いまさら!のぶなが?

華猫

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第一章

告白

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三郎の告白に平野家の面々は暫くの間、何も言えずに困惑していた。

そんな事があるなんてにわかには信じられなかったが、しかし思い返してみれば、この三郎少年と出会った日から彼に会うたび奇妙の連続だったと改めて感じていた。

そんな平野家の反応とは裏腹に、紫陽寺の二人は至って冷静に三郎のその告白を聞き終わると、皆を前に住職は静かに話しだした。

「皆さんに謝らなければなりません。」

急な事に皆がざわつく・・

「実は、私達は初めて三郎さんにお会いした時からこの事実を知っておりました。そして藤吉郎さんが現れた時、歌奈さんから詳細を伺い、そしてこの度、三郎さんとまたお会いして確信いたしました。今まで隠していた事お詫びいたします。」

住職は深々と頭を下げ話しを続けた。

「そもそもこの紫陽寺は皆さんも噂では聞いた事があるかと思いますが、徳川家康公が実際に建立したお寺なんです。初代住職は家康公の側室のお竹の局の連れ子です。なので私達は徳川の末裔という事になりますが、血の繋がりはないので一族のような感じです。このいきさつは当時でもどなたもご存じないので、史実ではお竹の局もそのお子さんも早くに亡くなった事になっています。そうしなければならない理由があり、それほどに内密に作らなければならなかったのがこの紫陽寺なんです。」

皆、息を飲んだ・・

「この秘密を守る事が、徳川家康公の遺言であり我が寺の「家訓」でもあります。そしてその秘密とは・・まさにこの現代に三郎さんが現れる、この事実の事なんです。話せば長くなりますが正直・・三郎さんが現れてから自分たちが何をすればよいのか?具体的な事は殆んど書かれてはおりません。なのでそれを今、皆さんにお見せする事が最善なのではないかと思っています。」

そう言って住職はその『家訓』を目の前に広げた。



皆が慎重に覗き込んだその『家訓』には、確かに三郎の事が書かれてはいたが、今のこの現状が理解出来るほど詳しい記述は一切なかった。
明らかに自分たちの独自の解釈で読み取るしか方法は無いようだった。

「要は、天下泰平の世の中を作る為に力を尽くせって事よね・・」

「そうだな・・って事は徳川が天下人になる為にって事だよな、きっと・・」

「たぶんね・・じゃあ三郎君が家康を助けろって意味じゃないの?」

「うん・・その為に私は未来に来たのか?」

「かもね。で、紫陽寺がバックアップしろって事?」

「はい。そのように読み取れますよね。」

「でも、待って。逆に三郎が何もしなければ家康は天下が取れないって事?」

「・・・!」

「そしたら、未来が変わるよね・・」

「えっ!それやばいくない!」

「ですね・・」

「では、やっぱりその為に私はここに来たんでしょうか?未来を変えない為に・・」

「そんなところでしょうか・・」


【歴史を変えてはいけない!】と言った秀一の言葉は正しかったようだ。
三郎はこの時、自分が平成に跳んだ理由が少しだけ分かったような気がした。


「そう言えば、全然関係ないんだけど・・昔、三郎君を連れて帰ったっていうあの使用人って人はどっから来たの?ほら、イギリスに連れてったっていう・・」

「あっ!それは‥私が用意した・・その・・バイトの俳優さんでして・・」

「ご住職が!?」

「バイトの人・・」

「はい・・すみません・・なにせ助けろという家訓なものですから・・」

「そうですよね~三郎を助けないと自分が助けて貰えないって家康は知っててこのお寺を建てたんですから、当然ですよね~」

「そう言う事になりますか・・」

「私もおかしいとは思ったんですが・・すみません!あの時は突然こっちに戻れたもので、何も答えを用意してなかったのでつい、話しに乗っかっちゃいました・・」

「はは・・まあ仕方ないですよね・・」

皆の引きつった顔に苦笑いが浮かんだ。

「でも皆さん!今日ここで少しですが、私の役目が分かったような気がします。これから何をどうしたらいいかはまだ定かではありませんが、私は取り敢えず私の世界に戻って一旦考えます。向こうには秀一もいる事ですから、二人で相談してみます。それに、歴史的に見ても『本能寺』はまだまだ先の事ですし、それまでは秀一と二人で尽力して見せます。お約束します!歴史は絶対に変えません。その上で、この先に皆さんにお手伝いをお願いする日が来るかもしれませんが、その時はお願いします。」

三郎は深々と頭を下げた。


正直、家康の天下取りと、その後の天下泰平の世を作る為に、自分が何をすれば良いのかなんてさっぱり分からなかったが、それでも三郎の心は決まっていた。

そしてこの先、どんな形にせよ紫陽寺が力添えをしてくれるとご住職は約束してくれた。
それが紫陽花寺の未来永劫の務めだと・・

三郎は改めて自分を奮い立たせた。




「藤吉郎さんですか?こちらに来て不自由はないですか?」
私は初めてその藤吉郎と話す事が出来た。
「はい。お陰様で、みなさんにとても良くして貰っています。お話しはご住職から聞いております。私の家族はその後変わりはないでしょうか?」
「はい。みなさんお変わりなく元気にしています。実はあの後、弟の小一郎さんと縁がありましてね、私の傍で仕えて貰ってます。ここの次男の秀一なんか、小一郎さんを本当の弟のように可愛がっていますよ。」
「そうですか。ありがとうございます。お館様のお役に立てればそれだけで良いのです。」

この人もまた私の人生に関わりを持つ犠牲者だ。

今までいったい何人の人達に犠牲を強いてきただろう。
そしてこれから先も様々な形で多くの人を犠牲にする事になるだろう。
なのに、自分の身内の犠牲に固執していた自分が恥ずかしい。

「ご心配には及びません。お母上達も私が責任をもってお世話しますので安心してください。」

藤吉郎や小一郎・・その家族の為にも・・覚悟は決めた!


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