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5話
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「は…?」
目の前の男は知っている。過去にギルフォードが何をしたのか。その結果どんな結末を迎えたかを。
口の中がカラカラで、指が罪悪感と恐怖で震える。
今日は良い天気なのに、部屋の温度が一気に下がったように感じられた。
「ああ、今この空間は部屋の外と少しズレているから、この会話は聞こえていないよ」
「お前は…誰だ…! アナスタシアじゃないのか?」
「違うね。アナスタシアを殺したものだよ」
「嘘だ!私は殺してない…。いや…今その体にいる者がアナスタシアを殺したのか⁉ 時を戻したのもお前が⁉」
ニタニタと不気味に嗤う目の前の男は先ほどの王太子としての姿とギャップがありすぎた。
そこで近習がようやく口を開いた。
「お顔が乱れておりますよ」
「ああ、失礼。面白くてつい」
「面白いものか! よくもアナスタシアを!」
「破談と投獄を命じたのは貴方だということをお忘れなく」
ギルフォードはぐっと唇を嚙んだ。
「事実としては結果亡くなったわけですよ」
「私はお前と違って死は望んでなかった!」
「おや、濡れ衣で投獄しておいて? 私こそ望んではおりませんよ」
「では何故アナスタシアを殺した!」
「彼女がそれをお望みでしたから、私は手を貸しただけ」
アナスタシアが望んだ? 殺されることを?
「死を選ぶほど…失望したのか…?」
「貴方には元々失望してましたから、投獄で死ぬほどのショックを受けたわけではありませんよ」
それはそれで私はショックだが。
確かに此方にも帝王学を受けている矜持があったから彼女の忠告に耳を傾けることはしなかったしな…。15歳になる頃には殆ど口出ししなかった…見切りをつけた ということだろうな。
「彼女の望みは死の先にあり、それを手に入れるために私に殺されたのです」
「アナスタシアは…私と入れ替わっているものだと思った…」
「彼女の魂でしたらココに」
王太子がクラバットの下から取り出したのは細い六角柱のような赤い石。
ギルフォードは思わず手を伸ばしたが、王太子の姿の誰かは、すぐに服の中に戻してしまう。
「この中で眠ってもらっていますよ。時期が来れば元の体に戻れるようにしているから安心してください」
「…アナスタシアが元の体に戻ったら…私はその体に戻るのか?」
「いいえ? この体にいる私は動かないですから、貴方の魂が弾き出されるだけですね」
「…死ぬと言うことか?」
「既に一度死んでいるでしょう? 1回も2回も同じことです。貴方は罰を受けるために今在るのだから」
❖❖❖
茶はすっかり冷め、王太子の見送りもせずギルフォードは悄然としていた。
アナスタシアを殺した犯人は分かった。
だが時の戻った世界ではそもそも事件はまだ起こっていないし、突き出すにしてもアレは自分の体だ。
私がやったわけではないのに、私の評判が地に落ちる…。
(やはり罰を受けているのか…)
傍に控えるジェイミーに告げることも出来ず、ギルフォードは頭を抱えた。
「アハハハッ! あっさり騙されるねぇ、彼。だから陳腐な嘘に踊らされたんだろうけど」
帰路の馬車の中で、笑い転げる王太子を横目に近習が口を開いた。
「以前お話したようにアレでは弟殿下に敵いませんでしょう? 勉強などは出来る方なのに…最初に聞いた話に全幅の信頼を寄せてしまうのです」
「確かに王の器ではないよねぇ。扱い方を工夫すればよい臣下…くらいかな?」
馬車の中で辛辣な評価を下す2人…マンフレッドは馬に乗って並走しているため、彼らの会話を聞くものはいない。
「では契約通りにことを進めようではないか。我が姫」
王太子は近習の手を取り、額付ける。
「バアル…人前で”姫”とは呼ばないでくださいね? コランタン・リーデッサーという名前になっているのですから」
