上 下
7 / 11

7話

しおりを挟む
 少し時間が経つとまた同じ人物がやってくる場所がある。
何だコレ?
この世界の時間の流れは壊れているのか?
夜の祭りを照らすランタンのように、多くの”世界”がぶら下がっている画廊で、何度も同じことを繰り返している世界が気になった。
同じこと と言っても少しずつ変化している部分がある。でも結末はいつも同じ。
黒い髪の女が死ぬ。金髪赤目の愚かな男の決断で。
結局男は革命や私刑によって後から死ぬのだが、なんでこんなに学ばないんだろうな…。あ、過去のことを覚えてないのか。人間って不便な生き物だよな。

俺は面白がってその世界の中に入ってみた。
ひとまず黒髪の女に接触していみよう。

「あら…初めまして? 貴方にお会いするのは初めてですわね?」
「初めまして であっているよ。君の足掻きはずっと見ていたけれど、会うのは初めてだから」

一瞬キョトンとした表情をすると、随分早口で何事かまくしたてる。

「療養と言うことで公爵領に引きこもったのがスイッチなのかしら…? でも以前も引きこもったことあったはず…。もしやあの茶会を不参加にしたことが…?」

おや? こちらの女はこの世界が繰り返されていることを知っているんだな。

「俺は物語の”外”からやってきた。別に条件が揃って君の前に現れたわけではないから」
「『物語の外』」?

俺はいろんな世界があること、その中でもここは同じことを繰り返していてサッパリ先に進んでいないこと、俺のようにそれぞれの世界に属さない傍観者が多数いることを語った。

「俺たちの仲間には他の世界で”神”や”天使”として崇められているものもいる。まぁそこの世界のヤツらが俺たちをどう認識するかで神だったり魔王だったりするんだが」
「物語の外の方々が超越した存在の扱いなのですね…。貴方は?」
「俺はバアル。…古い時代には嵐と慈雨の神。その後悪魔って扱いになったけど」
「まぁ…どうして悪魔なの?」
「浸透させたい新興宗教がある場合、古代宗教を悪だとしたがるものなんだ。人間側の都合だな」

アナスタシアは最初、”物語の外”があることを疑ったが、俺の説明と手品程度の力を示したことですんなり信じた。
自分だけが繰り返していることを覚えているということも、自分外にも知っている者がいることで心が軽くなったのだろう。
傍観者ほどではないが博識な方だろう。話していて

「話聞けて楽しかったよ、姫さん。じゃ、またな」

我々傍観者が物語の中にいられる時間は20分程度だ。
それほど長くもないアナスタシアとの会話を、俺は楽しむようになっていった。
アナスタシアは何度生まれ変わっても俺を覚えている というのもいい。

「俺を呼び出す方法を教えておくよ」
「呼び出す?私が?」
「今は俺の都合のいい時に押し掛けているだろう? だがアナスタシアの方から話がある場合も出てくるかもしれないから」
「うーん。そうかもしれないわね」
「神として召喚…顕現するのは信心とか条件的に難しいけれど、悪魔式なら生贄が要る分簡単だからな…」

そう言って悪魔式の召喚法をアナスタシアに教える。

「生贄がいるんじゃ易々とは呼び出せないわね」
「呼び出すだけなら髪とか爪で大丈夫だよ。でも何か願いを叶えてほしい とかになると望み分の対価が必要になるね」
「まぁ…念のために覚えておくわ。教えてくれてありがとう」

笑えば吊り目も柔らかい感じになる、素直な子だ。
何故この子が死ぬ未来しかないんだろう?
彼女が願うまで手出しは出来ないが…助けてやりたいな。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。気長に待っててください。月2くらいで更新したいとは思ってます。

