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4話
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「奴隷の行方が追えないだと?」
薄い栗毛色の髪に、射るような碧眼を持つ青年は不愉快そうに睥睨した。
「間諜であることが見抜かれ殺されているのではないか?」
「私が掛けた術については見抜けないはずですが、暗殺に失敗し処分された可能性はあるかと。」
目の前の魔道士は芝居がかった礼を取る。
「どうであろうな…幼少の頃に離宮に閉じ込めてしまったから今の実力は測れぬが、相当な魔力持ちであったしな…。」
碧眼を持つ青年…第1王子ビリディンはぐるりと首を廻らせた。
「離宮周りに強大な結界が張られていて、アウインが認める者以外は近付けないんだから怪しまれるよね。領地内にポツンと人が沸いたらさ。」
似ている顔立ちにハシバミ色の瞳…こちらは第2王子のスペサルディンだ。
ビリディンの対面に座っている。
「やっぱり魔術師の元に”目”を送るのは難しいかも。王宮内にいた時も毒すら効かなかったじゃない。」
スペサルディンは席を立ち、ビリディンに歩み寄る。
「目は見えず、離宮に隔離されているし、亡き王妃…シトリン様は筆頭魔術師の家系で家柄も低く、後ろ盾となったのもマラカイト公爵家くらい。生かしておいても邪魔にならないよ。」
「私もそう思うが母上がお望みなのだ。」
深いため息をつく。
「お母様は悋気持ちだものね。アゲート国に婿入りさせてしまえば?」
2人の王子はアウインを継承を脅かす存在としては見ていない。
アウインが受け持つ領地以外の政に関わらないため軽視しているのだ。
しかし2人の母親のスピネル妃は、アウインの領民からの支持の高さを危惧していた。
「顔に大きな傷があり、盲た夫などアゲートの王女が了承するか。大体お前の婚約者だろう?」
スペサルディンは肩をすくめる。
「あの子わがままなんだよねぇ。」
2人の王子が軽口を叩いている間、魔道士は平伏して待っていた。
「こちらの魔術は通用しないようだし、お前のことはもう使わぬ。ここより去ね。」
己の魔術が評価されないことは屈辱的であったが、大人しく一礼して退室する。
「あの方に会わねば…。」
暗がりに溶けるように魔道士は王宮を抜けた。
「自分の手がどうかされましたか?」
報告に来たジェイドは髪についた雫を払いつつ、自分の手を見つめている風のアウインに声を掛けた。
「コーラルの魔力を調べているのだが、よく分からなくてな。」
「アウイン様でも分からないことがあるんですね。」
アウインは相手の魔力量やどの系統の魔術が得意なのかが分かる。
対面すればおおよそ測ることが出来、触れて自分の魔力と繋ぐことでより詳細な情報が汲み取れるのだが…。
魔術の系統は5つあると言われている。
創る力
消す力
変える力
操る力
移す力
使える系統が1つだけであったり、当人の魔力量が足りないと、大して働きかけることは出来ず魔術師にはなれない。
ただ便利な道具があり、魔術を封じた石を使えば一度限りの魔術を使うことは可能だ。
アウインは全ての系統を絶大な魔力で扱えるのだ。
「通常魔力は自分の体の中を廻っているものなんだが、彼女は地面と繋がっているようなんだ…今は途切れているようだが。系統も当てはまらない。ただ彼女の作った菓子を食べた感じだと気力が増すような感じがする。」
「…その情報だけですと…私には魔力は見えませんし、何とも言えませんね。」
「ジェイドは3系統持っているのに魔力があまり豊富ではないからなぁ…。コーラルも魔法の使い方を忘れてしまっているようだしな…。遠方の国に一般的に知られていない魔術系統がないか調べるか。…そちらはどうだった?」
ジェイドは報告を振られ顔を引き締めた。
「この国で彼女に相当するような人物が拐かされた事件はありませんでした。」
「だとすれば魔術系統を調べながら素性を追うのが良さそうだな。」
「その方向でお調べしますか?」
アウインは軽く手を振った。
「いや、魔術となれば私が調べた方が早いし、あまりジェイドの戦力を私事で割くわけにもいかない。ご苦労だった。」
ジェイドは少し憐れむような表情をした。
「…彼女自身は最早思い出せませんし、探らなくともよろしいのでは?」
するとアウインはふっと表情を緩める。
「純粋に”魔術師”としてコーラルの力が何なのか知りたいのさ。災厄をもたらすような力であっても困るしね。」
「それはそうですが…。」
ジェイドは言外に、公務の合間にそこまで時間が取れるのか と訴えている。
「それともう一つ、お耳に入れたきことが。」
声を潜めてアウインに近付く。
「件の上級魔道士を調べました。」
1枚の羊皮紙を恭しく差し出す。
アウインは指を走らせ読んでいく。
