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37.オーボンヌ領

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結果的に一行は魔獣の襲撃に遭うことなくオーボンヌ領に到着した。
襲撃が全くなかったわけではないが、小動物が大型化している程度だったのでアネッサとヤルマールが大事になる前に片付けていた。
そして領地に入ってからは領主館まで早駆けしたのだ。

「お初にお目にかかります。ラエドニア国のランシア伯爵が嫡子フレデリック・ランシアと申します」

旅装だが見とれてしまうような所作とあいさつをする。
正装ではないが、貴族だということはすぐ相手に伝わるだろう。

「いや、出迎えられず申し訳ない。傭兵を騙る者たちも出ているから警戒を強めていてね…」

4人を屋敷に迎え入れ、応接室に通されたフレデリックに弁解したオーボンヌ伯爵は目の下のクマが濃く残っている。対策を講じ、その進捗を聞き…と言ったことを通常業務とと並行して行っているため、寝ている暇がないのだろう。
客人の相手も億劫になっているのかもしれない。

「旧知のシグヘイム子爵より書簡をお預かりしましたので、ご確認ください」

オーボンヌ伯爵はカサついた手で受け取り、中身を読み始めると次第に眉間に寄ったジワを深くしていく。

「4人だけ…⁉ 貴方が連れていた子供も参戦すると書いてあるぞ?」
「背は少し低いですが子供ではありませんよ。彼女は召喚士なので、後方から支援が出来るのです。
「ああ…魔法が使えるということか」

前に出ないということ、魔法が使えるということはオーボンヌ伯爵をひどく安心させた。

「使用人風の2人も両親がつけた護衛です。1人で数人分の働きはお約束できます。それと少女の方ですが…もしスタンピートを抑えることが出来たら喧伝をお願いしたいのです」
「喧伝? そんなもので良いのか?」
「ええ、彼女の母親がラエドニア国に現れた渡り人様の遺児であることも含め、彼女の活躍ぶりを言いまわってほしいのです」
「それは問題ないが…」

”サンドレア国王が取り込もうとするかもしれないぞ”とオーボンヌ伯爵は言いたかったのだろう。どこの国も荒れるとそばに英雄を置きたがる。サンドレア国の王族に目を付けられるのは痛いが、ラエドニア国が独占しようとすることを阻むため、他国の大きな権力に興味を持ってもらわねばならない。

「今どの辺まで攻略できているのですか?」
「ああ…最近スポーン地点が発見出来た。領地の境目で西方に連なる山脈の麓に露天鉱床のような地下への入口があり、そこから大型の魔獣が沸いていることが判明した。地下に何組かが探索に出ているが、体の大きな魔獣が行く手を塞いでいるので思うように進まないらしい」
「その地下の最下層にスタンピードの”核”があるとお思いなのですね」
「でないと説明がつかない」

フレデリックは明日領館を立ち地下への入口を目指すことをオーボンヌ伯爵に伝え、客室に向かい3人に伯爵とのやり取りを話す。

「休む間があまり取れずに悪いが、魔獣が無尽蔵に生まれてくる状態を早く止めないと、傭兵や伯爵の私兵が消耗されてしまうからね」

ミカエラは正論だと思ったので首だけコクコクしながら折形を作る手を止めない。

「湯を貰えることになったから、旅の汚れを落として体を温めて早めに休んで明日に供えてほしい」
「「「はい」」」
「…それがミカエラの兵隊?」
「はい」
「ローに渡していたのと同じ? コレマンアブラバチ…だっけ?」
「これは違うハチにします」
「違うハチ…」

同じ折形でもミカエラが具現化の際に念じれば大きさや種類を変えられるのだ。例えば蝶の折形を強い毒を持つジャコウアゲハに変えたり、擬態が得意なコノハチョウに変えたり…。

フレデリックはかつてバケツ並みに大きくしたコップをマガタ国で見ているはずなのに、ピンとはきていなかった。
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