33 / 54
32.シーサーペントVSモササウルス
しおりを挟む
モササウルス…白亜紀後期に存在した海中の頂点捕食者で、体長は13~20メートル。爬虫類により近い生物。ちなみに海にいた首長竜魚竜等も恐竜ではなく、水生爬虫類になる。
「渡り人様の世界にはこんなものがいるのか…」
シーサーペントの大きさは巨大化していてもモササウルスの半分程度だ。
※シーサーペントの体調は6~12メートルと言われている。
自然界では体の大きさが強者になることが多い。
敵を見て分が悪いと思って逃げ出すシーサーペントを、モササウルスは俊敏に追い駆け、その鋭い牙が並ぶワニのように長い口を広げて骨ごと嚙み砕いていく。
海面が赤く染まり、シーサーペントが断末魔を上げるまで、それほど時間はかからなかった。
船上にいた人たちは訳が分からず、次はあの怪物に人間が襲われるのではないかと恐慌をきたしていたが、気づけば海上は凪いでいて、シーサーペントを食らっていた怪物も姿を消していた。
「…助かりましたね…」
ヤルマールがポツリと呟く。
「ミカエラすごいじゃないか! 驚いたよ…あの大型のシーサーペントが尻尾撒いて逃げようとするなんて!」
「…私も驚きました…。あの折形があんな巨大な生き物だったなんて…」
ミカエラは母から海の魔獣と戦う時の最終兵器として教えてもらったものだ。
しかし実物を知らないのでピンとは来なかった。
しかも母に教えてもらって作ったものの見たことも聞いたことも無い…そういった折形はまだいくつかある。
「失礼ですが…今のはそちらのお嬢さんの魔法ですか…?」
上品な身なりの紳士が声をかけてくる。
周囲では心配そうに様子を見守る乗客の姿が見える。
「ええ、彼女は魔法の使い手なのです。私がサンドレア国に赴くにあたり、彼女を雇ったのです」
「ああ…サンドレアは最近物騒だからねぇ…。なるほど、小さな護衛だったのか」
すらっと出た作り話だが、”雇用関係にあり、現在雇用主が近くにいる”と示しておけばミカエラにちょっかいは出してこないだろう というフレデリックの思惑が絡んでいる。
フレデリックはミカエラの肩を抱く。
「おかげで助かりました。ありがとうございます。…私はリンツ国に居を構えるエリシル・ノルドールと言います。リンツ国にいらっしゃる際には是非遊びに来てください」
紳士はフレデリックの牽制を気にすることもなく頭を下げ立ち去ると、続けざまに複数の人たちから感謝された。
船が揺れた際に転倒してケガをした乗客は数人いたが大きなケガはなく、船体も傷みがないため、その後は問題なく航行した。
「お嬢様、前線に立てますから後方支援でなくても良いのでは?」
「でも魔獣に接敵されたら私の剣の腕では敵わないわ」
「お傍はこのアネッサがお守りしますよ!」
ミカエラにスタンピートに対抗できる戦力があるとこが判明し、討伐隊に参戦して欲しいアネッサとヤルマールが現在説得に当たっている。
ミカエラは返事をしながら先ほど消費した折形をストックするために折っていた。
これは折り上げるのに30分ほど掛かるので乗船時間を利用するのが丁度良い。サンドレア国の状況が分からないから他も色々多めに作っておきたい。
「これが先ほどシーサーペントを撃退した生物?」
フレデリックがミカエラの船室に入ってきた。
フレデリックは船長から「魔法使いに哨戒をしてほしい」と依頼されたことに対し「探知機の魔道具が反応しないと動けないんですよね?」と丁重にお断りして戻ってきたところだ。
「はい」
「けっこう細かく折り込むのだね…。この労力を考えると安易には使いにくいな」
「ですが若様…お嬢様の魔法があればサンドレアの被害を最小限に抑えられるかもしれませんよ?」
「我々はシグヘイム子爵の元に行く。子爵が私兵を動かすか、救援物資を送るか…それ次第だ。外国人がしゃしゃり出ても良くは思われないだろうしな」
「・・・・・・」
使用人風の2人がシュンとする。
一応他者のテリトリーだから勝手に動けないのは理解しているだが…。
「子爵様はどんな方です?」
ミカエラがフレデリックに訊ねる。
フレデリックがサンドレア国のこと、シグヘイム子爵のことを語っていると、部屋に長く赤い光が差し込む。
太陽が海の果てへと沈んでいくところだ。
アネッサが部屋のカンテラに灯りを入れる。
「今日はお疲れ。ゆっくり休んで」
フレデリックはミカエラの額にキスをすると、ヤルマールを連れて退室していく。
フレデリックたちを見送ってから、アネッサは照れて薄っすら顔を赤らめるミカエラに質問する。
