いまさら!のぶなが?

華猫

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第一章

絶望

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私は弟の信勝を殺した。

度重なる謀反の企てにそうするしかなかった。
仕方がなかった。この時代、時に一番の敵となるのは身内なのだから・・


そしてその事実は当然分かっていた・・

それでも何とかしようと自分なりに精一杯我慢し策を講じてはみたものの、事はあっけなく、そしてあっさりと終わりを告げた。
覚悟はしていたはずなのに、こんなに苦しいものだと思っていなかった自分に腹が立つ。
そしてただただ秀吉を責める事しか出来なかった。

「私がどんなに悩んでいてもお前は私を助けてはくれない訳だ。どんなにあがいても、私が信勝を殺すしかないという事をお前は信じていたんだからな!」

そんな私を前にしても秀吉は態度を和らげる事は無かった。

「今まで散々戦をして来て、多くの人を殺めて来たお前が、今更そんな事を言うなんてナンセンスだ!お前は自分の身内だからと言って俺たちの約束を忘れたというのか!」

そう言い返されると余計にムキになり思わず喧嘩腰になった。

「俺は・・殺したくて殺してるんじゃない!戦だってしたくてしてるんじゃない!この先の平和な世の中がこれで作れると思っているから我慢してやってるんだ!お前にはこの気持ちは分からないさ!」

「あ~分からないね。俺だって好きで秀吉をやってる訳じゃない。お前がそうしろって言ったからやってるんじゃないか。我慢してるのは一緒だろ!でもな、俺は秀吉になると決めた時からどんな事があってもやり抜くと心に決めたんだ。いいか!未来は絶対に変えられない。どんなことがあっても、どんなに苦しい決断でもだ!それを許してしまったら、今の俺も未来の俺も、そして歌奈たちや俺の家族も・・そしてそれ以上に大事な全ての未来が、今この瞬間から変わってしまうんだ!そうなったらもう取返しが付かない!そうだろ?そんな事は百も承知で覚悟を決めたんじゃなかったのか!」

ただの八つ当たりの私には到底返す言葉などなかった・・

そうだ・・そんなことは分かっていたはずなんだ・・

だが、悔しくて情けなくてただただ自分の気持ちが収まらなかった。




気がつけばまた、紫陽花の池のほとりに立っていた。

(いったい何年ぶりだろう。結局また、ここに来てしまうんだな・・)

溢れ出た泪を止める事は出来なかった。




「三郎!いったいどうしたの!?」

歌奈の声がする。

結局また逃げ出した・・

「弟を殺した。秀一と喧嘩した。」

「えっ!」

「歌奈も知っているだろう。分かっているよ、それは仕方のないことだって・・未来は変えられない。そう分かっていても悲しくて仕方がないんだ。やはり私は信勝に対してこんな決断しか出来なかったんだと。未来を知っていたとしても、自分の決断は変わらなかったんだと。秀一が悪いわけじゃない。悪いのは私の世界・・私や私の周りの人間たちなのに・・なのに私は秀一にも酷い事を言ってしまった。」

それだけ言って私は歌奈の腕の中で子供のように泣いた。


勝手に逃げて来たとは言え、ただ甘えて日がな一日ぼんやりしているつもりなど毛頭ない。
秀吉に会わせる顔が無いう事もあるが、私には平成に来て確かめたい事もあったのだ。
そう藤吉郎の存在を確認したかったのだ。
歌奈に尋ねるとやはり身元不明の若者が、私達が尾張に戻った後に池の傍に現れたという。
酷いケガをしていて、そして私が現れた時と同じように気を失い、暫く病院にいた後に紫陽寺のご住職が引き取ったという事だった。

「私はね、三郎の事情を知っていたからすぐにこの人が戦国時代から来たと分かったの。でも周りの人達には言えないでしょ。だからご住職にだけ本当の事を話したの。付いて行ってしまった秀一の事も言わない訳にはいかないしね。それでご住職に協力してもらったって訳よ。それにしても名前が藤吉郎って聞いた時には驚いたわ~」

藤吉郎の存在を確かめられた事によってまた少しタイムスリップの謎が分かったような気がした。
入れ替わり・・であれば3か月の期限がなくなるのかもしれない・・
そんな事を考えながら自分と秀吉のこの5年間を歌奈に話して聞かせていると、歌奈は嬉しそうに話し始めた。

「実は私・・そうだと思ってた!藤吉郎さんは絶対秀吉だって。だからたぶん秀一が代わりに秀吉になってるなって思ってたのよ。」

「中々鋭いな~」

「でしょう!私はね一人だけ残ったでしょ!だからもう想像と妄想するくらいしか出来ないじゃない?それで色々考えてたのよ。これから先、絶対に二人の役に立つから今からいう事は絶対に忘れないでね。」

そう言うと歌奈はどんどん捲し立て話し出した。

しかし私はそんな歌奈がとても可愛くて愛おしくて、歌奈の顔ばかり見ていたので、忘れるなと言われても残念ながら、その話しの殆んどは忘れてしまった。


秀一が居なくなった経緯や私の事情を聴かされたご住職は、私達を信じて、また、身寄りのない藤吉郎を哀れに思い世話をしてくれていたという。

私はこの機会に平野家の家族と紫陽寺のご家族にすべてを語る決意をした。


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