いまさら!のぶなが?

華猫

文字の大きさ
上 下
23 / 58
第一章

定め

しおりを挟む
秀吉に取って代わると決めたものの・・
そこで待ち受けていたものはやはり過酷な戦乱の世・・
下剋上の世界・・
分かっていても、平成人の秀一には想像を絶するまさに名の通りの戦国時代だった。

平成の知恵を駆使し、懸命に歴史の道筋をたどりながら信長と共に戦乱の世を駆ける。
どんなに苦しくても悲しくても『歴史を変えるな!』が二人の合言葉になっていった。

もう何年過ぎ去ったのかも分からないほど、秀一はまるで本物の秀吉のように戦に憑りつかれていった。
そう、本物の戦国武将のように・・



信長の敵は外敵だけではない。
信長自身の、織田弾正忠家の問題。清須織田家の問題。そして弟、信勝と母、土田御前の問題。
この先、天下取りの号令を上げるためにはこの問題は避けては通れない重大事だった。

「お館様、ここからが本当の苦しみです。覚悟は出来てますか?」
秀吉は真剣な眼差しで信長に問いかけた。
「覚悟か・・出来ていると言ったら嘘になるだろうな。ただ・・やるしかない。そう思っているだけだ・・」

秀吉が「ふぅ~」と深呼吸した。

「では、これから起こる事、お館様がやらなければいけない事を今から申します。」

信長に緊張が走った。

(秀吉の口調が丁寧になるとロクなことを言わない!)

「先ずは、これから織田弾正忠家のやからが裏切り、清須織田家の密かな後ろ盾を受けてお館様を潰しにかかります。その、織田弾正忠家をまず討伐しなければなりません。そして先ずは、お館様が織田弾正忠家の当主にならなければなりません。その後は、清須織田家と戦い、これを潰し、そしてお館様が清須城の当主、名実共に織田家本流の唯一の当主になるのです。」

「なるほど。織田家を1つに纏めなければならないという事だな・・」
「そういう事です。でも・・その後が肝心です。信勝様と土田御前です。出来ますか?」

その名前を聞いて信長の顔色が変わるのを秀吉は見逃さなかった。

「お館様、嫌とは言わせませんよ・・これがお館様がしなければならない本当の覚悟です。この何年かの後の事になるでしょう。その為に私はこれから準備を進めますから、お館はゆっくりと覚悟を決めてください。」

冷静に話す秀吉の顔を見て信長は諦めたように呟く。

「分かった。お前の言う結末には逆うつもりはない。ただ私なりのやり方は考慮して貰いたい。」
「分かりました。この先も今まで通り、お館様の考えや、やり方には考慮します。」
「まっ!覚悟の方はおまえの言うようにゆっくりとさせてもらう事にするよ。」

「けっ!ふざけるな!」

秀吉のその言葉に、今はまだほんの少しだけ笑う余裕があった。



3年後、弘治元年/1555年

信長はその日。織田家本流として清須城へ入った。

清須城の天守で城下を見下ろしながら秀吉に呟く。

「秀吉。私たちはこのまま進んでいいんだよな?」
「ああ」
「間違ってはいないよな?」
「ああ」
「この先はもっと犠牲者が出る。悲劇もたくさん起きる。それを私がやらなければという事だよな・・」
「そうだ。お館様でなければ誰がやるんだ?」
「そうだな・・まだ私の覚悟が足りないという事だな・・」
「はい。でなければ秀吉はこの場から消えてしまいますのでね。」
「・・・」

「こ、この後の計画は上手くいっているのか?勝家どうだ?」
「柴田様は問題ない。その他も先ずは慎重に事を進めているので差し当たって問題はないかと思う。」

答えながら秀吉も改めて自分の覚悟を決めた。

二人でここまで全力で突っ走っては来たが、この先どうなるのか?実は確固たる計画さえもない。
しかし、時間は待ってはくれない。
次々と起こる難題に対処する為、先回りをして慎重に事を運ぶ。
真実を話し仲間とするもの、真実を隠し仲間とするもの、排除する者、その全てを瞬時に見極めなければならない。
それは秀吉ではない、秀一の務め・・


ふと気が付くともう何年経っていたのだろうか・・
いつ平成に引き戻されてしまうのか?いついなくなってしまうのか?そんな不安を共に抱えながらやっとここまでたどり着いた。
秀吉がそんな切なさを噛みしめていると、急に信長の口から思いがけない言葉が出た。

「さる!」
「はぁ!」
「お前なんかサルに似てきたな。」

秀吉は思わず大声で笑った。

この5年あまり・・
もちろん、日焼け止めクリームなんてない!
そして500年後とはまるで違うこの日差し。太陽はこんなに近かったんだと改めて感じていたこの生活で、秀一は引き締まった身体と日焼けした顔の秀吉になっていた。