「…お嬢様、若様のことはどう思っておいでです?」
「日義兄様のこと?」
ミカエラは当てはまる言葉を探すように少し考える。
「日義兄様はお日様…う~ん…陽だまりみたい。…おやすみのキスとかもらうと心にこう…ランタンの灯が燈るような感じがするの」
アネッサは内心したり顔を、外面的にはにっこりと笑みを浮かべた。
「私もヤルマールも…旦那様も奥様だってそのランタンの灯りが大きくなって、ずうっと伯爵領にいて下さることを望んでますよ。ゆっくりでいいから、その灯りを育てて下さいね」
「育てる…? どうやるの?」
全くの脈ナシではないことが分かり、アネッサはマクレガー伯爵に良い報告が出来そうだとほくそ笑んだ。
この遊学中にフレデリックには発破を掛け、恋情に疎いミカエラには助力を惜しまず後押ししようとアネッサは心に決めた。
「渡り人様の世界にはこんなものがいるのか…」
シーサーペントの大きさは巨大化していてもモササウルスの半分程度だ。
※シーサーペントの体調は6~12メートルと言われている。
自然界では体の大きさが強者になることが多い。
敵を見て分が悪いと思って逃げ出すシーサーペントを、モササウルスは俊敏に追い駆け、その鋭い牙が並ぶワニのように長い口を広げて骨ごと嚙み砕いていく。
海面が赤く染まり、シーサーペントが断末魔を上げるまで、それほど時間はかからなかった。
船上にいた人たちは訳が分からず、次はあの怪物に人間が襲われるのではないかと恐慌をきたしていたが、気づけば海上は凪いでいて、シーサーペントを食らっていた怪物も姿を消していた。
「…助かりましたね…」
ヤルマールがポツリと呟く。
「ミカエラすごいじゃないか! 驚いたよ…あの大型のシーサーペントが尻尾撒いて逃げようとするなんて!」
「…私も驚きました…。あの折形があんな巨大な生き物だったなんて…」
ミカエラは母から海の魔獣と戦う時の最終兵器として教えてもらったものだ。
しかし実物を知らないのでピンとは来なかった。
しかも母に教えてもらって作ったものの見たことも聞いたことも無い…そういった折形はまだいくつかある。
「失礼ですが…今のはそちらのお嬢さんの魔法ですか…?」
上品な身なりの紳士が声をかけてくる。
周囲では心配そうに様子を見守る乗客の姿が見える。
「ええ、彼女は魔法の使い手なのです。私がサンドレア国に赴くにあたり、彼女を雇ったのです」
「ああ…サンドレアは最近物騒だからねぇ…。なるほど、小さな護衛だったのか」
すらっと出た作り話だが、”雇用関係にあり、現在雇用主が近くにいる”と示しておけばミカエラにちょっかいは出してこないだろう というフレデリックの思惑が絡んでいる。
フレデリックはミカエラの肩を抱く。
「おかげで助かりました。ありがとうございます。…私はリンツ国に居を構えるエリシル・ノルドールと言います。リンツ国にいらっしゃる際には是非遊びに来てください」
紳士はフレデリックの牽制を気にすることもなく頭を下げ立ち去ると、続けざまに複数の人たちから感謝された。
船が揺れた際に転倒してケガをした乗客は数人いたが大きなケガはなく、船体も傷みがないため、その後は問題なく航行した。
「お嬢様、前線に立てますから後方支援でなくても良いのでは?」
「でも魔獣に接敵されたら私の剣の腕では敵わないわ」
「お傍はこのアネッサがお守りしますよ!」
ミカエラにスタンピートに対抗できる戦力があるとこが判明し、討伐隊に参戦して欲しいアネッサとヤルマールが現在説得に当たっている。
ミカエラは返事をしながら先ほど消費した折形をストックするために折っていた。
これは折り上げるのに30分ほど掛かるので乗船時間を利用するのが丁度良い。サンドレア国の状況が分からないから他も色々多めに作っておきたい。
「これが先ほどシーサーペントを撃退した生物?」
フレデリックがミカエラの船室に入ってきた。
フレデリックは船長から「魔法使いに哨戒をしてほしい」と依頼されたことに対し「探知機の魔道具が反応しないと動けないんですよね?」と丁重にお断りして戻ってきたところだ。
「はい」
「けっこう細かく折り込むのだね…。この労力を考えると安易には使いにくいな」
「ですが若様…お嬢様の魔法があればサンドレアの被害を最小限に抑えられるかもしれませんよ?」
「我々はシグヘイム子爵の元に行く。子爵が私兵を動かすか、救援物資を送るか…それ次第だ。外国人がしゃしゃり出ても良くは思われないだろうしな」
「・・・・・・」
使用人風の2人がシュンとする。
一応他者のテリトリーだから勝手に動けないのは理解しているだが…。
