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第一章
婚姻
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「縁組・・ですか?」
「ああ、美濃の斉藤道三の娘だ。相手に不足はないだろう。何をそんなに驚いてる。嫁をとるのも家督の勤めではないのか?」
「はあ~」
驚く私に父上はそれ以上なにも言わなかったので早々に部屋を後にした。
寝耳に水。まったく考えてもみなかった!私に嫁!頭が真っ白になった。
想像が出来ない。
どうしたらよいのか、分からない・・
ふと、歌奈の顔が浮かんできた。ここしばらくは思い出さなかった未来のことがまた、浮かんできた。
「浴衣の歌奈は可愛かったな~」
って、自分は何を言ってるんだ!顔がみるみるうちに赤くなるのがわかった。
嫁の話を聞いて歌奈を思い出すなんて!おかしいだろう!
一人で勝手にドキドキしている。
「いやいやいかん!とにかく今はこっちの嫁のことを考えなくては・・」
まだこの歳で嫁を取る気などさらさらない私。
どうしたら断れるのか?そんな事ばかりを考えてはみたものの一向に良い考えなど浮かばない。
そしてこの婚姻は、互いの国同士の政略結婚という形なので簡単に断る事など到底無理である・・
そうこうしているうちに「婿殿(私)に会いたい」とまむしの道三が言いはじめ、仕方なく美濃まで足を運ぶ羽目になった。
ならばこの際「うつけ」を前面に押し出せば、この話はなかった事になるのでは?と淡い期待を胸に道三に会いにいったが・・何故かそれが裏目に出た ・・
道三は私を気に入ってしまったらしいと・・
「今日はそなたの婚礼の日。このようにめでたいことはない。父は嬉しいぞ!これで、斉藤家とは縁戚である。この後、両家が共に手を携え、共に繁栄を築いていかなければならない。皆も信長を盛りたて精進するのだぞ!」
その日、父上は大そうご機嫌で浴びるように酒を酌みかわしていた。
「はい!心得ました。この後は織田家の益々の繁栄の為、家臣一同、心してまいります。」
久しぶりに皆が沸きたち、愉快に酒を酌み交わしている姿や、私の為に喜んでくれている姿は見ているだけで楽しかった 。
「良いか信長。父はどんなことがあろうと、お前が家督であると思っている。家臣一同も十分承知の上だ。自分もそれを肝に命じ、この後は濃姫と共に織田家を盛り立てていくのだぞ。」
「はい。父上。かしこまりました。精進してまいります。」
自信はないが、自分がこの織田家を守っていかなければならない事ぐらいは自覚はしている。
そして、まだ父上の庇護下にいることも十分自覚している。
始めはこの婚姻が嫌で仕方なかったが、今では少しは納得している。
何より、政略結婚だとしても、父上のお役に立てるのなら嬉しかった。
父上は今も昔も変わらず、私に優しかった。
しかし考えてみれば、弟の信勝にとって父は常に優しい父であったのだろうか?
今にしてみれば、父は明らかにその嫡男として生まれた私と、弟の扱いは違っていたように思える。
そして母は、弟が生まれ、まだ私たちが幼かった頃はともに優しい母であったと思う。
いったい、母がいつ頃から私に冷たくなっていったのかは、実際のところ定かではなかった。
父上の愛情は私に、母上の愛情は弟に、そういうものなのだろうか?真の愛情とは一人の人間にしか向かないものなのだろうか?
そしてまた、夫婦とはどうなんだろうか。
父上の母上への、母上の父上への愛情とは?
思い起こしてみれば、ここ何年も父上と母上の仲睦ましい様子など見ていないような気がする。
そんなことを考えながら、ふと、隣にいる濃姫に目を向けてみる 。
緊張しているのか、先ほどからぴくりともしない。
この後、この娘と私はどのような夫婦になるのだろう・・
私は、私の愛情をまんべんなく皆に注げるようなそんな男になりたい・・
民にも、家臣にも、そして私の妻にも・・漠然とだがそう思っていた。
初夜の床・・そんな私の仄かな期待は早々に打ち砕かれた。
「信長様、初めに言っておきます。私は斉藤道三の娘です。元々両家は敵同士でございます。よってこの婚姻はあくまで政略結婚です。私は人質と一緒です。この後両家がどうなるか?そして私の意志がどう変わるかによって状況は変わります。ですので、夫婦というのは表向きだけですからどうぞご理解下さい。」
「なに!」
感情のない顔で濃姫は私にそう言い放った。
「夫婦でいることも、無論、お子をもうけることもご期待には添えません!」
怒りが体の隅々から沸き上がるのが分かった。
少しばかり期待したせいで余計な悲しみが共に襲いかかる。
「好きにしたらいい!」
そう言うのがやっとで私はその場を立ち去った 。
この怒りと嫌悪感は久し振りに感じた痛みだった。
般若がまた一人増えた・・そしてまたこの屋敷に私の居場所がなくなってしまった。
朝まで酒場をふら付き、好き放題遊びまわっては泥酔状態で屋敷へ帰り何もせずに爆睡・・
たまに万松寺に行っては、日がな一日紫陽花の池で暇を潰す ・・
愛されないことの辛さは分かっていたはずなのに私はまだこんなにも耐えられない・・
弱い自分がみじめで、情けなくて、悔しくてたまらなかった。
「ああ、美濃の斉藤道三の娘だ。相手に不足はないだろう。何をそんなに驚いてる。嫁をとるのも家督の勤めではないのか?」
「はあ~」
驚く私に父上はそれ以上なにも言わなかったので早々に部屋を後にした。
寝耳に水。まったく考えてもみなかった!私に嫁!頭が真っ白になった。
想像が出来ない。
どうしたらよいのか、分からない・・
ふと、歌奈の顔が浮かんできた。ここしばらくは思い出さなかった未来のことがまた、浮かんできた。
「浴衣の歌奈は可愛かったな~」
って、自分は何を言ってるんだ!顔がみるみるうちに赤くなるのがわかった。
嫁の話を聞いて歌奈を思い出すなんて!おかしいだろう!
