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第一章
心配
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万松寺の本堂に近づくと大勢の人々が目に飛び込んできた。
「若!若様!ご無事で何よりです。皆のもの若様はご無事だぞ!」
皆、歓喜に沸いていた。
「若様、よくぞご無事で・・」
「政秀・・心配かけてすまなかった・・」
「ひと先ず、本堂の中へ。お休み下さい。」
「うん・・」
心臓が飛び出しそうにドキドキしている。
これから、この三郎信長、一世一代の大嘘芝居をするのだ!
「若様、いったいどちらにおられたのです!」
(来たぞ~深呼吸~)
「いや~その~屋敷を飛び出してから、方々で酒を飲み、慣れないもので酔いつぶれていたら身ぐるみはがされてしまってな、目が覚めたらどこかの農村で・・やっとの思いで戻ってきたが、どうもその折殴られたようで、記憶が定かじゃないんだ。たまたま見かけたこの寺がなぜか妙に見覚えがあるような気がし・・入ってみたら記憶が黄泉がえって来た訳なんだ。そしてここに来たらお前達がいたという事なんだな。」
思いついた事を一気に吐き出して、政秀の顔色を窺ってみた。
「分りました。ご無事で何よりです。本当に心配致しました。しかし・・若様。その出で立ちはいったいなんなのですか?」
「あ~これはつまり・・助けてもらった農民の家で着物の切れ端で作ってくれたものなんだ。布地が足りなくてこんな形になったらしいって言ってた。なあ~斬新な着物だよな~」
我ながら上手い切り返しだと自分に感心する。
「さようですか・・まずはお帰りになりませんと。お館様が心配しておりますので・・」
「あ~わかった。本当に心配かけてすまなかった。」
「もう良いのです。若様がご無事であれば。ただ三日程度でしたら、おっしゃって頂ければ誰も案ずることもないでしょう。次回からはこの政秀にだけでもお伝え下さい。」
「三日?ただの三日しか経ってないのか?」
「そうでございますよ!三日もいなかったんですから・・深く、反省して頂きたい!」
(三日しか経っていないと?おかしい?歌奈に教わったカレンダーでは、少なくとも三か月になろうとしていた。なのに戻ったらたった三日しか経っていないとは・・いったいどういうことなんだ・・)
「若様、大丈夫ですか?まずはこのまま、お館様に会っていただかなければなりません。心配されて若様のお帰りを待っておられます。」
「分ってる。帰って父上にお会いする。」
(父上から何を聞かれるだろうか?どんな答えを用意しておいたらいいんだろう・・)
道すがら考えてみたが父の聞いてくることなど見当もつかなかった。
(もう腹を括るしかない!当たって砕けろだ!)
「父上!この度は、多大なるご心配をお掛け致しました事、誠に申し訳ございませんでした。就きましては、どのようなお叱りも覚悟致しております!」
思い切って頭を下げた。
「ふむ。無事で何より。父はおまえが無事であれば何も言うことはない。後はゆっくり休みなさい。」
あっけなかった・・
「父上・・あ、ありがとうございます。」
そう言って拍子抜けした顔を上げると・・
「信長・・不思議なものだが、良い顔をしているな。たった三日だが何か良い経験をしたのだろう。」
「えっ?」
「まあ、良い。しかし、この機会に言っておく。お前はこの織田家の嫡男で将来の家督である。それがこの織田家に取っての一番の大事だ。まずはそれをしっかりと自覚し肝に銘じる事だ。」
「はい、父上。肝に銘じます。」
目が覚めた。
よく見慣れた自分の部屋だ。
やっぱり夢だったか・・?
いったいどのくらい眠ってたんだろう。
また身体がギシギシしている。
「誰かいるか?」
「はい、若様。お目覚めですか?」
「今日は何日だ。」
念のため、侍女に尋ねてみた。
「六月七日でございます。お身体は大丈夫ですか?」
(六月七日!)
あたりを見回す。傍らにある見覚えのある・・洋服!勝人の洋服!
「夢じゃない!」
「もちろん夢じゃございません!若様!三日もお姿がなかった上に二日間も眠ってらしたんですよ!」
夢じゃなかったんだ・・そうか・・
「あ~すまなかった。もう大丈夫だから、この衣を洗ってくれるか。大事な衣なんだ。」
勝人の洋服を手に部屋を出て行く侍女の背中を見ながら涙があふれた。
「夢ではない・・」
私が体験したこと、見てきたこと、感じてきたこと、出会った人たち、みな誠だった。
嬉しくて、我を忘れて泣いた。
誠の嬉し涙など、生まれて初めてのことだった。
「若!若様!ご無事で何よりです。皆のもの若様はご無事だぞ!」
皆、歓喜に沸いていた。
「若様、よくぞご無事で・・」
「政秀・・心配かけてすまなかった・・」
「ひと先ず、本堂の中へ。お休み下さい。」
「うん・・」
心臓が飛び出しそうにドキドキしている。
これから、この三郎信長、一世一代の大嘘芝居をするのだ!
