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第一章
恐怖
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ある日、歌奈が言った
「三郎、紫陽寺に行こう」
「?」
「この週末からお祭りだから、あんた、そういうの好きそうじゃない?」
「しようじ?」
「あ~隣のお寺のことよ。紫陽花の花を抜いて後は寺って書いて(しようじ)って読むの。毎年6月のこの時期にお祭りをするのよ。紫陽花が一番きれいに咲いてる頃だからこの時期なんですって。今度の土曜日は前夜祭だから屋台とかも出るし、お祭りの間はお寺の中も見せてくれたりするから、ねえ見たくない?住職もすごく優しくていい人なんだ。私たちがここに越して来た時からとっても良くして貰ってるの。」
「そうなんだ・・」
(お祭りか~今もお祭りなんてあるんだな~)
急な誘いだったが何だかとても嬉しかった。
「うん!行こう」
その日、歌奈と私は紫陽寺のお祭りとやらに行く約束を交わした。
当日・・
玄関先で歌奈を待っているといつもとはまるで違う彼女がそこに現れた。
そう!この時代にもまだ、私の見慣れた”出で立ち”は存在していた!
「どう?三郎。私の浴衣姿も可愛いでしょ?あんたは分んないかもしれないけど、お祭りの日には浴衣を着るのよ。」
「うん・・すごく良いよ!」
その浴衣とやらをまとった歌奈は本当に愛らしく、つい本音が口をついて出た。
「で、でしょ!何よ!今日はやけに正直じゃない!まあいいけど・・じゃあ行こう。」
歌奈も少し照れくさそうにしていたが、それでも期待に逸る心を抑えきれず、二人で笑いながら通りへ駈け出した。
とても華やかで、賑やかで、それでいてとても懐かし雰囲気だった。
表から見るより遙かに参道は長く、両側に見事な紫陽花が今を盛りと咲き乱れ、その景色は圧巻だった。
その傍らには仄かな明かりが灯され、まるで私達を黄泉の国へと誘うようだった。
ゆっくりとその奥へ進んで行くと礼厳あらたかな本堂が姿を現し、私は久しぶりに緊張感を覚えた。
「三郎。お参りをしてから何がしたい?ゆっくり回るから考えなよ。」
「うん・・」
そう・・うなずきながら、まじまじと歌奈をみる。
(やっぱり可愛い・・やばい緊張してきた)
どきどきしている私などお構いなしに、あれもやろうこれも食べようと、歌奈はどんどんまくしたてる。
少々圧倒されながらも、目の前に広がる光景全てが私には新鮮で楽しくて仕方がなかった。
そして彼女が傍にいて一緒に楽しめるこの安心感は、私に感じた事のない幸せをもたらしてくれた。
紫陽寺の懐かしい雰囲気に浸りながら、屋台の珍しい玩具や美味しい食べ物に人一倍興奮していると歌奈がふと話し始めた。
「三郎。お寺の中見せてあげる。ここはね、一見小さなお寺だけど、実は奥はすんごく広くてとっても重要な名所なんですって。私は詳しくは知らないけど、みんなが言ってるの。『このお寺は徳川家康公が秘密に作ったお寺なんだ。但し先祖代々の秘密だけどね』って。」
(徳川・・?)
その名前を聞いた瞬間!なぜか私は急に我にかえった。
(そうだった・・私はこの世界の住人ではないんだ。もっと前、ずーと昔に存在した人間なんだ・・)
そう思ったとたん、言いようのない恐怖と不安が物凄い勢いで私を襲って来た。
その恐怖に居ても立っても居られなかった。
「歌奈・・、もう帰ろう・・」
「えっ?どうして?待ってよ!」
歌奈を振り切って、私は紫陽寺から逃げ帰った。
「三郎、紫陽寺に行こう」
「?」
「この週末からお祭りだから、あんた、そういうの好きそうじゃない?」
「しようじ?」
「あ~隣のお寺のことよ。紫陽花の花を抜いて後は寺って書いて(しようじ)って読むの。毎年6月のこの時期にお祭りをするのよ。紫陽花が一番きれいに咲いてる頃だからこの時期なんですって。今度の土曜日は前夜祭だから屋台とかも出るし、お祭りの間はお寺の中も見せてくれたりするから、ねえ見たくない?住職もすごく優しくていい人なんだ。私たちがここに越して来た時からとっても良くして貰ってるの。」
「そうなんだ・・」
(お祭りか~今もお祭りなんてあるんだな~)
急な誘いだったが何だかとても嬉しかった。
「うん!行こう」
その日、歌奈と私は紫陽寺のお祭りとやらに行く約束を交わした。
当日・・
玄関先で歌奈を待っているといつもとはまるで違う彼女がそこに現れた。
そう!この時代にもまだ、私の見慣れた”出で立ち”は存在していた!
「どう?三郎。私の浴衣姿も可愛いでしょ?あんたは分んないかもしれないけど、お祭りの日には浴衣を着るのよ。」
「うん・・すごく良いよ!」
その浴衣とやらをまとった歌奈は本当に愛らしく、つい本音が口をついて出た。
「で、でしょ!何よ!今日はやけに正直じゃない!まあいいけど・・じゃあ行こう。」
歌奈も少し照れくさそうにしていたが、それでも期待に逸る心を抑えきれず、二人で笑いながら通りへ駈け出した。
とても華やかで、賑やかで、それでいてとても懐かし雰囲気だった。
表から見るより遙かに参道は長く、両側に見事な紫陽花が今を盛りと咲き乱れ、その景色は圧巻だった。
その傍らには仄かな明かりが灯され、まるで私達を黄泉の国へと誘うようだった。
ゆっくりとその奥へ進んで行くと礼厳あらたかな本堂が姿を現し、私は久しぶりに緊張感を覚えた。
「三郎。お参りをしてから何がしたい?ゆっくり回るから考えなよ。」
「うん・・」
そう・・うなずきながら、まじまじと歌奈をみる。
(やっぱり可愛い・・やばい緊張してきた)
どきどきしている私などお構いなしに、あれもやろうこれも食べようと、歌奈はどんどんまくしたてる。
少々圧倒されながらも、目の前に広がる光景全てが私には新鮮で楽しくて仕方がなかった。
そして彼女が傍にいて一緒に楽しめるこの安心感は、私に感じた事のない幸せをもたらしてくれた。
紫陽寺の懐かしい雰囲気に浸りながら、屋台の珍しい玩具や美味しい食べ物に人一倍興奮していると歌奈がふと話し始めた。
「三郎。お寺の中見せてあげる。ここはね、一見小さなお寺だけど、実は奥はすんごく広くてとっても重要な名所なんですって。私は詳しくは知らないけど、みんなが言ってるの。『このお寺は徳川家康公が秘密に作ったお寺なんだ。但し先祖代々の秘密だけどね』って。」
(徳川・・?)
その名前を聞いた瞬間!なぜか私は急に我にかえった。
(そうだった・・私はこの世界の住人ではないんだ。もっと前、ずーと昔に存在した人間なんだ・・)
そう思ったとたん、言いようのない恐怖と不安が物凄い勢いで私を襲って来た。
その恐怖に居ても立っても居られなかった。
「歌奈・・、もう帰ろう・・」
「えっ?どうして?待ってよ!」
歌奈を振り切って、私は紫陽寺から逃げ帰った。
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