一人で勝手にドキドキしている。
「いやいやいかん!とにかく今はこっちの嫁のことを考えなくては・・」
まだこの歳で嫁を取る気などさらさらない私。
どうしたら断れるのか?そんな事ばかりを考えてはみたものの一向に良い考えなど浮かばない。
そしてこの婚姻は、互いの国同士の政略結婚という形なので簡単に断る事など到底無理である・・
そうこうしているうちに「婿殿(私)に会いたい」とまむしの道三が言いはじめ、仕方なく美濃まで足を運ぶ羽目になった。
ならばこの際「うつけ」を前面に押し出せば、この話はなかった事になるのでは?と淡い期待を胸に道三に会いにいったが・・何故かそれが裏目に出た ・・
道三は私を気に入ってしまったらしいと・・
「今日はそなたの婚礼の日。このようにめでたいことはない。父は嬉しいぞ!これで、斉藤家とは縁戚である。この後、両家が共に手を携え、共に繁栄を築いていかなければならない。皆も信長を盛りたて精進するのだぞ!」
その日、父上は大そうご機嫌で浴びるように酒を酌みかわしていた。
「はい!心得ました。この後は織田家の益々の繁栄の為、家臣一同、心してまいります。」
久しぶりに皆が沸きたち、愉快に酒を酌み交わしている姿や、私の為に喜んでくれている姿は見ているだけで楽しかった 。
「良いか信長。父はどんなことがあろうと、お前が家督であると思っている。家臣一同も十分承知の上だ。自分もそれを肝に命じ、この後は濃姫と共に織田家を盛り立てていくのだぞ。」
「はい。父上。かしこまりました。精進してまいります。」
自信はないが、自分がこの織田家を守っていかなければならない事ぐらいは自覚はしている。
そして、まだ父上の庇護下にいることも十分自覚している。
始めはこの婚姻が嫌で仕方なかったが、今では少しは納得している。
何より、政略結婚だとしても、父上のお役に立てるのなら嬉しかった。
父上は今も昔も変わらず、私に優しかった。
しかし考えてみれば、弟の信勝にとって父は常に優しい父であったのだろうか?
今にしてみれば、父は明らかにその嫡男として生まれた私と、弟の扱いは違っていたように思える。
そして母は、弟が生まれ、まだ私たちが幼かった頃はともに優しい母であったと思う。
いったい、母がいつ頃から私に冷たくなっていったのかは、実際のところ定かではなかった。
父上の愛情は私に、母上の愛情は弟に、そういうものなのだろうか?真の愛情とは一人の人間にしか向かないものなのだろうか?
そしてまた、夫婦とはどうなんだろうか。
父上の母上への、母上の父上への愛情とは?
思い起こしてみれば、ここ何年も父上と母上の仲睦ましい様子など見ていないような気がする。
そんなことを考えながら、ふと、隣にいる濃姫に目を向けてみる 。
緊張しているのか、先ほどからぴくりともしない。
この後、この娘と私はどのような夫婦になるのだろう・・
私は、私の愛情をまんべんなく皆に注げるようなそんな男になりたい・・
民にも、家臣にも、そして私の妻にも・・漠然とだがそう思っていた。
初夜の床・・そんな私の仄かな期待は早々に打ち砕かれた。
「信長様、初めに言っておきます。私は斉藤道三の娘です。元々両家は敵同士でございます。よってこの婚姻はあくまで政略結婚です。私は人質と一緒です。この後両家がどうなるか?そして私の意志がどう変わるかによって状況は変わります。ですので、夫婦というのは表向きだけですからどうぞご理解下さい。」
「なに!」
感情のない顔で濃姫は私にそう言い放った。
「夫婦でいることも、無論、お子をもうけることもご期待には添えません!」
怒りが体の隅々から沸き上がるのが分かった。
少しばかり期待したせいで余計な悲しみが共に襲いかかる。
「好きにしたらいい!」
そう言うのがやっとで私はその場を立ち去った 。
この怒りと嫌悪感は久し振りに感じた痛みだった。
般若がまた一人増えた・・そしてまたこの屋敷に私の居場所がなくなってしまった。
朝まで酒場をふら付き、好き放題遊びまわっては泥酔状態で屋敷へ帰り何もせずに爆睡・・
たまに万松寺に行っては、日がな一日紫陽花の池で暇を潰す ・・
愛されないことの辛さは分かっていたはずなのに私はまだこんなにも耐えられない・・
弱い自分がみじめで、情けなくて、悔しくてたまらなかった。
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