21 / 58
第一章
友
しおりを挟む
丹羽長秀は信長の言いつけ通りに中村の外れにその男を探しに行った。
首尾よく男を貰い受けると尾張城下の自分の別宅にその男をかくまった。
小一郎は信長からの言いつけは果たしたものの、なぜかその男が気になり自分からその男の世話掛かりとしてついていくことを申し出た。
しつこい小一郎に半ば諦めその男を託し丹羽長秀は屋敷に戻った。
「お館様。男は私の別宅に案内しました。まだ足腰もしっかりせず意識も定かでは無かったので、小一郎を傍において参りました。」
「そうか。ありがとう。取り敢えず小一郎に面倒をみさせておき、後はお前の信頼できる者も傍においておけ。出来る限り早々に会いにいくので誰にも絶対に悟られないように宜しく頼む。」
「承知致しました。」
信長は安堵の表情を浮かべた。
尾張に戻ったはいいが、考えてみれば父上が亡くなってから数日しかたっていない事に信長は慌てた。
どんな未来が待ち受けていようと前向きに生きようと思った事、秀一が付いて来てしまった事など考え合わせると悠長な事は言ってられなかった。
早々に残っている公務をかたずける。
まるで別人のような信長を見て理解に苦しむ家臣や怪訝そうな母を横目に一心不乱に働いた。
そして尾張に戻ってひと月が経とうとしている頃、やっと秀一に会いに行くことが出来た。
久しぶりの三郎を見て秀一は嬉しそうに駆け寄ってきた。
「なんだよ!会いにくるのが遅いぞ。もう俺の事なんて忘れたのかと思った・・全く薄情は奴だ!」
秀一は悪態をついて見せた。
「本当にごめん!父上が亡くなって本当にい忙しかったんだよ。でもお前の事は長秀に頼んでおいたから安心してたんだ。どうだ変わりはないか?不便な事はないか?体は大丈夫か?」
畳みかける三郎に秀一は急に可笑しくなり笑いながら三郎を慰めた。
「この通り大丈夫だよ。みんなとても良くしてくれる。おまえのお陰だな。勝手に付いて来た俺の為に迷惑かけたな。」
「1人にして悪かった。不安だったろう。すまない・・」
その時、秀一の傍らにいた小一郎が語気を荒げて割って入った。
「秀一様、そんな言い方はないですよ!お館様はそれはそれは心配してたんだ。それに三郎様じゃない!もう信長様・・お館様だ!」
その言葉を聞いて秀一は改めて思った。
「そうだったな。もう信長様なんだな。そう呼ばなくちゃいけないな。」
「やめてくれよ!呼び方なんてどうでも良いんだ。友達じゃないか。」
「友達か~そう思ってくれるなんて何か嬉しいね~」
その言葉を聞いて信長もとても幸せだった。
それでもその幸せにばかり浸ってはいられない。
これからの事について話し会わなければならないことはお互いに理解していた。
「なあ~秀一。やはり今回も私は3か月で戻って来た。という事は、お前も3か月で平成に強制的に戻ると思うんだ。だから出来る限り周りに知られないようにあと2か月過ごして欲しい。」
「でも、もしそうじゃなかったら?どうする?」秀一が問いかける。
「それは・・分からない。私自身も分からない事が多すぎて・・そもそも今回はどうしてあの中村の池に出たのかさえも分からないんだからな。だからもしも戻れなかったらその時に考えよう。」
「うん。そうだな。」
「それにしても、なぜ付いて来たりしたんだ?ここは平成と違って危険だらけだ。お前が生きていけるところじゃないんだぞ。帰れなくなるかもしれないとは思わなかったのか!」
「実はお前から真実を打ち明けられてからずっと考えてたんだ。様々な事を知ってしまった三郎を1人で帰してしまっていいものなのかってね。お前を信用してない訳じゃないけど、未来は絶対に変えてはいけないからね。」
「そうか・・すまない・・」
「いいんだ!それでも勝手に付いて来たのは俺だから。気にするなって。帰るまでの間、三郎の世界を見て必要な事をまた相談しような。」
「分かった。未来を変えるような事はしないと約束するから安心してくれ。よし、じゃあ話しはここまでにして。とりあえず秀一これに着替えろ。」
そういうと信長は町人の着物を人揃え秀一に渡した。
「これから私が歴史好きのおまえのためにこの尾張を案内してやる。平成でお世話になったお礼だよ。」
そして着替えた二人はこの天文21年の尾張城下へ繰り出した。
3か月と5日が過ぎたころ秀一はまだ丹羽長秀の別宅にいた。
秀一が尾張に来てから、ちょうど3か月が経とうとした日に、信長はこの別宅で秀一との別れを惜しんでいたが全く拍子抜けしてしまった。
どうしたものかと?二人で考えてはみたものの結論は出ず、秀一は忙しい信長を見送りここ数日は1人で頭を抱えこんでいた。
(きっとこの現象はもっと複雑なんだろうな。普通に考えても埒が明かない。そもそも帰れないし帰る手段が分からないって事は、取り敢えずここで生きて行く事を考えなくてはならないって事だよな・・)
何時来るか分からない信長を待つより、自分でもこの時代に適応出来るようにならなくちゃいけないと秀一は考えていた。
「まずは、もう少し広範囲なこの時代のリサーチでもするか。手始めに小一郎からかな?」
持ち前の社交性と行動力を生かし、秀一はこの戦国時代の知識と情報を貪欲に吸収していった。
首尾よく男を貰い受けると尾張城下の自分の別宅にその男をかくまった。
小一郎は信長からの言いつけは果たしたものの、なぜかその男が気になり自分からその男の世話掛かりとしてついていくことを申し出た。