【完結】特別な力で国を守っていた〈防国姫〉の私、愚王と愚妹に王宮追放されたのでスパダリ従者と旅に出ます。一方で愚王と愚妹は破滅する模様

岡崎 剛柔
ファンタジー
◎第17回ファンタジー小説大賞に応募しています。投票していただけると嬉しいです 【あらすじ】  カスケード王国には魔力水晶石と呼ばれる特殊な鉱物が国中に存在しており、その魔力水晶石に特別な魔力を流すことで〈魔素〉による疫病などを防いでいた特別な聖女がいた。  聖女の名前はアメリア・フィンドラル。  国民から〈防国姫〉と呼ばれて尊敬されていた、フィンドラル男爵家の長女としてこの世に生を受けた凛々しい女性だった。 「アメリア・フィンドラル、ちょうどいい機会だからここでお前との婚約を破棄する! いいか、これは現国王である僕ことアントン・カスケードがずっと前から決めていたことだ! だから異議は認めない!」  そんなアメリアは婚約者だった若き国王――アントン・カスケードに公衆の面前で一方的に婚約破棄されてしまう。  婚約破棄された理由は、アメリアの妹であったミーシャの策略だった。  ミーシャはアメリアと同じ〈防国姫〉になれる特別な魔力を発現させたことで、アントンを口説き落としてアメリアとの婚約を破棄させてしまう。  そしてミーシャに骨抜きにされたアントンは、アメリアに王宮からの追放処分を言い渡した。  これにはアメリアもすっかり呆れ、無駄な言い訳をせずに大人しく王宮から出て行った。  やがてアメリアは天才騎士と呼ばれていたリヒト・ジークウォルトを連れて〈放浪医師〉となることを決意する。 〈防国姫〉の任を解かれても、国民たちを守るために自分が持つ医術の知識を活かそうと考えたのだ。  一方、本物の知識と実力を持っていたアメリアを王宮から追放したことで、主核の魔力水晶石が致命的な誤作動を起こしてカスケード王国は未曽有の大災害に陥ってしまう。  普通の女性ならば「私と婚約破棄して王宮から追放した報いよ。ざまあ」と喜ぶだろう。  だが、誰よりも優しい心と気高い信念を持っていたアメリアは違った。  カスケード王国全土を襲った未曽有の大災害を鎮めるべく、すべての原因だったミーシャとアントンのいる王宮に、アメリアはリヒトを始めとして旅先で出会った弟子の少女や伝説の魔獣フェンリルと向かう。  些細な恨みよりも、〈防国姫〉と呼ばれた聖女の力で国を救うために――。

頭が花畑の女と言われたので、その通り花畑に住むことにしました。

音爽(ネソウ)
ファンタジー
見た目だけはユルフワ女子のハウラナ・ゼベール王女。 その容姿のせいで誤解され、男達には尻軽の都合の良い女と見られ、婦女子たちに嫌われていた。 16歳になったハウラナは大帝国ダネスゲート皇帝の末席側室として娶られた、体の良い人質だった。 後宮内で弱小国の王女は冷遇を受けるが……。

【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。

BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。 辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん?? 私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?

お花畑な母親が正当な跡取りである兄を差し置いて俺を跡取りにしようとしている。誰か助けて……

karon
ファンタジー
我が家にはおまけがいる。それは俺の兄、しかし兄はすべてに置いて俺に勝っており、俺は凡人以下。兄を差し置いて俺が跡取りになったら俺は詰む。何とかこの状況から逃げ出したい。

水しか操れない無能と言われて虐げられてきた令嬢に転生していたようです。ところで皆さん。人体の殆どが水分から出来ているって知ってました?

ラララキヲ
ファンタジー
 わたくしは出来損ない。  誰もが5属性の魔力を持って生まれてくるこの世界で、水の魔力だけしか持っていなかった欠陥品。  それでも、そんなわたくしでも侯爵家の血と伯爵家の血を引いている『血だけは価値のある女』。  水の魔力しかないわたくしは皆から無能と呼ばれた。平民さえもわたくしの事を馬鹿にする。  そんなわたくしでも期待されている事がある。  それは『子を生むこと』。  血は良いのだから次はまともな者が生まれてくるだろう、と期待されている。わたくしにはそれしか価値がないから……  政略結婚で決められた婚約者。  そんな婚約者と親しくする御令嬢。二人が愛し合っているのならわたくしはむしろ邪魔だと思い、わたくしは父に相談した。  婚約者の為にもわたくしが身を引くべきではないかと……  しかし……──  そんなわたくしはある日突然……本当に突然、前世の記憶を思い出した。  前世の記憶、前世の知識……  わたくしの頭は霧が晴れたかのように世界が突然広がった……  水魔法しか使えない出来損ない……  でも水は使える……  水……水分……液体…………  あら? なんだかなんでもできる気がするわ……?  そしてわたくしは、前世の雑な知識でわたくしを虐げた人たちに仕返しを始める……──   【※女性蔑視な発言が多々出てきますので嫌な方は注意して下さい】 【※知識の無い者がフワッとした知識で書いてますので『これは違う!』が許せない人は読まない方が良いです】 【※ファンタジーに現実を引き合いに出してあれこれ考えてしまう人にも合わないと思います】 ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾もあるよ! ◇なろうにも上げてます。

【完結】私の見る目がない?えーっと…神眼持ってるんですけど、彼の良さがわからないんですか?じゃあ、家を出ていきます。

西東友一
ファンタジー
えっ、彼との結婚がダメ? なぜです、お父様? 彼はイケメンで、知性があって、性格もいい?のに。 「じゃあ、家を出ていきます」

宝箱の中のキラキラ ~悪役令嬢に仕立て上げられそうだけど回避します~

よーこ
ファンタジー
婚約者が男爵家の庶子に篭絡されていることには、前々から気付いていた伯爵令嬢マリアーナ。 しかもなぜか、やってもいない「マリアーナが嫉妬で男爵令嬢をイジメている」との噂が学園中に広まっている。 なんとかしなければならない、婚約者との関係も見直すべきかも、とマリアーナは思っていた。 そしたら婚約者がタイミングよく”あること”をやらかしてくれた。 この機会を逃す手はない! ということで、マリアーナが友人たちの力を借りて婚約者と男爵令嬢にやり返し、幸せを手に入れるお話。 よくある断罪劇からの反撃です。

処理中です...