王太子―バアルはまたニタリと嗤う。
「分かっているよ。アナスタシア」
目の前の男は知っている。過去にギルフォードが何をしたのか。その結果どんな結末を迎えたかを。
口の中がカラカラで、指が罪悪感と恐怖で震える。
今日は良い天気なのに、部屋の温度が一気に下がったように感じられた。
「ああ、今この空間は部屋の外と少しズレているから、この会話は聞こえていないよ」
「お前は…誰だ…! アナスタシアじゃないのか?」
「違うね。アナスタシアを殺したものだよ」
「嘘だ!私は殺してない…。いや…今その体にいる者がアナスタシアを殺したのか⁉ 時を戻したのもお前が⁉」
ニタニタと不気味に嗤う目の前の男は先ほどの王太子としての姿とギャップがありすぎた。
そこで近習がようやく口を開いた。
「お顔が乱れておりますよ」
「ああ、失礼。面白くてつい」
「面白いものか! よくもアナスタシアを!」
「破談と投獄を命じたのは貴方だということをお忘れなく」
ギルフォードはぐっと唇を嚙んだ。
「事実としては結果亡くなったわけですよ」
「私はお前と違って死は望んでなかった!」
「おや、濡れ衣で投獄しておいて? 私こそ望んではおりませんよ」
「では何故アナスタシアを殺した!」
「彼女がそれをお望みでしたから、私は手を貸しただけ」
アナスタシアが望んだ? 殺されることを?
「死を選ぶほど…失望したのか…?」
「貴方には元々失望してましたから、投獄で死ぬほどのショックを受けたわけではありませんよ」
それはそれで私はショックだが。
確かに此方にも帝王学を受けている矜持があったから彼女の忠告に耳を傾けることはしなかったしな…。15歳になる頃には殆ど口出ししなかった…見切りをつけた ということだろうな。
「彼女の望みは死の先にあり、それを手に入れるために私に殺されたのです」
「アナスタシアは…私と入れ替わっているものだと思った…」
「彼女の魂でしたらココに」
王太子がクラバットの下から取り出したのは細い六角柱のような赤い石。
ギルフォードは思わず手を伸ばしたが、王太子の姿の誰かは、すぐに服の中に戻してしまう。
「この中で眠ってもらっていますよ。時期が来れば元の体に戻れるようにしているから安心してください」
「…アナスタシアが元の体に戻ったら…私はその体に戻るのか?」
「いいえ? この体にいる私は動かないですから、貴方の魂が弾き出されるだけですね」
「…死ぬと言うことか?」
「既に一度死んでいるでしょう? 1回も2回も同じことです。貴方は罰を受けるために今在るのだから」
❖❖❖
茶はすっかり冷め、王太子の見送りもせずギルフォードは悄然としていた。
アナスタシアを殺した犯人は分かった。
だが時の戻った世界ではそもそも事件はまだ起こっていないし、突き出すにしてもアレは自分の体だ。
私がやったわけではないのに、私の評判が地に落ちる…。
(やはり罰を受けているのか…)
傍に控えるジェイミーに告げることも出来ず、ギルフォードは頭を抱えた。
「アハハハッ! あっさり騙されるねぇ、彼。だから陳腐な嘘に踊らされたんだろうけど」
帰路の馬車の中で、笑い転げる王太子を横目に近習が口を開いた。
「以前お話したようにアレでは弟殿下に敵いませんでしょう? 勉強などは出来る方なのに…最初に聞いた話に全幅の信頼を寄せてしまうのです」
「確かに王の器ではないよねぇ。扱い方を工夫すればよい臣下…くらいかな?」
馬車の中で辛辣な評価を下す2人…マンフレッドは馬に乗って並走しているため、彼らの会話を聞くものはいない。
「では契約通りにことを進めようではないか。我が姫」
王太子は近習の手を取り、額付ける。
「バアル…人前で”姫”とは呼ばないでくださいね? コランタン・リーデッサーという名前になっているのですから」
王太子―バアルはまたニタリと嗤う。
「分かっているよ。アナスタシア」
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