全能ソーサラーの義妹ができました?

招杜羅147

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52.アン

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アンは無事に仰々しい聖句を暗唱し、礼拝をすませたところでホッと息をついた。
遠くから民衆の沸き立つ声が聞こえる。
今アンがいるのは大神殿の外にある広い祭殿だ。祭殿内部は取り囲むように貴族が儀式を見ており、祭殿の外にはラエドニア王国の民で溢れている。

(渡り人の”国渡り”が神の御力とは言え、信徒でもない余所の国の人間が何故こんなことをしなきゃならないのかしら…。”国渡り”も相手の合意無しでしょ? 実のところ有難いものじゃないわよね…。)

アンは儀式を煩わしく思いながらも、この後に控えている小ホールで予定されている歓迎会に胸を躍らせていた。

(遠目からしか見えなかったけれど、ようやく王子様方とお話が出来るのね。何とか気に入られるようにしたいわ…)

大神官が言祝いで祭典が終了すると、貴族たちはぞろぞろと小ホールへと移動していく。彼らに続いて神殿の上役、そして聖女、神官という順で祭殿を後にする。
アンはまだ歓声を上げて浮かれている民衆をちらりと見やった。

(ワタシが祈ったところで神が何かを約束するわけでもないのに…リンツの王様とワタシに騙されて可哀相な人たち…)

アンは零れるような笑みを浮かべて手を振りながら、ラエドニアの民を蔑んでいた。

❖❖❖

 アラバスタの柱や床は磨き上げられ奥では多くの楽団員が一流の腕を揮っている。王侯貴族がひしめく中、壇上の玉座に座る王が聖女の名を呼んだので、案はドキドキしながら壇上へ近づく。

「此度の祭典はそなたのおかげで成功を収めた…。礼を言う。巡礼は始まったばかりだ、次に訪問する国での活躍も期待している」
「勿体ないお言葉」

礼を返しながらアンは おや? と思った。なんだかにこやかに遮断された気分だ。

王子息子の紹介はないの? 名残惜しみもせず”次に訪問する~”って…さっさと出て行けってこと? どうして⁉)

相手の気に障るようなことをした覚えもないが、確実に”仲良くしたくはない”という意思が感じられる。
心のうちは嵐のように波立っているが表面は聖女エルジュナの仮面を被り、静かに下がった。
相手は王だ。問い詰めることも出来ない。開会の合図とともに王子に接触を図ればよい。

「―ではささやかだが歓迎会を楽しんでくれ」

ラエドニア王が玉座を立つと同時にアンは彼女を褒めそやす貴族たちに囲まれる。称賛の声はありがたいが、これでは目的が果たせないではないか。しかし彼らを追い返して悪評を買えばそもそもこの世界からつまはじきにされてしまう。
アンは辛抱強く応対した。人の波が途切れる時を待って。

フレデリックとローヴァンはホールの端の方にいた。
祭典に招待されているのが爵位のある夫妻になるので、名代を立てた家以外は叙爵されている顔ぶればかりだ。娘の結婚相手を探す夫人に群がられはするが、うら若き令嬢はいないので適当に流しているらしい。

「そちらの可愛らしいお嬢さんはジュリエッタ様が保護されたという義妹ですの?」

”お嬢さん”…子供だとみているのか、子供にしておきたいのか。

「ええ、私たちの婚約者に…と。どちらが娶ることになるかは父が決めますが」

ハッキリ”自分が娶る”と言わないのは、それを言うとローヴァンに求婚の負荷が一気に向かうからだ。直前まで濁しておくのがいい。

「―君たちが来ているとはね。伯爵はどうしたんだい?」

人垣が割れて現れた人物に、誰もが傅く。

「楽に」

王太子―クリスヴァルトの一声に、兄弟に声を掛けていた婦人方はそそくさと離れていく。

「身内にトラブルがありまして、其方に向かいました」
「それは災難だな」

表情は読みにくいが、フレデリックの言葉にクリスヴァルトの目が驚きに軽く見開いた。
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