いまさら!のぶなが?

華猫

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第一章

目覚め

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恐怖に慄く姿を誰にも見られたくなかった。
心も体も頭の中も全く整理が付かないまま一晩、部屋に閉じ籠り夜が明けた。

正直、皆が心配しているのは手に取るように分かっていた。
どこの誰かも分からない自分に、こんなにも親切にしてくれている人たちに対して私はいったいなにをしているんだろうと、こんな自分が恥ずかしくもなった。

考えてみれば、この世界に迷いこんだその日から、自分は何も知ろうともせず、ただ皆に甘え、本当に知らなければならないことを無意識のうちに遠ざけていたのかもしれない。
現実を突きつけられてうろたえた自分はなんて愚かな人間なんだ。
実際、もういく日立つのだろう。それさえも考えずにここまで来たとは情けない・・
今の幸せに流されては駄目だ!
いい加減自分の心を決めて、知らなければならない事、やらなければならない事を真剣に考えろ!
しっかりしろ三郎!
くよくよと逃げていてはダメだ!
どこにいようとしっかり自分の足で立て!

そう思った瞬間、私に付いていた何かが落ちたような気がした。

(よし!やるぞ!)

私は部屋から飛び出し、先ずは歌奈に謝ることから始めよう、そう思った。

そして恐る恐る彼女の部屋の扉を叩き、扉の前から話し掛けてみた。

「歌奈!昨日はごめん。実はちょっと腹の具合が悪くて・・何か恥ずかしくて言い出せなかったんだ・・」

絞り出した言い訳で迫ってみた。

扉が開き暗い表情の歌奈が顔を覗かせる。

「そうなの?」

「うん。本当にごめん・・心配かけたよね・・でさ~もう腹の具合も治まったから・・今日また一緒に紫陽寺に行ってくれないか?本当は本堂の中も見てみたいんだ。だめかな?」

不安気だった彼女の顔がふっと明るくなるのが分かった。

「まったく、しょうがないな~良いわよ!付き合ってあげる・・もう~そういうことなら早く言ってよね。お腹が痛いなんて恥ずかしいことじゃないでしょ!」

「うん。ごめん・・」

取り敢えず歌奈の機嫌は取り戻せたらしいので、私は思い切って歌奈に尋ねてみた。

「歌奈、その・・後さ~出来ればなんだけど・・今度、徳川の事とか歴史とか教えてくれるか?」

「えっ!良いけど・・どうしたの急に・・」

私の急な問いかけに歌奈は始めこそ驚いていたが、その顔はみるみるうちにいたずらな表情に変化していった。

「あんたもしかして本当は家康の事とか知らないから、恥ずかしくて帰ったんじゃないわよね!」

予期せぬ答えに私はうろたえたが必死に平静を装う。

「そういう訳じゃないよ!ただ、今は本当に記憶が無くて、知りたいことがあり過ぎるから正直、何から聞いたら良いか分らないんだ。だから徳川から、そう思っただけだよ!」

「そっか!そうだよね・・あんた記憶ないんだから知りたい事たくさんあるよね・・分かった。任せて。私があんたの知りたい事全部教えてあげる!」

ほっとした・・


「ありがとう。じゃあ因みになんだけどね?歌奈。今はなんていう年なんだい?例えばその年号とか・・」

吹っ切れた私はまずこの辺から攻めてみた。

「今は平成30年。西暦でいったら2018年」
「平成?じゃあ天保からいったら何年くらい先になるの?で、西暦って?」
「ちょっと待って!天保っていったらそれこそ家康とかの戦国時代じゃない?細かくは確認しないと私も分からないけど、そうね~今から数えると、500年くらい前かな~」

(500年!まじか~そうだよな・・)

「で、徳川の人間って何をしたの?」
「あんた、やっぱり知らないのね。徳川家康を知らない人はそうそういないわよ。」
「いや!記憶がないだけだよ。」
「そうだったわね・・」

(しかし徳川家康って誰だよ!めちゃくちゃ気になるよ~)

「まあいいわ。簡単に言えば、徳川家康は戦国時代の武将で、それまで長く続いた乱世を終わらせて、太平の世の中を最初に作った人よ。家康が作った江戸幕府は約300年続いたんだよ。西暦っていうのはね・・ん~世界基準の年号とでもいうのかな?他の国も使ってる世界共通の年号だね。」

(他の国って?世界共通って?2000年って!)

異国が存在している事は知っていたが、ほとんど日の本しか知らない自分にとって、その異国と共通する年号がある事は驚きでしかなかった。異国の事も断然興味はあるが、しかしまずはこの自分の国を知る事が必要だ。

「その戦国時代?で他に有名な人ってどんな人がいるの?」
「そうね、後は、有名な武将と言ったら誰でも知っているのは、織田信長、豊臣秀吉、武田信玄とか上杉兼信とかかな?」

(えっ!織田信長!!!俺!)

「この辺の人物は絡めて話さないと話がつながらないから、今度ゆっくり話してあげる。みんな同じような年代に生きた人たちだから。それにしても何でもっと早くに聞いてくれなかったのよ。そんなに興味があるならいくらでも教えてあげるのに・・記憶が無い事は分かってるんだから、恥ずかしがってどうするのよ。」

(ホントそうだ!弱虫の自分は聞くことを怖がってたんだから・・でも、もう迷わない。ちゃんと自分の現状を把握してこの世界で生きてやるんだ!)

「じゃあ今日こそ、紫陽寺の本堂を見に行くわよ。」
「うん。行こう!」



とても不思議な感覚だった。

歌奈が言っていた織田信長は私のことなのだろうか?皆が同じ時代に生きていた・・そして徳川家康って?天下人って?いったい誰の事なんだ・・

こうなると、前日の自分はどこへやら。まだまだ知りたいことが湯水のように湧いてくる。

それでもまずは昨日の汚名を返上しなくてはならない。

さて、いざ、紫陽寺へ・・
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