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45.諜報

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サンドレア国王との約定によってラエドニア国が渡り人の独占をしにくくしてくれることになったが、代わりに…と密命を受けることになってしまった。

「リンツ国に現れた”聖女”の正体を探ってほしい、か。我々に依頼する当たり、尻尾斬りのつもりなのだろうな」
「もしくは優秀な密偵がサンドレアにはいないのではないでしょうか」
「キナ臭い話みたいですねぇ」

ラエドニアの面々が調査するなら例え彼らの正体が割れても、サンドレアは裏で繋がっていることを否定し、知らぬ存ぜぬを通しやすいということだ。

「まず自分が1人で調べてみます」

ヤルマールはスファスリエ国の中でも少数民族の出だ。出自が分かり難い。この容姿が目くらましに丁度良いことをヤルマールはよく知っている。

「1人で大丈夫か?」
「1人の方が動きやすいのです。それにアネッサは2人の護衛をしないといけませんので…。2日ほどで一度戻ります」

ヤルマールは音もなく扉から出ていく。
部屋にフレデリックとアネッサが残される。
ちなみにミカエラは就寝している時間だ。

「母上のお抱えなら心配は無用か…?」
「元王室のお抱えですよね? あの人…。 騎士団のピアスより数段性能が上の身体強化が掛けられているって話ですよ?」
「ピアスなんてしてなかったぞ?」
「刺青で強化魔法が施されてるって聞きましたよ。だから魔獣相手にハルバードをガンガン振るってたんだと思いますけど」
「あれは強化魔法か…。納得だな」
「聴力も異常に上げられているでしょうから、本陣に入り込まなくても情報を集めてくるはずです」

アネッサはマクレガー伯爵が用意した”腕の立つ”護衛だが、ヤルマールは”王の黒き剣”だ。次元が違う。
よく奥様に1人下賜したなぁ とアネッサは思いながらフレデリックに与えられた部屋を退室し、ミカエラの部屋の前に陣取る。
ヤルマールが戻ってくるまでは交代要員がいないから二徹だな…と思いつつ。

❖❖❖

「リンツ国に渡り人が現れ、それを聖女として祀り上げたというのが筋書きのようでした」

2日後ヤルマールは戻ってきた。

「…筋書きってことは真実は違うんだ?」
「孤児を引き取った大きな商家の夫妻がいるのですが、その養女が色々と予見をすると夫妻が言いまわったそうです」
「…魔法持ちなのか?」
「不明です。皆供述が曖昧だったり、証人がいなかったりで…。ですが言い当てられたことは事実で、最終的に商家の夫妻はリンツ王国にその養女を売ったのです。孤児では聞こえが悪いので”渡り人”にしたようですね」
「金の為に噂を撒いて、裏で予言通りのことを起こしたかもしれないのだな…」
「そういった操作ができる財力がある、という事実だけです。確証はありません」

フレデリックはどういうことだろうと考えようとし―頭を軽く振って止めた。

(我々に課されたのは情報収集はここまででいい。後はサンドレアの重鎮が好きなように解釈するだろう)

「ご苦労だった。ヤルマールのおかげで短い時間で成果を得られた。感謝する」

ヤルマールは静かに礼をして退室する。
フレデリックはヤルマールが調査した内容をまとめ、オーボンヌ伯爵経由でサンドレア国王に報告書を提出した。

「ミカエラ、一度帰ろう」

ミカエラの部屋を訪れたフレデリックは開口一番そう言った。

「え…でも…」
「ここまで強行軍過ぎたからね…。ミカエラは一度ゆっくり休んだ方がいいと思うんだ。サンドレア国王とも約定を交わせたし…休んでも良いと思うよ」

マガタ国もおそらく力になってくれるだろうから、と言われれば否とは言えない。
母と住んだ家から離れてからは慣れないことの連続だったし、休みたい気持ちはあった。でも…。

「大丈夫でしょうか…」
「…画廊まで追いかけてきたって言う王太子殿下のこと?」

ミカエラはコクンと頷く。
彼の情報収集力やあの王族の渡り人への執着が怖い。

「王太子殿下もそれほど暇じゃないから領地まで足を運ばないと思うし、ミカエラのことは療養中につき面会謝絶にしておくよ。 …申し訳ないけれど当分屋敷の外に出ないでいてくれたらいい」
「それくらいだったら問題ありません」

フレデリックがミカエラの手を優しく取る。

「では決まりだ」
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