公爵令嬢アナスタシアの華麗なる鉄槌

招杜羅147

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アナスタシアになったギルフォードが鏡の前で呆然としていると、慌ただしく足音が聞こえ、扉が勢いよく開かれた。

「アナスタシア! 目が覚めたのだな? 良かった…!」

抱きついてくるフォンデール公爵に思わず顔も体も強張る。
自分の中ではついさっき、憎悪と狂気の色が浮かんだ目をしたこの男に何度も剣を突き立てられていたのだ。

「どうした? …アナ?」
「あの…ここはどこ…?」

ギルフォードは咄嗟に記憶がないふりをした。
実際、使用人のことも、屋敷内のことも(玄関と応接室以外は)分からないので記憶がない ということで正しい。

「ゼンメル師をすぐ呼べ!」
「かしこまりました!」
「ああ…まさか私のことも覚えてないのかい?」

よく覚えている。
私と、私を騙したレターニュ子爵令嬢を切り刻んだ男として。
冷や汗が出て体がガクガクと震える。
フォンデール公爵は娘の怯える姿に激しいショックを受け愕然とした。

「旦那様…きっとお嬢様は混乱しているのでしょう。ここは傍仕えのジェイミーに任せて我々は一旦下がりましょう」
執事に諭され、ガックリと肩を落とした公爵と入れ替わりに、初老の男性が入ってくる。

「お嬢様、ゼンメルでございます。…私のこともお忘れですか?」

知らない男なので頷いておく。
一瞬悲しそうな顔をしたが、すぐ職務に向かう目となりテキパキと脈拍などを診ていく。
同時にゼンメルは色々と質問をしていき、ギルフォードはたどたどしく答えていく。
とは言え、昨夜の食事の内容などギルフォードには分かるはずもないので基本的な回答は「いいえ」で、”この体の名前以外は覚えていない”という結果になってしまう。

「なるほど…。お嬢様、大丈夫ですよ。分からない部分は皆でお手伝いしますから…きっと思い出せますよ」

にっこりとアナスタシアに笑いかけ、部屋を下がる侍医の出した答えは
「過度のストレスにより発症した過性全健忘症』…いわゆる記憶喪失というものだった。

(記憶がないのは当たり前だ。私はアナスタシアではないのだから)

だがそれをゼンメルとか言う医者に伝えても解決はしないだろう。
子供の言い分だし、”王子になりたがる変わり者の令嬢”くらいにしか思われない可能性が高い。
これから自分はどうなるのだろう? 元の体に戻れるのだろうか?
そもそも何故…3年前に戻り、生きているのか。

ギルフォードは暗澹あんたんたる気持ちで、仄暗くなった窓の外を見つめた。
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