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49.見舞い

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ミカエラはベッドの中にいた。
戻ってきた安堵感で緊張の糸も切れたのだろう。熱も出て寝込んでしまっていた。

朝のうちに伯爵、夫人、フレデリックが見舞いに来てくれた。
今伯爵は雨による被害視察に、夫人はチャリティーイベントに、フレデリックは手持ちの事業の経営状況の確認に行っている。
アネッサが用意してくれた食事を摂って薬を服用し、柔らかな枕に頭を埋める。

扉が開いたのでアネッサが戻ってきたのかと思い見やると、ローヴァンが本を持って入ってきた。

「月義兄様…。アネッサは?」
「ミカエラに使う湯を用意する間、話し相手になっていてほしいって。家主に堂々と頼み事する使用人っていないよね。…まぁいいけれど」

ベッド傍まで来て椅子に腰かける。

「もう熱も下がってきて、暇を持て余しているだろうから本を持ってきたよ」
「ありがとうございます」
「読んでいない本はあるかな?」
「ほとんど読んだことがないです。このお屋敷で読んだ本はまだ少なくて…」

嫌いではないが、あわただしくしていたので読むひまが取れなかったのだ。

「じゃあこの物語は初めてかな?」
「あ、この本『7つの星を集めて』ですよね? お義母様が面白いって話して下さいました」
「じゃあこちらをどうぞ。冒険もので面白いけれどちょっと文字が多いから…何か分からない単語があったら訊いて?」
「はい」

知らない動物を指す言葉や、聞いたことがない熟語などをローヴァンに聞きながらミカエラは心躍らせながら読み進めていく。
そしてキリが良いところで顔を上げ一息つく。

「休憩しようか。ミカエラは病み上がりだしね」

ひざの上に置いた本はサイドテーブルに移される。

「アネッサ、戻ってこないな」
「別の用事でも入ったのかもしれませんね。私は平気です」

ローヴァンは杯に水差しから水を注いでミカエラに差し出す。
そう言えば色々質問して喉が渇いていた。
ミカエラは杯を有難く受け取り、半分ほど飲み干す。

「飲み終えたら、もうひと眠りするといい」
「はい…」

ローヴァンがミカエラの頭を優しく撫でる。
ミカエラは心地よさに目を細めた。

「…兄上からの求婚の答えは決まった?」

ミカエラは目を見開いた。
目には心配するような悲哀を含むような顔をしたローヴァンが映る。

「王子妃になりたいとか思っていないのなら…」

ミカエラは勢いよく首を振った。

「なりたくありません」
「勿論ミカエラの希望が最優先だから、どんな選択でもミカエラを守るように動くよ。…でももしも兄上を嫌ってないのならランシア家に入る方が次男の僕よりミカエラを守れるのだが…」

この時のローヴァンはただ事実を告げるその言葉のように何の感情の色も見えなかった。

「…月義兄様はそれを望んでいるのですか?」
「…僕が勝手にミカエラを守ることが出来る方法を望んでいるだけ。ミカエラは自由に生きて」

私の幸せを一番に考えてくれる優しい人…。
きっと自分はローヴァンに心惹かれているのだろう。
頭に置かれた彼の手を取り頬を寄せる。ローヴァンは軽く目を見開いたが、そのままにさせた。
互いの目には似たものが見えていた。熱、悲しみ、決意、諦観…。

「ミカエラ…」
「私、月義兄様の提案を受け入れます」
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