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第一章
帰還
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織田家は騒然としていた。
「何としても若様を見つけ出すのだぞ!絶対に内密にだ!・・何があっても他に漏れてはならぬぞ!」
「はっ!かしこまりました!」
織田家、家臣達は戦々恐々となり各々へ散っていった。
「政秀殿、若様のお姿が見えなくなってからまもなく三日になります。本当に大丈夫なのですか?お目付け役として、お館様には何と申し開きをなさるおつもりですか!」
「仕方あるまい。だが、私は若様を信じているのでな。心配するな。あの方なら大丈夫。必ず無事にお戻りになる。」
主君、織田信秀の元へ向かいながら、平手政秀は万が一を考えていた。
(もし、このまま若様が戻らなければお館様に何とお伝えすればよいのだろう。我が首を持ってしても償いきれることではない。織田家存続の危機になってしまう。ましてやお館様のお気持ちを思うと・・)
「お館様、政秀にございます。」
「入れ・・」
緊張した面持ちで、信秀の前にひざまずく・・
「お館様、申し訳ございません。若様は今だ行方が分かりません。内密に動いてはおりますが、何として見つけ出しますので、もうしばしの時をお与え下さい。」
「うむ・・仕方あるまい・・」
「ありがとうございます。」
暫くの沈黙の後・・
「なあ政秀・・私はな、あの子はただの(うつけ)ではないと思っている。それは私が一番よくわかっている。あの子の母が何と言おうと、弟がいかに優れていようと、私の気持ちは変わらない。いいな・・奥が実家より戻る前に必ず探し出せ。」
「はっ!必ずや!」
政秀は、逸る気持ちを抑えながら冷静を保とうと必死であった。
(奥方様派を抑えながら、何としても急がなくては!若様の行きそうな所をもう一度考えなおさなければ・・
最近、御出での場所をもう一度探してみるか・・幼き頃よりお世話して来た自分の責任だぞ!)
「もう一度、万松寺に参る!若様がお立ち寄りになりそうなところは全てお探ししたがまだ見つからない。この上はもう一度始めから見直す事にする。まずは、若様のお姿が見えなくなる前に訪れた場所など方々を再度、くまなく調べよ。最後に行かれた万松寺には私が直に参る。」
(息が、苦しい!)
必死の思いで水をかき分け水面に出た。
「だ~死ぬかと思った!また、池に落ちたのか!」
地べたに寝転がり息も絶え絶え、ふとあたりを見回すと見慣れた景色に思わず起き上がる。
「え!平成じゃない?え~戻ってきた!え~誠か!」
思わず声に出た。
そしてまた座りこんだ。
(夢だったのか?本当はここで眠りこんでいただけなのか?それにしてはまるで現実のようだった。しかし、あんな世界がくるなんて私の夢も馬鹿げている・・ましてや、この私が未来に行けるなんて、そんなこと出来るわけないじゃないか・・)
そう思った瞬間、自分が身に着けているものが何なのか目に飛び込んで来た。
「この着物は!勝人の服!夢じゃない!」
あまりの衝撃にすぐには何も考えられなかったが、ここがあの未来ではなく、私が生きて暮らしていた時代だというのは明らかだった。
万松寺の暗闇の池のほとりには見慣れた紫陽花が咲いている。
間違いなく私の時代だ!
