12 / 58
第一章
心配
しおりを挟む
万松寺の本堂に近づくと大勢の人々が目に飛び込んできた。
「若!若様!ご無事で何よりです。皆のもの若様はご無事だぞ!」
皆、歓喜に沸いていた。
「若様、よくぞご無事で・・」
「政秀・・心配かけてすまなかった・・」
「ひと先ず、本堂の中へ。お休み下さい。」
「うん・・」
心臓が飛び出しそうにドキドキしている。
これから、この三郎信長、一世一代の大嘘芝居をするのだ!
「若様、いったいどちらにおられたのです!」
(来たぞ~深呼吸~)
「いや~その~屋敷を飛び出してから、方々で酒を飲み、慣れないもので酔いつぶれていたら身ぐるみはがされてしまってな、目が覚めたらどこかの農村で・・やっとの思いで戻ってきたが、どうもその折殴られたようで、記憶が定かじゃないんだ。たまたま見かけたこの寺がなぜか妙に見覚えがあるような気がし・・入ってみたら記憶が黄泉がえって来た訳なんだ。そしてここに来たらお前達がいたという事なんだな。」
思いついた事を一気に吐き出して、政秀の顔色を窺ってみた。
「分りました。ご無事で何よりです。本当に心配致しました。しかし・・若様。その出で立ちはいったいなんなのですか?」
「あ~これはつまり・・助けてもらった農民の家で着物の切れ端で作ってくれたものなんだ。布地が足りなくてこんな形になったらしいって言ってた。なあ~斬新な着物だよな~」
我ながら上手い切り返しだと自分に感心する。
「さようですか・・まずはお帰りになりませんと。お館様が心配しておりますので・・」
「あ~わかった。本当に心配かけてすまなかった。」
「もう良いのです。若様がご無事であれば。ただ三日程度でしたら、おっしゃって頂ければ誰も案ずることもないでしょう。次回からはこの政秀にだけでもお伝え下さい。」
「三日?ただの三日しか経ってないのか?」
「そうでございますよ!三日もいなかったんですから・・深く、反省して頂きたい!」
(三日しか経っていないと?おかしい?歌奈に教わったカレンダーでは、少なくとも三か月になろうとしていた。なのに戻ったらたった三日しか経っていないとは・・いったいどういうことなんだ・・)
「若様、大丈夫ですか?まずはこのまま、お館様に会っていただかなければなりません。心配されて若様のお帰りを待っておられます。」
「分ってる。帰って父上にお会いする。」
(父上から何を聞かれるだろうか?どんな答えを用意しておいたらいいんだろう・・)
道すがら考えてみたが父の聞いてくることなど見当もつかなかった。
(もう腹を括るしかない!当たって砕けろだ!)
「父上!この度は、多大なるご心配をお掛け致しました事、誠に申し訳ございませんでした。就きましては、どのようなお叱りも覚悟致しております!」
思い切って頭を下げた。
「ふむ。無事で何より。父はおまえが無事であれば何も言うことはない。後はゆっくり休みなさい。」
あっけなかった・・
「父上・・あ、ありがとうございます。」
そう言って拍子抜けした顔を上げると・・
「信長・・不思議なものだが、良い顔をしているな。たった三日だが何か良い経験をしたのだろう。」
「えっ?」
「まあ、良い。しかし、この機会に言っておく。お前はこの織田家の嫡男で将来の家督である。それがこの織田家に取っての一番の大事だ。まずはそれをしっかりと自覚し肝に銘じる事だ。」
「はい、父上。肝に銘じます。」
目が覚めた。
よく見慣れた自分の部屋だ。
やっぱり夢だったか・・?
いったいどのくらい眠ってたんだろう。
また身体がギシギシしている。
「誰かいるか?」
「はい、若様。お目覚めですか?」
「今日は何日だ。」
念のため、侍女に尋ねてみた。
「六月七日でございます。お身体は大丈夫ですか?」
(六月七日!)
あたりを見回す。傍らにある見覚えのある・・洋服!勝人の洋服!