「…いたのか。」
アウインの小さな呟きは振り続ける雨の音に吸い込まれて消えた。
薄い栗毛色の髪に、射るような碧眼を持つ青年は不愉快そうに睥睨した。
「間諜であることが見抜かれ殺されているのではないか?」
「私が掛けた術については見抜けないはずですが、暗殺に失敗し処分された可能性はあるかと。」
目の前の魔道士は芝居がかった礼を取る。
「どうであろうな…幼少の頃に離宮に閉じ込めてしまったから今の実力は測れぬが、相当な魔力持ちであったしな…。」
碧眼を持つ青年…第1王子ビリディンはぐるりと首を廻らせた。
「離宮周りに強大な結界が張られていて、アウインが認める者以外は近付けないんだから怪しまれるよね。領地内にポツンと人が沸いたらさ。」
似ている顔立ちにハシバミ色の瞳…こちらは第2王子のスペサルディンだ。
ビリディンの対面に座っている。
「やっぱり魔術師の元に”目”を送るのは難しいかも。王宮内にいた時も毒すら効かなかったじゃない。」
スペサルディンは席を立ち、ビリディンに歩み寄る。
「目は見えず、離宮に隔離されているし、亡き王妃…シトリン様は筆頭魔術師の家系で家柄も低く、後ろ盾となったのもマラカイト公爵家くらい。生かしておいても邪魔にならないよ。」
「私もそう思うが母上がお望みなのだ。」
深いため息をつく。
「お母様は悋気持ちだものね。アゲート国に婿入りさせてしまえば?」
2人の王子はアウインを継承を脅かす存在としては見ていない。
アウインが受け持つ領地以外の政に関わらないため軽視しているのだ。
しかし2人の母親のスピネル妃は、アウインの領民からの支持の高さを危惧していた。
「顔に大きな傷があり、盲た夫などアゲートの王女が了承するか。大体お前の婚約者だろう?」
スペサルディンは肩をすくめる。
「あの子わがままなんだよねぇ。」
2人の王子が軽口を叩いている間、魔道士は平伏して待っていた。
「こちらの魔術は通用しないようだし、お前のことはもう使わぬ。ここより去ね。」
己の魔術が評価されないことは屈辱的であったが、大人しく一礼して退室する。
「あの方に会わねば…。」
暗がりに溶けるように魔道士は王宮を抜けた。
「自分の手がどうかされましたか?」
報告に来たジェイドは髪についた雫を払いつつ、自分の手を見つめている風のアウインに声を掛けた。
「コーラルの魔力を調べているのだが、よく分からなくてな。」
「アウイン様でも分からないことがあるんですね。」
アウインは相手の魔力量やどの系統の魔術が得意なのかが分かる。
対面すればおおよそ測ることが出来、触れて自分の魔力と繋ぐことでより詳細な情報が汲み取れるのだが…。
魔術の系統は5つあると言われている。
創る力
消す力
変える力
操る力
移す力
使える系統が1つだけであったり、当人の魔力量が足りないと、大して働きかけることは出来ず魔術師にはなれない。
ただ便利な道具があり、魔術を封じた石を使えば一度限りの魔術を使うことは可能だ。
アウインは全ての系統を絶大な魔力で扱えるのだ。
「通常魔力は自分の体の中を廻っているものなんだが、彼女は地面と繋がっているようなんだ…今は途切れているようだが。系統も当てはまらない。ただ彼女の作った菓子を食べた感じだと気力が増すような感じがする。」
「…その情報だけですと…私には魔力は見えませんし、何とも言えませんね。」
「ジェイドは3系統持っているのに魔力があまり豊富ではないからなぁ…。コーラルも魔法の使い方を忘れてしまっているようだしな…。遠方の国に一般的に知られていない魔術系統がないか調べるか。…そちらはどうだった?」
ジェイドは報告を振られ顔を引き締めた。
「この国で彼女に相当するような人物が拐かされた事件はありませんでした。」
「だとすれば魔術系統を調べながら素性を追うのが良さそうだな。」
「その方向でお調べしますか?」
アウインは軽く手を振った。
「いや、魔術となれば私が調べた方が早いし、あまりジェイドの戦力を私事で割くわけにもいかない。ご苦労だった。」
ジェイドは少し憐れむような表情をした。
「…彼女自身は最早思い出せませんし、探らなくともよろしいのでは?」
するとアウインはふっと表情を緩める。
「純粋に”魔術師”としてコーラルの力が何なのか知りたいのさ。災厄をもたらすような力であっても困るしね。」
「それはそうですが…。」
ジェイドは言外に、公務の合間にそこまで時間が取れるのか と訴えている。
「それともう一つ、お耳に入れたきことが。」
声を潜めてアウインに近付く。
「件の上級魔道士を調べました。」
1枚の羊皮紙を恭しく差し出す。
アウインは指を走らせ読んでいく。
「…いたのか。」
アウインの小さな呟きは振り続ける雨の音に吸い込まれて消えた。
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