「よくそんな事言えるな!人を散々こき使っておいて!誰がこんな姿にしたんだよ!」

秀吉は信長を責めながらもう一言付け加えた。

「歴史上の織田信長も秀吉をサルって呼んでたな。有名な話しだが創作だと思ってた。でもこれが現実なんだな。そう思うとやっぱり私が秀吉だったんだと、認めるしかないって事だな・・」

二人は感慨深げに顔を見合わせた。



この後、新たなそして最も辛い戦いが始まる。

弟 織田信勝の謀反。

信勝側に寝返らせておいた柴田勝家は偽の大敗を期し、信長軍の圧勝に終わった。

そして一度は許した信勝は僅か1年後に再び謀反。

「死」を免れる事は到底出来なかった。

信長は改めて、歴史は変えられぬと思い知らされる事になるのである。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

楽将伝

九情承太郎
歴史・時代
三人の天下人と、最も遊んだ楽将・金森長近(ながちか)のスチャラカ戦国物語 織田信長の親衛隊は 気楽な稼業と きたもんだ(嘘) 戦国史上、最もブラックな職場 「織田信長の親衛隊」 そこで働きながらも、マイペースを貫く、趣味の人がいた 金森可近(ありちか)、後の長近(ながちか) 天下人さえ遊びに来る、趣味の達人の物語を、ご賞味ください!!

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

獅子の末裔

卯花月影
歴史・時代
未だ戦乱続く近江の国に生まれた蒲生氏郷。主家・六角氏を揺るがした六角家騒動がようやく落ち着いてきたころ、目の前に現れたのは天下を狙う織田信長だった。 和歌をこよなく愛する温厚で無力な少年は、信長にその非凡な才を見いだされ、戦国武将として成長し、開花していく。 前作「滝川家の人びと」の続編です。途中、エピソードの被りがありますが、蒲生氏郷視点で描かれます。

敵は家康

早川隆
歴史・時代
旧題:礫-つぶて- 【第六回アルファポリス歴史・時代小説大賞 特別賞受賞作品】 俺は石ころじゃない、礫(つぶて)だ!桶狭間前夜を駆ける無名戦士達の物語。永禄3年5月19日の早朝。桶狭間の戦いが起こるほんの数時間ほど前の話。出撃に際し戦勝祈願に立ち寄った熱田神宮の拝殿で、織田信長の眼に、彼方の空にあがる二条の黒い煙が映った。重要拠点の敵を抑止する付け城として築かれた、鷲津砦と丸根砦とが、相前後して炎上、陥落したことを示す煙だった。敵は、餌に食いついた。ひとりほくそ笑む信長。しかし、引き続く歴史的大逆転の影には、この両砦に籠って戦い、玉砕した、名もなき雑兵どもの人生と、夢があったのである・・・ 本編は「信長公記」にも記された、このプロローグからわずかに時間を巻き戻し、弥七という、矢作川の流域に棲む河原者(被差別民)の子供が、ある理不尽な事件に巻き込まれたところからはじまります。逃亡者となった彼は、やがて国境を越え、風雲急を告げる東尾張へ。そして、戦地を駆ける黒鍬衆の一人となって、底知れぬ謀略と争乱の渦中に巻き込まれていきます。そして、最後に行き着いた先は? ストーリーはフィクションですが、周辺の歴史事件など、なるべく史実を踏みリアリティを追求しました。戦場を駆ける河原者二人の眼で、戦国時代を体感しに行きましょう!

戦国を駆ける軍師・雪之丞見参!

沙羅双樹
歴史・時代
川中島の合戦で亡くなった軍師、山本勘助に嫡男がいた。その男は、山本雪之丞と言い、頭が良く、姿かたちも美しい若者であった。その日、信玄の館を訪れた雪之丞は、上洛の手段を考えている信玄に、「第二啄木鳥の戦法」を提案したのだった……。 この小説はカクヨムに連載中の「武田信玄上洛記」を大幅に加筆訂正したものです。より読みやすく面白く書き直しました。「武田信玄上洛の巻」の後は、「明智光秀の本能寺の変の巻」、さらにそのあとは鎌倉の商人、紅屋庄右衛門が登場する「商売人、紅屋庄右衛門の巻」、そして下野の国宇都宮で摩耶姫に会う「妖美なる姫君、摩耶姫の巻」へと展開していきます。

出撃!特殊戦略潜水艦隊

ノデミチ
歴史・時代
海の狩人、潜水艦。 大国アメリカと短期決戦を挑む為に、連合艦隊司令山本五十六の肝入りで創設された秘匿潜水艦。 戦略潜水戦艦 伊号第500型潜水艦〜2隻。 潜水空母   伊号第400型潜水艦〜4隻。 広大な太平洋を舞台に大暴れする連合艦隊の秘密兵器。 一度書いてみたかったIF戦記物。 この機会に挑戦してみます。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

処理中です...