「夢じゃない!」
「もちろん夢じゃございません!若様!三日もお姿がなかった上に二日間も眠ってらしたんですよ!」
夢じゃなかったんだ・・そうか・・
「あ~すまなかった。もう大丈夫だから、この衣を洗ってくれるか。大事な衣なんだ。」
勝人の洋服を手に部屋を出て行く侍女の背中を見ながら涙があふれた。
「夢ではない・・」
私が体験したこと、見てきたこと、感じてきたこと、出会った人たち、みな誠だった。
嬉しくて、我を忘れて泣いた。
誠の嬉し涙など、生まれて初めてのことだった。
「若!若様!ご無事で何よりです。皆のもの若様はご無事だぞ!」
皆、歓喜に沸いていた。
「若様、よくぞご無事で・・」
「政秀・・心配かけてすまなかった・・」
「ひと先ず、本堂の中へ。お休み下さい。」
「うん・・」
心臓が飛び出しそうにドキドキしている。
これから、この三郎信長、一世一代の大嘘芝居をするのだ!
「若様、いったいどちらにおられたのです!」
(来たぞ~深呼吸~)
「いや~その~屋敷を飛び出してから、方々で酒を飲み、慣れないもので酔いつぶれていたら身ぐるみはがされてしまってな、目が覚めたらどこかの農村で・・やっとの思いで戻ってきたが、どうもその折殴られたようで、記憶が定かじゃないんだ。たまたま見かけたこの寺がなぜか妙に見覚えがあるような気がし・・入ってみたら記憶が黄泉がえって来た訳なんだ。そしてここに来たらお前達がいたという事なんだな。」
思いついた事を一気に吐き出して、政秀の顔色を窺ってみた。
「分りました。ご無事で何よりです。本当に心配致しました。しかし・・若様。その出で立ちはいったいなんなのですか?」
「あ~これはつまり・・助けてもらった農民の家で着物の切れ端で作ってくれたものなんだ。布地が足りなくてこんな形になったらしいって言ってた。なあ~斬新な着物だよな~」
我ながら上手い切り返しだと自分に感心する。
「さようですか・・まずはお帰りになりませんと。お館様が心配しておりますので・・」
「あ~わかった。本当に心配かけてすまなかった。」
「もう良いのです。若様がご無事であれば。ただ三日程度でしたら、おっしゃって頂ければ誰も案ずることもないでしょう。次回からはこの政秀にだけでもお伝え下さい。」
「三日?ただの三日しか経ってないのか?」
「そうでございますよ!三日もいなかったんですから・・深く、反省して頂きたい!」
(三日しか経っていないと?おかしい?歌奈に教わったカレンダーでは、少なくとも三か月になろうとしていた。なのに戻ったらたった三日しか経っていないとは・・いったいどういうことなんだ・・)
「若様、大丈夫ですか?まずはこのまま、お館様に会っていただかなければなりません。心配されて若様のお帰りを待っておられます。」
「分ってる。帰って父上にお会いする。」
(父上から何を聞かれるだろうか?どんな答えを用意しておいたらいいんだろう・・)
道すがら考えてみたが父の聞いてくることなど見当もつかなかった。
(もう腹を括るしかない!当たって砕けろだ!)
「父上!この度は、多大なるご心配をお掛け致しました事、誠に申し訳ございませんでした。就きましては、どのようなお叱りも覚悟致しております!」
思い切って頭を下げた。
「ふむ。無事で何より。父はおまえが無事であれば何も言うことはない。後はゆっくり休みなさい。」
あっけなかった・・
「父上・・あ、ありがとうございます。」
そう言って拍子抜けした顔を上げると・・
「信長・・不思議なものだが、良い顔をしているな。たった三日だが何か良い経験をしたのだろう。」
「えっ?」
「まあ、良い。しかし、この機会に言っておく。お前はこの織田家の嫡男で将来の家督である。それがこの織田家に取っての一番の大事だ。まずはそれをしっかりと自覚し肝に銘じる事だ。」
「はい、父上。肝に銘じます。」
目が覚めた。
よく見慣れた自分の部屋だ。
やっぱり夢だったか・・?
いったいどのくらい眠ってたんだろう。
また身体がギシギシしている。
「誰かいるか?」
「はい、若様。お目覚めですか?」
「今日は何日だ。」
念のため、侍女に尋ねてみた。
「六月七日でございます。お身体は大丈夫ですか?」
(六月七日!)
あたりを見回す。傍らにある見覚えのある・・洋服!勝人の洋服!