「子爵様はどんな方です?」
ミカエラがフレデリックに訊ねる。
フレデリックがサンドレア国のこと、シグヘイム子爵のことを語っていると、部屋に長く赤い光が差し込む。
太陽が海の果てへと沈んでいくところだ。
アネッサが部屋のカンテラに灯りを入れる。
「今日はお疲れ。ゆっくり休んで」
フレデリックはミカエラの額にキスをすると、ヤルマールを連れて退室していく。
フレデリックたちを見送ってから、アネッサは照れて薄っすら顔を赤らめるミカエラに質問する。
「…お嬢様、若様のことはどう思っておいでです?」
「日義兄様のこと?」
ミカエラは当てはまる言葉を探すように少し考える。
「日義兄様はお日様…う~ん…陽だまりみたい。…おやすみのキスとかもらうと心にこう…ランタンの灯が燈るような感じがするの」
アネッサは内心したり顔を、外面的にはにっこりと笑みを浮かべた。
「私もヤルマールも…旦那様も奥様だってそのランタンの灯りが大きくなって、ずうっと伯爵領にいて下さることを望んでますよ。ゆっくりでいいから、その灯りを育てて下さいね」
「育てる…? どうやるの?」
全くの脈ナシではないことが分かり、アネッサはマクレガー伯爵に良い報告が出来そうだとほくそ笑んだ。
この遊学中にフレデリックには発破を掛け、恋情に疎いミカエラには助力を惜しまず後押ししようとアネッサは心に決めた。
0
お気に入りに追加
59
あなたにおすすめの小説
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。
秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚
13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。
歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。
そしてエリーゼは大人へと成長していく。
※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。
小説家になろう様にも掲載しています。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
もう死んでしまった私へ
ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。
幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか?
今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!!
ゆるゆる設定です。
最愛の側妃だけを愛する旦那様、あなたの愛は要りません
abang
恋愛
私の旦那様は七人の側妃を持つ、巷でも噂の好色王。
後宮はいつでも女の戦いが絶えない。
安心して眠ることもできない後宮に、他の妃の所にばかり通う皇帝である夫。
「どうして、この人を愛していたのかしら?」
ずっと静観していた皇后の心は冷めてしまいう。
それなのに皇帝は急に皇后に興味を向けて……!?
「あの人に興味はありません。勝手になさい!」
旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます
結城芙由奈
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】
ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。
悪妃の愛娘
りーさん
恋愛
私の名前はリリー。五歳のかわいい盛りの王女である。私は、前世の記憶を持っていて、父子家庭で育ったからか、母親には特別な思いがあった。
その心残りからか、転生を果たした私は、母親の王妃にそれはもう可愛がられている。
そんなある日、そんな母が父である国王に怒鳴られていて、泣いているのを見たときに、私は誓った。私がお母さまを幸せにして見せると!
いろいろ調べてみると、母親が悪妃と呼ばれていたり、腹違いの弟妹がひどい扱いを受けていたりと、お城は問題だらけ!
こうなったら、私が全部解決してみせるといろいろやっていたら、なんでか父親に構われだした。
あんたなんてどうでもいいからほっといてくれ!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる