いまさら!のぶなが?

華猫

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第一章

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丹羽長秀は信長の言いつけ通りに中村の外れにその男を探しに行った。
首尾よく男を貰い受けると尾張城下の自分の別宅にその男をかくまった。

小一郎は信長からの言いつけは果たしたものの、なぜかその男が気になり自分からその男の世話掛かりとしてついていくことを申し出た。
しつこい小一郎に半ば諦めその男を託し丹羽長秀は屋敷に戻った。

「お館様。男は私の別宅に案内しました。まだ足腰もしっかりせず意識も定かでは無かったので、小一郎を傍において参りました。」
「そうか。ありがとう。取り敢えず小一郎に面倒をみさせておき、後はお前の信頼できる者も傍においておけ。出来る限り早々に会いにいくので誰にも絶対に悟られないように宜しく頼む。」
「承知致しました。」
信長は安堵の表情を浮かべた。


尾張に戻ったはいいが、考えてみれば父上が亡くなってから数日しかたっていない事に信長は慌てた。
どんな未来が待ち受けていようと前向きに生きようと思った事、秀一が付いて来てしまった事など考え合わせると悠長な事は言ってられなかった。

早々に残っている公務をかたずける。
まるで別人のような信長を見て理解に苦しむ家臣や怪訝そうな母を横目に一心不乱に働いた。
そして尾張に戻ってひと月が経とうとしている頃、やっと秀一に会いに行くことが出来た。



久しぶりの三郎を見て秀一は嬉しそうに駆け寄ってきた。

「なんだよ!会いにくるのが遅いぞ。もう俺の事なんて忘れたのかと思った・・全く薄情は奴だ!」

秀一は悪態をついて見せた。

「本当にごめん!父上が亡くなって本当にい忙しかったんだよ。でもお前の事は長秀に頼んでおいたから安心してたんだ。どうだ変わりはないか?不便な事はないか?体は大丈夫か?」

畳みかける三郎に秀一は急に可笑しくなり笑いながら三郎を慰めた。

「この通り大丈夫だよ。みんなとても良くしてくれる。おまえのお陰だな。勝手に付いて来た俺の為に迷惑かけたな。」
「1人にして悪かった。不安だったろう。すまない・・」

その時、秀一の傍らにいた小一郎が語気を荒げて割って入った。

「秀一様、そんな言い方はないですよ!お館様はそれはそれは心配してたんだ。それに三郎様じゃない!もう信長様・・お館様だ!」

その言葉を聞いて秀一は改めて思った。

「そうだったな。もう信長様なんだな。そう呼ばなくちゃいけないな。」
「やめてくれよ!呼び方なんてどうでも良いんだ。友達じゃないか。」
「友達か~そう思ってくれるなんて何か嬉しいね~」

その言葉を聞いて信長もとても幸せだった。
それでもその幸せにばかり浸ってはいられない。
これからの事について話し会わなければならないことはお互いに理解していた。



「なあ~秀一。やはり今回も私は3か月で戻って来た。という事は、お前も3か月で平成に強制的に戻ると思うんだ。だから出来る限り周りに知られないようにあと2か月過ごして欲しい。」
「でも、もしそうじゃなかったら?どうする?」秀一が問いかける。
「それは・・分からない。私自身も分からない事が多すぎて・・そもそも今回はどうしてあの中村の池に出たのかさえも分からないんだからな。だからもしも戻れなかったらその時に考えよう。」
「うん。そうだな。」
「それにしても、なぜ付いて来たりしたんだ?ここは平成と違って危険だらけだ。お前が生きていけるところじゃないんだぞ。帰れなくなるかもしれないとは思わなかったのか!」
「実はお前から真実を打ち明けられてからずっと考えてたんだ。様々な事を知ってしまった三郎を1人で帰してしまっていいものなのかってね。お前を信用してない訳じゃないけど、未来は絶対に変えてはいけないからね。」
「そうか・・すまない・・」
「いいんだ!それでも勝手に付いて来たのは俺だから。気にするなって。帰るまでの間、三郎の世界を見て必要な事をまた相談しような。」
「分かった。未来を変えるような事はしないと約束するから安心してくれ。よし、じゃあ話しはここまでにして。とりあえず秀一これに着替えろ。」

そういうと信長は町人の着物を人揃え秀一に渡した。

「これから私が歴史好きのおまえのためにこの尾張を案内してやる。平成でお世話になったお礼だよ。」

そして着替えた二人はこの天文21年の尾張城下へ繰り出した。




3か月と5日が過ぎたころ秀一はまだ丹羽長秀の別宅にいた。

秀一が尾張に来てから、ちょうど3か月が経とうとした日に、信長はこの別宅で秀一との別れを惜しんでいたが全く拍子抜けしてしまった。
どうしたものかと?二人で考えてはみたものの結論は出ず、秀一は忙しい信長を見送りここ数日は1人で頭を抱えこんでいた。

(きっとこの現象はもっと複雑なんだろうな。普通に考えても埒が明かない。そもそも帰れないし帰る手段が分からないって事は、取り敢えずここで生きて行く事を考えなくてはならないって事だよな・・)

何時来るか分からない信長を待つより、自分でもこの時代に適応出来るようにならなくちゃいけないと秀一は考えていた。

「まずは、もう少し広範囲なこの時代のリサーチでもするか。手始めに小一郎からかな?」

持ち前の社交性と行動力を生かし、秀一はこの戦国時代の知識と情報を貪欲に吸収していった。


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