「若様、いったいどちらにおられたのです!」
(来たぞ~深呼吸~)
「いや~その~屋敷を飛び出してから、方々で酒を飲み、慣れないもので酔いつぶれていたら身ぐるみはがされてしまってな、目が覚めたらどこかの農村で・・やっとの思いで戻ってきたが、どうもその折殴られたようで、記憶が定かじゃないんだ。たまたま見かけたこの寺がなぜか妙に見覚えがあるような気がし・・入ってみたら記憶が黄泉がえって来た訳なんだ。そしてここに来たらお前達がいたという事なんだな。」
思いついた事を一気に吐き出して、政秀の顔色を窺ってみた。
「分りました。ご無事で何よりです。本当に心配致しました。しかし・・若様。その出で立ちはいったいなんなのですか?」
「あ~これはつまり・・助けてもらった農民の家で着物の切れ端で作ってくれたものなんだ。布地が足りなくてこんな形になったらしいって言ってた。なあ~斬新な着物だよな~」
我ながら上手い切り返しだと自分に感心する。
「さようですか・・まずはお帰りになりませんと。お館様が心配しておりますので・・」
「あ~わかった。本当に心配かけてすまなかった。」
「もう良いのです。若様がご無事であれば。ただ三日程度でしたら、おっしゃって頂ければ誰も案ずることもないでしょう。次回からはこの政秀にだけでもお伝え下さい。」
「三日?ただの三日しか経ってないのか?」
「そうでございますよ!三日もいなかったんですから・・深く、反省して頂きたい!」
(三日しか経っていないと?おかしい?歌奈に教わったカレンダーでは、少なくとも三か月になろうとしていた。なのに戻ったらたった三日しか経っていないとは・・いったいどういうことなんだ・・)
「若様、大丈夫ですか?まずはこのまま、お館様に会っていただかなければなりません。心配されて若様のお帰りを待っておられます。」
「分ってる。帰って父上にお会いする。」
(父上から何を聞かれるだろうか?どんな答えを用意しておいたらいいんだろう・・)
道すがら考えてみたが父の聞いてくることなど見当もつかなかった。
(もう腹を括るしかない!当たって砕けろだ!)
「父上!この度は、多大なるご心配をお掛け致しました事、誠に申し訳ございませんでした。就きましては、どのようなお叱りも覚悟致しております!」
思い切って頭を下げた。
「ふむ。無事で何より。父はおまえが無事であれば何も言うことはない。後はゆっくり休みなさい。」
あっけなかった・・
「父上・・あ、ありがとうございます。」
そう言って拍子抜けした顔を上げると・・
「信長・・不思議なものだが、良い顔をしているな。たった三日だが何か良い経験をしたのだろう。」
「えっ?」
「まあ、良い。しかし、この機会に言っておく。お前はこの織田家の嫡男で将来の家督である。それがこの織田家に取っての一番の大事だ。まずはそれをしっかりと自覚し肝に銘じる事だ。」
「はい、父上。肝に銘じます。」
目が覚めた。
よく見慣れた自分の部屋だ。
やっぱり夢だったか・・?
いったいどのくらい眠ってたんだろう。
また身体がギシギシしている。
「誰かいるか?」
「はい、若様。お目覚めですか?」
「今日は何日だ。」
念のため、侍女に尋ねてみた。
「六月七日でございます。お身体は大丈夫ですか?」
(六月七日!)
あたりを見回す。傍らにある見覚えのある・・洋服!勝人の洋服!
「夢じゃない!」
「もちろん夢じゃございません!若様!三日もお姿がなかった上に二日間も眠ってらしたんですよ!」
夢じゃなかったんだ・・そうか・・
「あ~すまなかった。もう大丈夫だから、この衣を洗ってくれるか。大事な衣なんだ。」
勝人の洋服を手に部屋を出て行く侍女の背中を見ながら涙があふれた。
「夢ではない・・」
私が体験したこと、見てきたこと、感じてきたこと、出会った人たち、みな誠だった。
嬉しくて、我を忘れて泣いた。
誠の嬉し涙など、生まれて初めてのことだった。
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