しつこい小一郎に半ば諦めその男を託し丹羽長秀は屋敷に戻った。
「お館様。男は私の別宅に案内しました。まだ足腰もしっかりせず意識も定かでは無かったので、小一郎を傍において参りました。」
「そうか。ありがとう。取り敢えず小一郎に面倒をみさせておき、後はお前の信頼できる者も傍においておけ。出来る限り早々に会いにいくので誰にも絶対に悟られないように宜しく頼む。」
「承知致しました。」
信長は安堵の表情を浮かべた。
尾張に戻ったはいいが、考えてみれば父上が亡くなってから数日しかたっていない事に信長は慌てた。
どんな未来が待ち受けていようと前向きに生きようと思った事、秀一が付いて来てしまった事など考え合わせると悠長な事は言ってられなかった。
早々に残っている公務をかたずける。
まるで別人のような信長を見て理解に苦しむ家臣や怪訝そうな母を横目に一心不乱に働いた。
そして尾張に戻ってひと月が経とうとしている頃、やっと秀一に会いに行くことが出来た。
久しぶりの三郎を見て秀一は嬉しそうに駆け寄ってきた。
「なんだよ!会いにくるのが遅いぞ。もう俺の事なんて忘れたのかと思った・・全く薄情は奴だ!」
秀一は悪態をついて見せた。
「本当にごめん!父上が亡くなって本当にい忙しかったんだよ。でもお前の事は長秀に頼んでおいたから安心してたんだ。どうだ変わりはないか?不便な事はないか?体は大丈夫か?」
畳みかける三郎に秀一は急に可笑しくなり笑いながら三郎を慰めた。
「この通り大丈夫だよ。みんなとても良くしてくれる。おまえのお陰だな。勝手に付いて来た俺の為に迷惑かけたな。」
「1人にして悪かった。不安だったろう。すまない・・」
その時、秀一の傍らにいた小一郎が語気を荒げて割って入った。
「秀一様、そんな言い方はないですよ!お館様はそれはそれは心配してたんだ。それに三郎様じゃない!もう信長様・・お館様だ!」
その言葉を聞いて秀一は改めて思った。
「そうだったな。もう信長様なんだな。そう呼ばなくちゃいけないな。」
「やめてくれよ!呼び方なんてどうでも良いんだ。友達じゃないか。」
「友達か~そう思ってくれるなんて何か嬉しいね~」
その言葉を聞いて信長もとても幸せだった。
それでもその幸せにばかり浸ってはいられない。
これからの事について話し会わなければならないことはお互いに理解していた。
「なあ~秀一。やはり今回も私は3か月で戻って来た。という事は、お前も3か月で平成に強制的に戻ると思うんだ。だから出来る限り周りに知られないようにあと2か月過ごして欲しい。」
「でも、もしそうじゃなかったら?どうする?」秀一が問いかける。
「それは・・分からない。私自身も分からない事が多すぎて・・そもそも今回はどうしてあの中村の池に出たのかさえも分からないんだからな。だからもしも戻れなかったらその時に考えよう。」
「うん。そうだな。」
「それにしても、なぜ付いて来たりしたんだ?ここは平成と違って危険だらけだ。お前が生きていけるところじゃないんだぞ。帰れなくなるかもしれないとは思わなかったのか!」
「実はお前から真実を打ち明けられてからずっと考えてたんだ。様々な事を知ってしまった三郎を1人で帰してしまっていいものなのかってね。お前を信用してない訳じゃないけど、未来は絶対に変えてはいけないからね。」
「そうか・・すまない・・」
「いいんだ!それでも勝手に付いて来たのは俺だから。気にするなって。帰るまでの間、三郎の世界を見て必要な事をまた相談しような。」
「分かった。未来を変えるような事はしないと約束するから安心してくれ。よし、じゃあ話しはここまでにして。とりあえず秀一これに着替えろ。」
そういうと信長は町人の着物を人揃え秀一に渡した。
「これから私が歴史好きのおまえのためにこの尾張を案内してやる。平成でお世話になったお礼だよ。」
そして着替えた二人はこの天文21年の尾張城下へ繰り出した。
3か月と5日が過ぎたころ秀一はまだ丹羽長秀の別宅にいた。
秀一が尾張に来てから、ちょうど3か月が経とうとした日に、信長はこの別宅で秀一との別れを惜しんでいたが全く拍子抜けしてしまった。
どうしたものかと?二人で考えてはみたものの結論は出ず、秀一は忙しい信長を見送りここ数日は1人で頭を抱えこんでいた。
(きっとこの現象はもっと複雑なんだろうな。普通に考えても埒が明かない。そもそも帰れないし帰る手段が分からないって事は、取り敢えずここで生きて行く事を考えなくてはならないって事だよな・・)
何時来るか分からない信長を待つより、自分でもこの時代に適応出来るようにならなくちゃいけないと秀一は考えていた。
「まずは、もう少し広範囲なこの時代のリサーチでもするか。手始めに小一郎からかな?」
持ち前の社交性と行動力を生かし、秀一はこの戦国時代の知識と情報を貪欲に吸収していった。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説

楽将伝
九情承太郎
歴史・時代
三人の天下人と、最も遊んだ楽将・金森長近(ながちか)のスチャラカ戦国物語
織田信長の親衛隊は
気楽な稼業と
きたもんだ(嘘)
戦国史上、最もブラックな職場
「織田信長の親衛隊」
そこで働きながらも、マイペースを貫く、趣味の人がいた
金森可近(ありちか)、後の長近(ながちか)
天下人さえ遊びに来る、趣味の達人の物語を、ご賞味ください!!

