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31.大海獣

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フレデリックは船長室へ行き、海洋性の魔獣が近付いている話を舵を切るように言う。
しかしけんもほろろと言った返ししかない。

「この船にも探知用の魔道具はついているんですよ? それが反応無いうちは何とも出来んのです」

海のことは自分たちの方が詳しいのだから―と、テコでも動かない彼らを当てにはできないと線長室を出てデッキへと上がる。

「ダメだったよ。探知機に反応が無いから虚言だと思われている」
「すみません、義兄様にそんな…」
「私のことはいい。回避ができないなら対決する方向で考えないとな」

フレデリックはミカエラに笑いかける。実際後継者として何かを始めると、若さや未熟さを理由に最初は相手にされないことが多いので慣れっこだ。最終的に相手がフレデリックを侮っている間にやり返すことも多いのだが。

「そうですね…」

まだ探知機の範囲外にいる魔獣は大型の為、探知機で捉えてから舵を切ったのでは間に合わず船と衝突してしまう。
折形には通常の魔法で使う”バリア”のような便利なものはない。

にわかにデッキ下で怒号が飛び交い、マストにある見張り台の船員も叫び出す。
魔獣が見えたのだろう。
状況を知った乗客たちも、悲鳴を上げ船室に籠ったり、逆に看板に出て様子を窺ったりしている。

「シーサーペントか…」
「随分と大きいですね…これもスタンピートの影響でしょうか…?」

10メートルはあるであろう巨大な魔獣によって波が立ち、船が大きく揺れ始める。
フレデリックがミカエラを支えようとするがその腕をすり抜ける。

「アネッサ、私を船首の方へ連れて行ってくれる?」
「…分かりました。若様、お嬢様のことは私が必ず守りますから」
「ミカエラ!」

アネッサはミカエラを抱えて走り出す。

「私が折形を投げたらすぐ義兄様のところまで下がってちょうだい」
「言われなくともそうします」

船首にまで来るとミカエラは手に持っていた折形を宙に放った。
そこまで確認したアネッサは急ぎメインマスト付近を目指す。
すると突如船首の方に大きな水柱が上がり船がかしいだ。
アネッサがバランスを崩してしまうが、フレデリックが腕を伸ばし、ミカエラを抱き留める。

「大丈夫か? ミカエラ」
「あ…はい。アネッサと日義兄様が守ってくれたから…。アネッサありがとう。義兄様もありがとうございます」
「いえ、体制を崩してしまい申し訳ありません」

フレデリックは腕の力を強めただけで何も言わなかった。
水柱が跳ね上げた水飛沫がデッキを濡らしていく。
同時に今までに聞いたことが無いような大きな咆哮が轟いた。

「何が…」

フレデリックは驚いて音のする方向へ目を向ける。だがバウスプリットとその奥のシーサーペントの背らしきものしか見えない。
まだ空気が振動でビリビリと震えているような錯覚を覚える。

「シーサーペントの声ではないですよね…」

ヤルマールが2人を庇うように前へ出る。

「ミカエラ、何の折形を使ったの?」
「…分からないです」
「分からない?」
「お母さんは『モササウルス』って言ってました。海にいた生き物だって。でもそんな生き物見たことないですよね…?」
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