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42.告白

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大量の折形と魔力を使い、戦場でのケガ人を見て強いショックを受けたのか顔色を無くしていたミカエラは昏倒してしまった。
3日間眠り続けるミカエラに下した医師の判断は”疲れが溜まっただけ”とのことで、目が覚めたら滋養の高いものも含め少しずつ与えるよう言い含めただけだった。
領地に安寧をもたらした予想外の結果にオーボンヌ伯爵は喜び、ミカエラの養生を申し出て4人を丁重に扱った。

「! お嬢様、目が覚めましたか?」
「…? わ…」

声がかすれて上手く話せないミカエラを察し、アネッサが上体を起こして水を軽く含ませる。

「少しずつお飲みくださいね」
「ん…ありがとう。私…どうしたの?」
「魔力の使い過ぎや精神的ショックで寝込んだんですよ。度重なる疲れもあるでしょうしね。しばらくは安静にしていてくださいね」

滋養が高いという果物のスープをアネッサから与えられ、ミカエラは再び横たえられる。
ふと、ふんだんなフリルやプリーツが使われた袖口に気付く。

「…私、こんな夜着持ってきてたかな…」
「伯爵のご令嬢のおさがりですよ。服は流行りを過ぎているけれど好きなだけ持って行っていいそうです。お嬢様の服、いくつかダメになってしまってますから有難く頂戴することにしました」

外にいて埃まみれだった身体も髪も綺麗に拭われている。意識がないうちに風呂場で身体を磨かれたようだ。

「若様にお知らせしてきますね」

アネッサが使用済みの食器を掴みながら部屋を下がると、数分後に慌ただしい足音が近付いてきた。
…と、足音とは正反対に静かにノックする音が聞こえる。

「ミカエラ、私だ。入っても良いだろうか」
「日義兄様、どうぞ」

フレデリックが入室し、入り口付近でヤルマールが立ち止まる。
フレデリックはミカエラが横になっているベッドの脇に来ると膝をつき、許しを請うように彼女の手を額に押し付ける。

「ミカエラ…すまなかった」
「どうして日義兄様が謝るのでしょう?」
「君が色々出来るからと無理をさせてしまった…旅と救済の連続で疲れ切っていたのに」
「私がやると言い出したのです。日義兄様は何も悪くないですよ? …1年しかないから私が結果を急ぎすぎたのです」

そうだ。フレデリックはミカエラがやりたがることを尊重しただけだ。
自分の手を包み込むフレデリックの手に空いている手を重ねる。

「でももっと君の体調に気を配るべきだった。ミカエラが徒歩で伯爵のタウンハウスを訪ねるくらい健脚だとしても、我々のように幼いころから訓練しているわけではなかったのだから…」

ミカエラは懺悔するフレデリックに戸惑い、ヤルマールに顔を向けるが、ヤルマールは首を振るだけだ。

「ミカエラももっと私を頼ってほしい。…我々が渡り人様を救えなかったことに腹を立てているとも思うが、その分君に報いたい」
「怒ってませんし、償いを求めているわけでもありません」

もう一度チラリとヤルマールの方を見るとアネッサが現れ、ホッとしたのも束の間、物音も立てずにヤルマールを部屋から引きずり出し2人きりになってしまう。

(アネッサ…⁉ 未婚の男女が2人きりになるのってタブーだとお義母様に教わったのに…)

「私も贖いのために言っているわけじゃないんだ」

フレデリックがようやく顔を上げる。指の先に金の髪が零れる。
美神の愛し子のような美しい顔…その目が熱情に揺れている。
高貴なご婦人方では失神しそうな色気だ。
幸いその辺が鈍いミカエラは少し心臓が跳ねただけだ。
…少し泣きそうな表情に見えたから。

「君が倒れた時、途轍もない恐怖に襲われた…。どうかもう無理はしないで…。ミカエラにはずっと笑っていてほしいし、その隣は自分でありたいんだ」

ミカエラの心の中からぷくぷくと泡が立ち、パチンと弾けた。
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