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27.流行病
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ミカエラが流行病について耳に入れたのは偶然だった。
マクレガー伯爵が、よく交易している隣国のマナシ男爵家の領民に流行病の被害が出始めていることをこぼしたのだ。
「どんな症状ですか?」
「下痢が続き、ひどく衰弱してしまうと聞いたが…。ミカエラ、何か分かるかい?」
「それだけですと何とも言えないのですが、飲み水や食料の汚染でしょうか…。それと母が言うには清潔にすることで大分改善出来る場合もあるのだそうです。不衛生の場合、汚れやゴミが病の素の住処になっていることがあると…」
ミカエラは小さな拳を握りしめた。
「お義父様はその方々をお救いしたいのですよね…? 私を行かせて下さい。私は病気の予防法が分かるので流行病に侵されにくいですし、皆さんの状態を多少は改善出来ると思います」
「だめよ! 危険だわ」
ジュリエッタ夫人は間髪入れず反対する。
マクレガー伯爵はしばらく押し黙っていたが、やがて重々しく口を開く。
「確かに危険を伴う。…しかし食糧危機を救ってくれたマナシ男爵の恩にも報いたい。そしてそれが成せるのはミカエラである可能性は高い」
「私が父上の名代として行きましょう」
声を上げたのはフレデリックだ。
「フレッド! 貴方まで…」
「母上、どちらにせよミカエラを単独で行かせることは出来ないでしょう? …ミカエラの知識で私のことも守ってもらえると思うし」
「お守りします!」
ミカエラはジュリエッタ夫人を安心させるよう力強く頷く。
「他領の支援を申し出るのなら父上か私が行かなければなりません。それに私が行くことで良いめくらましになるでしょう?」
”視察の形を取って渡り人様の御子を探している王子達に対して”
「…確かにな。そのまま遊学させてしまうのも手かもしれん。」
王家がここまであからさまな手を使ってきたのだから、シーズンともなるともっと積極的にミカエラを取り込もうとするかもしれない。
「大変だと思うけれどお願いできるかい? …フレデリックのことも頼むよ」
「はい」
ローヴァンはこの様子を静観していた。
男爵領に行くなら確かに父か兄が行くのが普通だ。そしてその2人の肩書ならミカエラを目立たなく出来る。
自分には出来ないことだ。
心の中に寂寞とした風が吹いた気がした。
それからミカエラの指示で清潔な布、酒精、塩、果汁、重曹、小枝や大小さまざまな石を並べて詰めた簡易ろ過機などを荷馬車に積んでいく。
「彼らが使用していたシーツや衣類は焼くことになると思います。火と水は…折形をたくさん作っていかないと…」
「いや。安価な火の魔力を込めた魔石を持っていこう。効率よく燃やすためにローに風の魔石を作ってもらうから、調達が難しい水だけお願いできるかな?」
1回限りの小さな炎を生み出す魔石は、炊事などの焚きつけ用に広く出回っている。攻撃用の大きな炎を生むような魔石は王都の専門店のみの扱いで、かなりの高額で売られているが。
「そう言えば、私が気を付けることは何だい?」
「お腹を壊すような病は水が原因の場合が多いのです。生水、魚や生食はしてはいけません。診療所のモノや患者に触れたら真水と酒精で手洗いを」
「そこまで徹底するのか…。分かった、なるべく物には触らないようにする」
「はい。病の素は目に見えないからなるべく手につかないようにする方が良いです。それと念のため口に覆いをしてもらいます」
人死にが出ているのだ。ものものしくもなるだろう。
(あと必要なものはなんだったろう…? お母さんがいてくれたら…)
自分がやり遂げられるか不安に思いながらも、母に教えてもらったことを思い出しながら着々と準備を進めた。
マクレガー伯爵が、よく交易している隣国のマナシ男爵家の領民に流行病の被害が出始めていることをこぼしたのだ。
「どんな症状ですか?」
「下痢が続き、ひどく衰弱してしまうと聞いたが…。ミカエラ、何か分かるかい?」
「それだけですと何とも言えないのですが、飲み水や食料の汚染でしょうか…。それと母が言うには清潔にすることで大分改善出来る場合もあるのだそうです。不衛生の場合、汚れやゴミが病の素の住処になっていることがあると…」
ミカエラは小さな拳を握りしめた。
「お義父様はその方々をお救いしたいのですよね…? 私を行かせて下さい。私は病気の予防法が分かるので流行病に侵されにくいですし、皆さんの状態を多少は改善出来ると思います」
「だめよ! 危険だわ」
ジュリエッタ夫人は間髪入れず反対する。
マクレガー伯爵はしばらく押し黙っていたが、やがて重々しく口を開く。
「確かに危険を伴う。…しかし食糧危機を救ってくれたマナシ男爵の恩にも報いたい。そしてそれが成せるのはミカエラである可能性は高い」
「私が父上の名代として行きましょう」
声を上げたのはフレデリックだ。
「フレッド! 貴方まで…」
「母上、どちらにせよミカエラを単独で行かせることは出来ないでしょう? …ミカエラの知識で私のことも守ってもらえると思うし」
「お守りします!」
ミカエラはジュリエッタ夫人を安心させるよう力強く頷く。
「他領の支援を申し出るのなら父上か私が行かなければなりません。それに私が行くことで良いめくらましになるでしょう?」
”視察の形を取って渡り人様の御子を探している王子達に対して”
「…確かにな。そのまま遊学させてしまうのも手かもしれん。」
王家がここまであからさまな手を使ってきたのだから、シーズンともなるともっと積極的にミカエラを取り込もうとするかもしれない。
「大変だと思うけれどお願いできるかい? …フレデリックのことも頼むよ」
「はい」
ローヴァンはこの様子を静観していた。
男爵領に行くなら確かに父か兄が行くのが普通だ。そしてその2人の肩書ならミカエラを目立たなく出来る。
自分には出来ないことだ。
心の中に寂寞とした風が吹いた気がした。
それからミカエラの指示で清潔な布、酒精、塩、果汁、重曹、小枝や大小さまざまな石を並べて詰めた簡易ろ過機などを荷馬車に積んでいく。
「彼らが使用していたシーツや衣類は焼くことになると思います。火と水は…折形をたくさん作っていかないと…」
「いや。安価な火の魔力を込めた魔石を持っていこう。効率よく燃やすためにローに風の魔石を作ってもらうから、調達が難しい水だけお願いできるかな?」
1回限りの小さな炎を生み出す魔石は、炊事などの焚きつけ用に広く出回っている。攻撃用の大きな炎を生むような魔石は王都の専門店のみの扱いで、かなりの高額で売られているが。
「そう言えば、私が気を付けることは何だい?」
「お腹を壊すような病は水が原因の場合が多いのです。生水、魚や生食はしてはいけません。診療所のモノや患者に触れたら真水と酒精で手洗いを」
「そこまで徹底するのか…。分かった、なるべく物には触らないようにする」
「はい。病の素は目に見えないからなるべく手につかないようにする方が良いです。それと念のため口に覆いをしてもらいます」
人死にが出ているのだ。ものものしくもなるだろう。
(あと必要なものはなんだったろう…? お母さんがいてくれたら…)
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