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29.ローヴァンの役割

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これは伯爵たちが王都に向かう少し前のこと。

「春になったらこの折形を投げて下さい」

隣国へ赴くことになったミカエラからローヴァンに託されたのは数枚の折形。
何となく虫の形をしている。



「ムギクビレアブラムシを食べてくれるコレマンアブラバチです」
「ああ、領地に来た時言っていた麦害の解決策だね。…この数枚で足りるかな?」
「巣を作ればどんどん増えていくと思いますよ」

寄生蜂の話をしているのにミカエラはいい笑顔だ。

「酢や重曹を撒くように郷士やタウンハウスの管理人には言ってあるから、並行して進めていくよ」

ローヴァンはふと沸いた疑問を口にした。

「…そう言えば『扉』の時も思ったけれど、ミカエラの魔法って折形を貰えれば他人も使えるんだ?」
「母は使えませんでした。おそらく使用者の魔力の有無と…私の使用許可がいると思います」

ローヴァンは安堵した。折形を盗んだ者が好き勝手使えたりはしないのだ。

「安心したよ。悪用はされないんだな。…でも誰もが使えるようなら売ることも出来るのか…? あ、完全依頼制で調剤みたいにすれば…」
「老後はそうやってお店を構えて生計を立てるのもいいですね」

ミカエラがふわりと微笑む。

「その前に他国で暴れてきます」

この数日でミカエラの瞳に強い光が宿るようになった。
ランシア家に守られるだけでなく、自分がそのために何をすべきか考え行動し始める。
この国では王族が目を光らせているため、他国で動き回ることを計画。
周辺の国々をフレデリックの遊学を理由に回り、交易などで付き合いある領主の困りごとを解決できるようなら手伝い、”渡り人の知恵”を惜しげなく振る舞っていく予定だ。

かつての宰相は他国に知られないよう秘匿しようとした。
前王は国内にはお披露目をし、有力貴族に目を付けられた。
ミカエラはいっそのこと広く知らしめて、この国の王族が独占しようものなら他国に反発される状況を作ってしまおうと考えた。

フレデリックやマクレガー伯爵は、要人が動くような規模にはなりにくいだろうが取引先に恩を売っておくのも悪くないと賛同した。
ジュリエッタ夫人は火種になるのではないか、ミカエラが悪徳領主に捕らわれ搾取されるのではないかと否定的であった。
ローヴァンは遊学の後はどうするのかと訊いた。
ミカエラは「辺境警備員になろうと思います。ひっそりと辺境を守るんです」と答えたのでローヴァンはにっこり笑って「行っておいで。色んな経験をしてくるといい」と賛同の言葉を掛けたのだった。

「色々なことを見聞して、月義兄様にお話しできるようにします」
「僕は君たちが無事に戻ってきてくれればそれで良いのだけれどね」

ランシア家に来た頃は儚げだった表情も、今は明るく輝くようだ。”月義兄様のおかげです”と言われれば悪い気はしない。

「道中気を付けて」
「月義兄様もどうぞお健やかに」

他国で目立つ行動をとると辺境警備になることは難しいかもしれないが、それでも変わらずローヴァンの近くに在ることを望んでくれた。
心が軋むような寂しさはあるけれど。
それで十分だった。
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