公爵令嬢アナスタシアの華麗なる鉄槌

招杜羅147

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7話

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 少し時間が経つとまた同じ人物がやってくる場所がある。
何だコレ?
この世界の時間の流れは壊れているのか?
夜の祭りを照らすランタンのように、多くの”世界”がぶら下がっている画廊で、何度も同じことを繰り返している世界が気になった。
同じこと と言っても少しずつ変化している部分がある。でも結末はいつも同じ。
黒い髪の女が死ぬ。金髪赤目の愚かな男の決断で。
結局男は革命や私刑によって後から死ぬのだが、なんでこんなに学ばないんだろうな…。あ、過去のことを覚えてないのか。人間って不便な生き物だよな。

俺は面白がってその世界の中に入ってみた。
ひとまず黒髪の女に接触していみよう。

「あら…初めまして? 貴方にお会いするのは初めてですわね?」
「初めまして であっているよ。君の足掻きはずっと見ていたけれど、会うのは初めてだから」

一瞬キョトンとした表情をすると、随分早口で何事かまくしたてる。

「療養と言うことで公爵領に引きこもったのがスイッチなのかしら…? でも以前も引きこもったことあったはず…。もしやあの茶会を不参加にしたことが…?」

おや? こちらの女はこの世界が繰り返されていることを知っているんだな。

「俺は物語の”外”からやってきた。別に条件が揃って君の前に現れたわけではないから」
「『物語の外』」?

俺はいろんな世界があること、その中でもここは同じことを繰り返していてサッパリ先に進んでいないこと、俺のようにそれぞれの世界に属さない傍観者が多数いることを語った。

「俺たちの仲間には他の世界で”神”や”天使”として崇められているものもいる。まぁそこの世界のヤツらが俺たちをどう認識するかで神だったり魔王だったりするんだが」
「物語の外の方々が超越した存在の扱いなのですね…。貴方は?」
「俺はバアル。…古い時代には嵐と慈雨の神。その後悪魔って扱いになったけど」
「まぁ…どうして悪魔なの?」
「浸透させたい新興宗教がある場合、古代宗教を悪だとしたがるものなんだ。人間側の都合だな」

アナスタシアは最初、”物語の外”があることを疑ったが、俺の説明と手品程度の力を示したことですんなり信じた。
自分だけが繰り返していることを覚えているということも、自分外にも知っている者がいることで心が軽くなったのだろう。
傍観者ほどではないが博識な方だろう。話していて

「話聞けて楽しかったよ、姫さん。じゃ、またな」

我々傍観者が物語の中にいられる時間は20分程度だ。
それほど長くもないアナスタシアとの会話を、俺は楽しむようになっていった。
アナスタシアは何度生まれ変わっても俺を覚えている というのもいい。

「俺を呼び出す方法を教えておくよ」
「呼び出す?私が?」
「今は俺の都合のいい時に押し掛けているだろう? だがアナスタシアの方から話がある場合も出てくるかもしれないから」
「うーん。そうかもしれないわね」
「神として召喚…顕現するのは信心とか条件的に難しいけれど、悪魔式なら生贄が要る分簡単だからな…」

そう言って悪魔式の召喚法をアナスタシアに教える。

「生贄がいるんじゃ易々とは呼び出せないわね」
「呼び出すだけなら髪とか爪で大丈夫だよ。でも何か願いを叶えてほしい とかになると望み分の対価が必要になるね」
「まぁ…念のために覚えておくわ。教えてくれてありがとう」

笑えば吊り目も柔らかい感じになる、素直な子だ。
何故この子が死ぬ未来しかないんだろう?
彼女が願うまで手出しは出来ないが…助けてやりたいな。
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