獅子の末裔
卯花月影
歴史・時代
未だ戦乱続く近江の国に生まれた蒲生氏郷。主家・六角氏を揺るがした六角家騒動がようやく落ち着いてきたころ、目の前に現れたのは天下を狙う織田信長だった。
和歌をこよなく愛する温厚で無力な少年は、信長にその非凡な才を見いだされ、戦国武将として成長し、開花していく。
前作「滝川家の人びと」の続編です。途中、エピソードの被りがありますが、蒲生氏郷視点で描かれます。
敵は家康
早川隆
歴史・時代
旧題:礫-つぶて-
【第六回アルファポリス歴史・時代小説大賞 特別賞受賞作品】
俺は石ころじゃない、礫(つぶて)だ!桶狭間前夜を駆ける無名戦士達の物語。永禄3年5月19日の早朝。桶狭間の戦いが起こるほんの数時間ほど前の話。出撃に際し戦勝祈願に立ち寄った熱田神宮の拝殿で、織田信長の眼に、彼方の空にあがる二条の黒い煙が映った。重要拠点の敵を抑止する付け城として築かれた、鷲津砦と丸根砦とが、相前後して炎上、陥落したことを示す煙だった。敵は、餌に食いついた。ひとりほくそ笑む信長。しかし、引き続く歴史的大逆転の影には、この両砦に籠って戦い、玉砕した、名もなき雑兵どもの人生と、夢があったのである・・・
本編は「信長公記」にも記された、このプロローグからわずかに時間を巻き戻し、弥七という、矢作川の流域に棲む河原者(被差別民)の子供が、ある理不尽な事件に巻き込まれたところからはじまります。逃亡者となった彼は、やがて国境を越え、風雲急を告げる東尾張へ。そして、戦地を駆ける黒鍬衆の一人となって、底知れぬ謀略と争乱の渦中に巻き込まれていきます。そして、最後に行き着いた先は?
ストーリーはフィクションですが、周辺の歴史事件など、なるべく史実を踏みリアリティを追求しました。戦場を駆ける河原者二人の眼で、戦国時代を体感しに行きましょう!
戦国を駆ける軍師・雪之丞見参!
沙羅双樹
歴史・時代
川中島の合戦で亡くなった軍師、山本勘助に嫡男がいた。その男は、山本雪之丞と言い、頭が良く、姿かたちも美しい若者であった。その日、信玄の館を訪れた雪之丞は、上洛の手段を考えている信玄に、「第二啄木鳥の戦法」を提案したのだった……。
この小説はカクヨムに連載中の「武田信玄上洛記」を大幅に加筆訂正したものです。より読みやすく面白く書き直しました。「武田信玄上洛の巻」の後は、「明智光秀の本能寺の変の巻」、さらにそのあとは鎌倉の商人、紅屋庄右衛門が登場する「商売人、紅屋庄右衛門の巻」、そして下野の国宇都宮で摩耶姫に会う「妖美なる姫君、摩耶姫の巻」へと展開していきます。
出撃!特殊戦略潜水艦隊
ノデミチ
歴史・時代
海の狩人、潜水艦。
大国アメリカと短期決戦を挑む為に、連合艦隊司令山本五十六の肝入りで創設された秘匿潜水艦。
戦略潜水戦艦 伊号第500型潜水艦〜2隻。
潜水空母 伊号第400型潜水艦〜4隻。
広大な太平洋を舞台に大暴れする連合艦隊の秘密兵器。
一度書いてみたかったIF戦記物。
この機会に挑戦してみます。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる