いまさら!のぶなが?

華猫

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第一章

悲しみ

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「うつけ」それが私の呼び名だ。
もちろん陰で家臣達が呼んでいる「あだ名」だが・・

しかし、そんなことはどうでもよかった。
ただ、その向こうに私を虐げる母がいることが、幼い頃から私が私の存在を否定するのに十分な理由だった。
それでも父は一貫して私に家督を継がせる事を望み、その堂々たる尾張の虎は、私にとって頼もしくもあり鬱陶しくもあった。
しかしその父と母の私への思いの違いは私を混乱させるだけだった。
そして幼稚な私は腹が立てば暴れまわり、当たり散らし傍若無人な振る舞いでみなを困らせた。
「うつけ」の面目躍如もいいところである。



その日、母は弟を伴い実家へ帰省するという。

「お爺様のお加減があまりよくないので、しばし帰ってまいるが、そなたはしかとお父上のお傍でお仕えするのですよ。」そう話す顔はまるで、感情のない生き物のようだった。

「なんのご相談に帰るのやら・・」傍らで呟く家臣達・・

「いってらっしゃいませ母上。お気をつけて・・」
私はそう言うだけで精いっぱいだった。
取り残され、まるではなから無用であるかのような口ぶりに心は折れそうだった。


いつの頃からだろうか?母上が私にあからさまに敵意を示すようになったのは・・
弟の信勝にだけ愛情を注ぎこみ、私を顧みなくなったのはいったいいつからだったんだろう・・

私は、その母からの憎しみと父からの愛情で押し潰されそうだった。

(信勝の元服の話しだろうか?また私の悪口だろうか?家督相続の話しだろうか?そして私を排除する相談なのか・・)

さまざまな憶測が自分の神経と脳を破壊していく。

耐えられない・・誰にも会いたくない・・誰とも話したくない・・

一人になりたかった・・


気がつくと、また紫陽花の池へと向かっていた。

無我夢中でたどり着き、その美しい光景が目に飛び込むと、とたんに押さえていた感情があふれ出る。
ありったけの声をあげて泣いた。

「母上には私など必要ない・・母上は私など消えてしまえば良いと思っているんだ。母上は私など愛していない・・・」

分かってはいたが声にすると涙が溢れて止まらない。
絶望と、怖れがこみ上げてくる。
ふと、水面に映った自分の顔をまじまじと見つめる・・

ただただ悲しいだけの顔が水面に映る・・

(私など消えてしまえばいい・・) 

心には絶望だけが広がっていた。

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