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式典には両親が出席できなくなってしまったため、3人で行くことになった。
マクレガー伯爵が口惜し気に言う。
「すまないな。妹が社交的なら名代としてフレッドに見舞いを頼めるのだが…」
「仕方ありません。ともあれ叔母上の怪我が軽いと良いのですが…。叔母上にはお見舞いの言葉をお伝えください」
マクレガー伯爵の妹…叔母が馬車同士の接触事故で怪我を負ったということだ。
どの程度の怪我なのかが不明の上、屋敷に籠りがちなマクレガー伯爵の妹は幼い2人に一度会ったきり。名代を立てても甥とは分からず追い返される可能性があるので、よく顔を知る兄マクレガーとジュリエッタ夫人が見舞いに行くことになったのだ。
「アネッサ、マルコ、ヨハン、3人を頼むぞ」
「お任せください」
今回アネッサは護衛騎士らしい衣装を着て仲間と護衛に当たることになる。各人に1人ずつ付くような感じだ。
ミカエラたちは馬車に乗り込むと、馬に跨ったアネッサたちが取り囲むよう陣取り、馬車が動き出す。
「おや、ローも帯剣しているの?」
備え付けの椅子に腰を下ろす際に、ローヴァンが金属音をさせたことでフレデリックは気付いた。
「…叔母上の話、少し妙だと思ったのです」
「妙?」
「普段殆どお出掛けにならないのに馬車を使って何処へ行かれたのでしょう?」
「…確かに買い物などは商人を呼べばよい話だからな」
「ぶつかった相手も不明で怪我も不明。これは…」
「叔母上の狂言か、作り話を掴まされたと思っているのか」
ローヴァンは軽く首を振った。
「そこまでは…。でも叔母上はわざわざ嘘を言ってくるような人ではないし、父上が虚偽の情報で動くとも思えない。ただ”この式典の時期にそれが起こった”というのが気になるのです」
「確かにね。でも偶然と言うのもある」
「勿論。僕は職業柄疑り深いだけです」
「そうだね、備えておくのは悪くない」
兄弟が話している間、ミカエラはフレデリックへの返答を考えていた。
(タウンハウスにいる時に時間を貰って返事をしよう)
夢の中で母親が、ローヴァンが「それは貴女の希望なの?」と訊いてくる。
ミカエラはランシア家の皆が好きだ。出来るだけ長く一緒にいたい。そのための最善手を取ろうと思っている。
(日義兄様と月義兄様と3人で仲良く暮らせたらいいなぁ…。私が何の心配もせずに長く暮らすには婚姻が良くて、そうすると3人で仲良く…というのが難しい…。)
「ミカエラ? 道中は長いから眠っていてもいいんだよ?」
優しい声が降ってきて、それを合図にしたようにミカエラは目を閉じた。
ローヴァンがミカエラの寝顔に満足気に微笑む。
「長い時間馬車に揺られているだけだと退屈だものな」
伯爵家から遠ざかると周りの景色は一気に牧歌的な風景になる。その後しばらくは近くに家の無い森や平地が続くことになるのだ。
ローヴァンの様子と窓の外を見ていたフレデリックが静かに口を開く。
「ロー」
「何?」
「いいのか?」
何が? と聞かないでも分かる。ミカエラのことだ。血を分けた兄弟なので、フレデリックもローヴァンの感情はさすがに分かる。…ここまであからさまな表情をされては。
「兄上は次期伯爵だ。兄上の元にいた方がミカエラを守れる」
「…それでいいのか?」
「うん。その代わり兄上がしっかりミカエラを守って」
「…」
フレデリックは少し苦い表情をして押し黙った。
マクレガー伯爵が口惜し気に言う。
「すまないな。妹が社交的なら名代としてフレッドに見舞いを頼めるのだが…」
「仕方ありません。ともあれ叔母上の怪我が軽いと良いのですが…。叔母上にはお見舞いの言葉をお伝えください」
マクレガー伯爵の妹…叔母が馬車同士の接触事故で怪我を負ったということだ。
どの程度の怪我なのかが不明の上、屋敷に籠りがちなマクレガー伯爵の妹は幼い2人に一度会ったきり。名代を立てても甥とは分からず追い返される可能性があるので、よく顔を知る兄マクレガーとジュリエッタ夫人が見舞いに行くことになったのだ。
「アネッサ、マルコ、ヨハン、3人を頼むぞ」
「お任せください」
今回アネッサは護衛騎士らしい衣装を着て仲間と護衛に当たることになる。各人に1人ずつ付くような感じだ。
ミカエラたちは馬車に乗り込むと、馬に跨ったアネッサたちが取り囲むよう陣取り、馬車が動き出す。
「おや、ローも帯剣しているの?」
備え付けの椅子に腰を下ろす際に、ローヴァンが金属音をさせたことでフレデリックは気付いた。
「…叔母上の話、少し妙だと思ったのです」
「妙?」
「普段殆どお出掛けにならないのに馬車を使って何処へ行かれたのでしょう?」
「…確かに買い物などは商人を呼べばよい話だからな」
「ぶつかった相手も不明で怪我も不明。これは…」
「叔母上の狂言か、作り話を掴まされたと思っているのか」
ローヴァンは軽く首を振った。
「そこまでは…。でも叔母上はわざわざ嘘を言ってくるような人ではないし、父上が虚偽の情報で動くとも思えない。ただ”この式典の時期にそれが起こった”というのが気になるのです」
「確かにね。でも偶然と言うのもある」
「勿論。僕は職業柄疑り深いだけです」
「そうだね、備えておくのは悪くない」
兄弟が話している間、ミカエラはフレデリックへの返答を考えていた。
(タウンハウスにいる時に時間を貰って返事をしよう)
夢の中で母親が、ローヴァンが「それは貴女の希望なの?」と訊いてくる。
ミカエラはランシア家の皆が好きだ。出来るだけ長く一緒にいたい。そのための最善手を取ろうと思っている。
(日義兄様と月義兄様と3人で仲良く暮らせたらいいなぁ…。私が何の心配もせずに長く暮らすには婚姻が良くて、そうすると3人で仲良く…というのが難しい…。)
「ミカエラ? 道中は長いから眠っていてもいいんだよ?」
優しい声が降ってきて、それを合図にしたようにミカエラは目を閉じた。
ローヴァンがミカエラの寝顔に満足気に微笑む。
「長い時間馬車に揺られているだけだと退屈だものな」
伯爵家から遠ざかると周りの景色は一気に牧歌的な風景になる。その後しばらくは近くに家の無い森や平地が続くことになるのだ。
ローヴァンの様子と窓の外を見ていたフレデリックが静かに口を開く。
「ロー」
「何?」
「いいのか?」
何が? と聞かないでも分かる。ミカエラのことだ。血を分けた兄弟なので、フレデリックもローヴァンの感情はさすがに分かる。…ここまであからさまな表情をされては。
「兄上は次期伯爵だ。兄上の元にいた方がミカエラを守れる」
「…それでいいのか?」
「うん。その代わり兄上がしっかりミカエラを守って」
「…」
フレデリックは少し苦い表情をして押し黙った。
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