い立たせた。




「藤吉郎さんですか?こちらに来て不自由はないですか?」
私は初めてその藤吉郎と話す事が出来た。
「はい。お陰様で、みなさんにとても良くして貰っています。お話しはご住職から聞いております。私の家族はその後変わりはないでしょうか?」
「はい。みなさんお変わりなく元気にしています。実はあの後、弟の小一郎さんと縁がありましてね、私の傍で仕えて貰ってます。ここの次男の秀一なんか、小一郎さんを本当の弟のように可愛がっていますよ。」
「そうですか。ありがとうございます。お館様のお役に立てればそれだけで良いのです。」

この人もまた私の人生に関わりを持つ犠牲者だ。

今までいったい何人の人達に犠牲を強いてきただろう。
そしてこれから先も様々な形で多くの人を犠牲にする事になるだろう。
なのに、自分の身内の犠牲に固執していた自分が恥ずかしい。

「ご心配には及びません。お母上達も私が責任をもってお世話しますので安心してください。」

藤吉郎や小一郎・・その家族の為にも・・覚悟は決めた!


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

楽将伝

九情承太郎
歴史・時代
三人の天下人と、最も遊んだ楽将・金森長近(ながちか)のスチャラカ戦国物語 織田信長の親衛隊は 気楽な稼業と きたもんだ(嘘) 戦国史上、最もブラックな職場 「織田信長の親衛隊」 そこで働きながらも、マイペースを貫く、趣味の人がいた 金森可近(ありちか)、後の長近(ながちか) 天下人さえ遊びに来る、趣味の達人の物語を、ご賞味ください!!

【⁉】意味がわかると怖い話【解説あり】

絢郷水沙
ホラー
普通に読めばそうでもないけど、よく考えてみたらゾクッとする、そんな怖い話です。基本1ページ完結。 下にスクロールするとヒントと解説があります。何が怖いのか、ぜひ推理しながら読み進めてみてください。 ※全話オリジナル作品です。

月が導く異世界道中

あずみ 圭
ファンタジー
 月読尊とある女神の手によって癖のある異世界に送られた高校生、深澄真。  真は商売をしながら少しずつ世界を見聞していく。  彼の他に召喚された二人の勇者、竜や亜人、そしてヒューマンと魔族の戦争、次々に真は事件に関わっていく。  これはそんな真と、彼を慕う(基本人外の)者達の異世界道中物語。  漫遊編始めました。  外伝的何かとして「月が導く異世界道中extra」も投稿しています。

出撃!特殊戦略潜水艦隊

ノデミチ
歴史・時代
海の狩人、潜水艦。 大国アメリカと短期決戦を挑む為に、連合艦隊司令山本五十六の肝入りで創設された秘匿潜水艦。 戦略潜水戦艦 伊号第500型潜水艦〜2隻。 潜水空母   伊号第400型潜水艦〜4隻。 広大な太平洋を舞台に大暴れする連合艦隊の秘密兵器。 一度書いてみたかったIF戦記物。 この機会に挑戦してみます。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

獅子の末裔

卯花月影
歴史・時代
未だ戦乱続く近江の国に生まれた蒲生氏郷。主家・六角氏を揺るがした六角家騒動がようやく落ち着いてきたころ、目の前に現れたのは天下を狙う織田信長だった。 和歌をこよなく愛する温厚で無力な少年は、信長にその非凡な才を見いだされ、戦国武将として成長し、開花していく。 前作「滝川家の人びと」の続編です。途中、エピソードの被りがありますが、蒲生氏郷視点で描かれます。

戦国を駆ける軍師・雪之丞見参!

沙羅双樹
歴史・時代
川中島の合戦で亡くなった軍師、山本勘助に嫡男がいた。その男は、山本雪之丞と言い、頭が良く、姿かたちも美しい若者であった。その日、信玄の館を訪れた雪之丞は、上洛の手段を考えている信玄に、「第二啄木鳥の戦法」を提案したのだった……。 この小説はカクヨムに連載中の「武田信玄上洛記」を大幅に加筆訂正したものです。より読みやすく面白く書き直しました。「武田信玄上洛の巻」の後は、「明智光秀の本能寺の変の巻」、さらにそのあとは鎌倉の商人、紅屋庄右衛門が登場する「商売人、紅屋庄右衛門の巻」、そして下野の国宇都宮で摩耶姫に会う「妖美なる姫君、摩耶姫の巻」へと展開していきます。

処理中です...