「戻って来たんだ・・」そう思うと途方に暮れた。
(いったい幾月経ってしまったんだろう?皆、心配しているだろうな。何と言って帰ればいいんだ。ましてやこんな着物を着て何んと説明すれば良いのか・・)
良い答えは浮かばない。
何と言っても自分も初めての経験だったし、きっと説明しても分かってもらえないだろう。
ましてや何日経ったかも分からないのにその説明など思いつくはずもない。
でも、戻ったからには帰らざるを得ない・・
帰るためには説明を考えなければならない・・全力でそう思った。
そして、この場所に探しに来られたらよほど嫌だと感じた。
(初めてこの場所を見つけた時もそう感じたな・・)
そんなことを思い出しながら歩き始めた。
「何としても若様を見つけ出すのだぞ!絶対に内密にだ!・・何があっても他に漏れてはならぬぞ!」
「はっ!かしこまりました!」
織田家、家臣達は戦々恐々となり各々へ散っていった。
「政秀殿、若様のお姿が見えなくなってからまもなく三日になります。本当に大丈夫なのですか?お目付け役として、お館様には何と申し開きをなさるおつもりですか!」
「仕方あるまい。だが、私は若様を信じているのでな。心配するな。あの方なら大丈夫。必ず無事にお戻りになる。」
主君、織田信秀の元へ向かいながら、平手政秀は万が一を考えていた。
(もし、このまま若様が戻らなければお館様に何とお伝えすればよいのだろう。我が首を持ってしても償いきれることではない。織田家存続の危機になってしまう。ましてやお館様のお気持ちを思うと・・)
「お館様、政秀にございます。」
「入れ・・」
緊張した面持ちで、信秀の前にひざまずく・・
「お館様、申し訳ございません。若様は今だ行方が分かりません。内密に動いてはおりますが、何として見つけ出しますので、もうしばしの時をお与え下さい。」
「うむ・・仕方あるまい・・」
「ありがとうございます。」
暫くの沈黙の後・・
「なあ政秀・・私はな、あの子はただの(うつけ)ではないと思っている。それは私が一番よくわかっている。あの子の母が何と言おうと、弟がいかに優れていようと、私の気持ちは変わらない。いいな・・奥が実家より戻る前に必ず探し出せ。」
「はっ!必ずや!」
政秀は、逸る気持ちを抑えながら冷静を保とうと必死であった。
(奥方様派を抑えながら、何としても急がなくては!若様の行きそうな所をもう一度考えなおさなければ・・
最近、御出での場所をもう一度探してみるか・・幼き頃よりお世話して来た自分の責任だぞ!)
「もう一度、万松寺に参る!若様がお立ち寄りになりそうなところは全てお探ししたがまだ見つからない。この上はもう一度始めから見直す事にする。まずは、若様のお姿が見えなくなる前に訪れた場所など方々を再度、くまなく調べよ。最後に行かれた万松寺には私が直に参る。」
(息が、苦しい!)
必死の思いで水をかき分け水面に出た。
「だ~死ぬかと思った!また、池に落ちたのか!」
地べたに寝転がり息も絶え絶え、ふとあたりを見回すと見慣れた景色に思わず起き上がる。
「え!平成じゃない?え~戻ってきた!え~誠か!」
思わず声に出た。
そしてまた座りこんだ。
(夢だったのか?本当はここで眠りこんでいただけなのか?それにしてはまるで現実のようだった。しかし、あんな世界がくるなんて私の夢も馬鹿げている・・ましてや、この私が未来に行けるなんて、そんなこと出来るわけないじゃないか・・)
そう思った瞬間、自分が身に着けているものが何なのか目に飛び込んで来た。
「この着物は!勝人の服!夢じゃない!」
あまりの衝撃にすぐには何も考えられなかったが、ここがあの未来ではなく、私が生きて暮らしていた時代だというのは明らかだった。
万松寺の暗闇の池のほとりには見慣れた紫陽花が咲いている。
間違いなく私の時代だ!
「戻って来たんだ・・」そう思うと途方に暮れた。
(いったい幾月経ってしまったんだろう?皆、心配しているだろうな。何と言って帰ればいいんだ。ましてやこんな着物を着て何んと説明すれば良いのか・・)
良い答えは浮かばない。
何と言っても自分も初めての経験だったし、きっと説明しても分かってもらえないだろう。
ましてや何日経ったかも分からないのにその説明など思いつくはずもない。
でも、戻ったからには帰らざるを得ない・・
帰るためには説明を考えなければならない・・全力でそう思った。
そして、この場所に探しに来られたらよほど嫌だと感じた。
(初めてこの場所を見つけた時もそう感じたな・・)
そんなことを思い出しながら歩き始めた。
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