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28.マナシ男爵領
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マナシ男爵領の救援を受けた治療師は疲労困憊であった。
一度治療を受けて改善しても再発してしまう患者で溢れているからだ。終わりの見えない泥沼にいるような気持ちでいたところ、隣国の伯爵領から支援が届いた。
少女はろ過機に入れ煮沸した水とは別に、綺麗な水を用意し補液を作り患者に水分を取らせる。
伯爵の嫡子は生水・生食の禁止、治療院の清掃、シーツやテントの焼却を指示し、真新しい布が敷き直された。
少し経つと再発するものが目に見えて減り、体力のある者から回復し始めたのだ。
「”水”が悪かったから何度治療してもまた病に罹ってしまっていたのですね…」
一月後、治療師の代表者・ヒバカラは領主の館の応接室にいた。
そこには回復したマナシ男爵と、支援に来た2人が座っている。
「この男爵領のはるか上流で、鉄砲水が出たそうだ。…その際にこの川の水が汚染されたのだろうな」
やつれてしまっているがしっかりした口調でダビド・マナシ男爵は推測を述べた。
「では男爵領以外の…問題の川が通る領地を中心に流行病が蔓延しているのですか?」
「そうだと思います。実際我ら治療師に派遣の依頼があったのはこの川近辺に領地を持つマナシ男爵、ミトラ子爵、ヴァルナ子爵ですから」
「ランシア家のご子息、ここで貴方方が行った対策を子爵家にも伝えても良いだろうか?」
「勿論ですよ、マナシ男爵…」
その時、ミカエラがフレデリックの袖を引いた。
「どうした?」
「鉄砲水が出た箇所の治水工事をして根本的な水質改善をした方が良いでしょう。災害があった地域の領主が予算的に難しいようなら国に投げても良いと思います。流行病は国にも大打撃でしょうから、率先的に動いてくれると思います」
ヒバカラとマナシ男爵は目を瞠った。
何故フレデリックが退屈だと思われる今後の話し合いに小さな少女を同席させたのかが明らかになった瞬間だった。
「フフ…実はこの病の対応も彼女、ミカエラの案なのです。でも見知らぬ彼女が助言をしても誰も耳を傾けないでしょう? なので伯爵家嫡子の私が代弁者になっているのですよ」
2人はもう一度、ミカエラを凝視した。
❖❖❖
ミカエラは屋敷の通路の窓から外を見た。
元気になったものはろ過した水を沸かし、衣類を煮沸消毒しているのだろう。指示を出す声や干すために広げた布が見える。
治療師たちもようやく患者の回復の目途が立ち、心なしか彼らの表情が明るい。
昨日はミカエラも麦粥を配給するんを手伝ったりした。粥などに使う飲用、食用の水はミカエラの折形「コップ(特大)」で出している真水なので一先ず経口感染は防ぐことが出来ている。
死者も出たし、領地が元の状態に戻るにはまだまだかかる。まずは大元の工事と水質改善が必要だ。
(とりあえず、流行病は抑えられそう…。ごめんね、お母さん)
母にはなるべく目立たないよう教えられてきた。なのでランシア家の人たちに流されることを甘んじて受けたりもしてきた。
『貴女を利用しようとする人はきっと貴女から幸せを奪うわ。そんな人が現れたらこれを使って逃げなさい』
自分が作った魔力の紙に、母が読めない文字で書きつけ折られた折形が1枚だけある。
ミカエラはポーチの外からそっと手を置いた。
(月義兄様の言葉が心に落ちたの。押しも押されもせぬ地位を固めて、私のお母さんは素晴らしい人だったんだって皆に認めてもらうの)
後ろから靴音が近付き、ミカエラの肩をそっと抱く。
「ミカエラ、そろそろ行こうか」
「はい、日義兄様」
マナシ男爵の領民に惜しまれながら、フレデリックとミカエラは別の街へと向かった。
一度治療を受けて改善しても再発してしまう患者で溢れているからだ。終わりの見えない泥沼にいるような気持ちでいたところ、隣国の伯爵領から支援が届いた。
少女はろ過機に入れ煮沸した水とは別に、綺麗な水を用意し補液を作り患者に水分を取らせる。
伯爵の嫡子は生水・生食の禁止、治療院の清掃、シーツやテントの焼却を指示し、真新しい布が敷き直された。
少し経つと再発するものが目に見えて減り、体力のある者から回復し始めたのだ。
「”水”が悪かったから何度治療してもまた病に罹ってしまっていたのですね…」
一月後、治療師の代表者・ヒバカラは領主の館の応接室にいた。
そこには回復したマナシ男爵と、支援に来た2人が座っている。
「この男爵領のはるか上流で、鉄砲水が出たそうだ。…その際にこの川の水が汚染されたのだろうな」
やつれてしまっているがしっかりした口調でダビド・マナシ男爵は推測を述べた。
「では男爵領以外の…問題の川が通る領地を中心に流行病が蔓延しているのですか?」
「そうだと思います。実際我ら治療師に派遣の依頼があったのはこの川近辺に領地を持つマナシ男爵、ミトラ子爵、ヴァルナ子爵ですから」
「ランシア家のご子息、ここで貴方方が行った対策を子爵家にも伝えても良いだろうか?」
「勿論ですよ、マナシ男爵…」
その時、ミカエラがフレデリックの袖を引いた。
「どうした?」
「鉄砲水が出た箇所の治水工事をして根本的な水質改善をした方が良いでしょう。災害があった地域の領主が予算的に難しいようなら国に投げても良いと思います。流行病は国にも大打撃でしょうから、率先的に動いてくれると思います」
ヒバカラとマナシ男爵は目を瞠った。
何故フレデリックが退屈だと思われる今後の話し合いに小さな少女を同席させたのかが明らかになった瞬間だった。
「フフ…実はこの病の対応も彼女、ミカエラの案なのです。でも見知らぬ彼女が助言をしても誰も耳を傾けないでしょう? なので伯爵家嫡子の私が代弁者になっているのですよ」
2人はもう一度、ミカエラを凝視した。
❖❖❖
ミカエラは屋敷の通路の窓から外を見た。
元気になったものはろ過した水を沸かし、衣類を煮沸消毒しているのだろう。指示を出す声や干すために広げた布が見える。
治療師たちもようやく患者の回復の目途が立ち、心なしか彼らの表情が明るい。
昨日はミカエラも麦粥を配給するんを手伝ったりした。粥などに使う飲用、食用の水はミカエラの折形「コップ(特大)」で出している真水なので一先ず経口感染は防ぐことが出来ている。
死者も出たし、領地が元の状態に戻るにはまだまだかかる。まずは大元の工事と水質改善が必要だ。
(とりあえず、流行病は抑えられそう…。ごめんね、お母さん)
母にはなるべく目立たないよう教えられてきた。なのでランシア家の人たちに流されることを甘んじて受けたりもしてきた。
『貴女を利用しようとする人はきっと貴女から幸せを奪うわ。そんな人が現れたらこれを使って逃げなさい』
自分が作った魔力の紙に、母が読めない文字で書きつけ折られた折形が1枚だけある。
ミカエラはポーチの外からそっと手を置いた。
(月義兄様の言葉が心に落ちたの。押しも押されもせぬ地位を固めて、私のお母さんは素晴らしい人だったんだって皆に認めてもらうの)
後ろから靴音が近付き、ミカエラの肩をそっと抱く。
「ミカエラ、そろそろ行こうか」
「はい、日義兄様」
マナシ男爵の領民に惜しまれながら、フレデリックとミカエラは別の街へと向かった。
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