「夢じゃない!」
「もちろん夢じゃございません!若様!三日もお姿がなかった上に二日間も眠ってらしたんですよ!」
夢じゃなかったんだ・・そうか・・
「あ~すまなかった。もう大丈夫だから、この衣を洗ってくれるか。大事な衣なんだ。」
勝人の洋服を手に部屋を出て行く侍女の背中を見ながら涙があふれた。
「夢ではない・・」
私が体験したこと、見てきたこと、感じてきたこと、出会った人たち、みな誠だった。
嬉しくて、我を忘れて泣いた。
誠の嬉し涙など、生まれて初めてのことだった。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説

楽将伝
九情承太郎
歴史・時代
三人の天下人と、最も遊んだ楽将・金森長近(ながちか)のスチャラカ戦国物語
織田信長の親衛隊は
気楽な稼業と
きたもんだ(嘘)
戦国史上、最もブラックな職場
「織田信長の親衛隊」
そこで働きながらも、マイペースを貫く、趣味の人がいた
金森可近(ありちか)、後の長近(ながちか)
天下人さえ遊びに来る、趣味の達人の物語を、ご賞味ください!!

獅子の末裔
卯花月影
歴史・時代
未だ戦乱続く近江の国に生まれた蒲生氏郷。主家・六角氏を揺るがした六角家騒動がようやく落ち着いてきたころ、目の前に現れたのは天下を狙う織田信長だった。
和歌をこよなく愛する温厚で無力な少年は、信長にその非凡な才を見いだされ、戦国武将として成長し、開花していく。
前作「滝川家の人びと」の続編です。途中、エピソードの被りがありますが、蒲生氏郷視点で描かれます。
敵は家康
早川隆
歴史・時代
旧題:礫-つぶて-
【第六回アルファポリス歴史・時代小説大賞 特別賞受賞作品】
俺は石ころじゃない、礫(つぶて)だ!桶狭間前夜を駆ける無名戦士達の物語。永禄3年5月19日の早朝。桶狭間の戦いが起こるほんの数時間ほど前の話。出撃に際し戦勝祈願に立ち寄った熱田神宮の拝殿で、織田信長の眼に、彼方の空にあがる二条の黒い煙が映った。重要拠点の敵を抑止する付け城として築かれた、鷲津砦と丸根砦とが、相前後して炎上、陥落したことを示す煙だった。敵は、餌に食いついた。ひとりほくそ笑む信長。しかし、引き続く歴史的大逆転の影には、この両砦に籠って戦い、玉砕した、名もなき雑兵どもの人生と、夢があったのである・・・
本編は「信長公記」にも記された、このプロローグからわずかに時間を巻き戻し、弥七という、矢作川の流域に棲む河原者(被差別民)の子供が、ある理不尽な事件に巻き込まれたところからはじまります。逃亡者となった彼は、やがて国境を越え、風雲急を告げる東尾張へ。そして、戦地を駆ける黒鍬衆の一人となって、底知れぬ謀略と争乱の渦中に巻き込まれていきます。そして、最後に行き着いた先は?
ストーリーはフィクションですが、周辺の歴史事件など、なるべく史実を踏みリアリティを追求しました。戦場を駆ける河原者二人の眼で、戦国時代を体感しに行きましょう!
戦国を駆ける軍師・雪之丞見参!
沙羅双樹
歴史・時代
川中島の合戦で亡くなった軍師、山本勘助に嫡男がいた。その男は、山本雪之丞と言い、頭が良く、姿かたちも美しい若者であった。その日、信玄の館を訪れた雪之丞は、上洛の手段を考えている信玄に、「第二啄木鳥の戦法」を提案したのだった……。
この小説はカクヨムに連載中の「武田信玄上洛記」を大幅に加筆訂正したものです。より読みやすく面白く書き直しました。「武田信玄上洛の巻」の後は、「明智光秀の本能寺の変の巻」、さらにそのあとは鎌倉の商人、紅屋庄右衛門が登場する「商売人、紅屋庄右衛門の巻」、そして下野の国宇都宮で摩耶姫に会う「妖美なる姫君、摩耶姫の巻」へと展開していきます。
出撃!特殊戦略潜水艦隊
ノデミチ
歴史・時代
海の狩人、潜水艦。
大国アメリカと短期決戦を挑む為に、連合艦隊司令山本五十六の肝入りで創設された秘匿潜水艦。
戦略潜水戦艦 伊号第500型潜水艦〜2隻。
潜水空母 伊号第400型潜水艦〜4隻。
広大な太平洋を舞台に大暴れする連合艦隊の秘密兵器。
一度書いてみたかったIF戦記物。
この機会に挑戦してみます。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる