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18.ローヴァンと買い物(前)
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「ミカエラ、服を仕立てに行かないかい?」
「つい先日お義母様からたくさんいただきました」
「あっ…うーん、そうか…」
がっくりとうなだれるローヴァンに、目を合わせるようにミカエラが覗き込む。
吸い込まれるような黒々とした瞳に思わずローヴァンは引き寄せられる。
「何故突然服なのですか?」
「先日兄上とティーサロンへ出かけたと聞いたから…。兄上と同じことをするのは芸がないし、装飾品は…先王から贈られたブレスレットもつけていないからあまり好まないかな…と。それでドレスはどうだろうかと思って…」
「ブレスレットは母のものですし、私がつけるのは少し違う気がするのです。…それに贈り物なら普段からたくさんいただいてますから…」
どんどんしょげていくローヴァンがなんだか可愛く見えてしまう。
ローヴァンの行動はフレデリックのようなミカエラの価値を見据えた打算的な部分は皆無で、単にミカエラを可愛がりたいだけのようだから。
領民の子や孤児院の子にも福祉活動をして随分慕われているようだから子供が好きなのだろう。
…ミカエラは見た目は幼いが、淑女といった年齢なのだが。
「じゃあ武器屋に行きたいです」
「武器屋?」
「私の力や身長に見合う武器を月義兄様に選んでほしいです」
「!…ああ、いいとも! まだ少し早い気はするが、数点買って戦闘スタイルに合いそうなものを決めていくのもいいかもしれない」
ローヴァンは得意分野に浮足立った。
屋敷から少し市街地に差し掛かったところで馬車を下りた。
夕刻に、伯爵家が持つ商館前に迎えにくる手はずにし、御者は馬を器用に操り、来た道を引き返していく。
ローヴァンはミカエラの手を引き、街の中心へ、そして表通りを1本外れた職人通りへと入っていく。
「…なんだか嬉しそうですね、月義兄様」
「武器屋に行きたいなんて言う令嬢は今までにいなかったからね。領民の中でも男の子はけっこう騎士に憧れている人もいるけれど」
輝くような笑みでミカエラの方を向く。
「だからミカエラと共有できることがあるのが嬉しくて」
「私も月義兄様に詳細を教えてもらえるので嬉しいです」
職人街に入っていてよかった とミカエラは思った。
この辺りは人通りも女性も圧倒的に少ない。
さきほどのローヴァンの微笑みをご婦人方が見たら卒倒者が続出するだろう。
武器屋と言った己の英断をミカエラは褒めた。
「ここだよ」
古い石造りの家屋にツンフト(職人ギルド)加盟の証であるナンバリングが振られた看板が掲げられている。
「こんにちは、親父さん」
「お、ローヴァン坊ちゃんじゃないか、久しぶり…武器屋にデート…じゃないよな? どこの嬢ちゃん引っさらってきたんだ?」
「デートだよ。…母上が孤児院から引き取った義妹になるんだ」
「はぁ…レディに合わせてさぁ…こんなムサイ所じゃなくてもっとオシャレなアクセサリー店とか花屋とか連れて行けよ。可哀相だろ?」
「レディの希望だよ。追々辺境警備に一緒に入る予定なんだ」
「そりゃまた…もの好きな。伯爵家の養女になったんだから美味しいもの食べて綺麗なもの着たらいいのに」
「付け焼刃のマナーで人前に出ても、伯爵家の醜聞になるだけですから」
ここでミカエラが割って入った。
「はじめまして。店主…さん? ミカエラと申します。…武器を見ても?」
「つい先日お義母様からたくさんいただきました」
「あっ…うーん、そうか…」
がっくりとうなだれるローヴァンに、目を合わせるようにミカエラが覗き込む。
吸い込まれるような黒々とした瞳に思わずローヴァンは引き寄せられる。
「何故突然服なのですか?」
「先日兄上とティーサロンへ出かけたと聞いたから…。兄上と同じことをするのは芸がないし、装飾品は…先王から贈られたブレスレットもつけていないからあまり好まないかな…と。それでドレスはどうだろうかと思って…」
「ブレスレットは母のものですし、私がつけるのは少し違う気がするのです。…それに贈り物なら普段からたくさんいただいてますから…」
どんどんしょげていくローヴァンがなんだか可愛く見えてしまう。
ローヴァンの行動はフレデリックのようなミカエラの価値を見据えた打算的な部分は皆無で、単にミカエラを可愛がりたいだけのようだから。
領民の子や孤児院の子にも福祉活動をして随分慕われているようだから子供が好きなのだろう。
…ミカエラは見た目は幼いが、淑女といった年齢なのだが。
「じゃあ武器屋に行きたいです」
「武器屋?」
「私の力や身長に見合う武器を月義兄様に選んでほしいです」
「!…ああ、いいとも! まだ少し早い気はするが、数点買って戦闘スタイルに合いそうなものを決めていくのもいいかもしれない」
ローヴァンは得意分野に浮足立った。
屋敷から少し市街地に差し掛かったところで馬車を下りた。
夕刻に、伯爵家が持つ商館前に迎えにくる手はずにし、御者は馬を器用に操り、来た道を引き返していく。
ローヴァンはミカエラの手を引き、街の中心へ、そして表通りを1本外れた職人通りへと入っていく。
「…なんだか嬉しそうですね、月義兄様」
「武器屋に行きたいなんて言う令嬢は今までにいなかったからね。領民の中でも男の子はけっこう騎士に憧れている人もいるけれど」
輝くような笑みでミカエラの方を向く。
「だからミカエラと共有できることがあるのが嬉しくて」
「私も月義兄様に詳細を教えてもらえるので嬉しいです」
職人街に入っていてよかった とミカエラは思った。
この辺りは人通りも女性も圧倒的に少ない。
さきほどのローヴァンの微笑みをご婦人方が見たら卒倒者が続出するだろう。
武器屋と言った己の英断をミカエラは褒めた。
「ここだよ」
古い石造りの家屋にツンフト(職人ギルド)加盟の証であるナンバリングが振られた看板が掲げられている。
「こんにちは、親父さん」
「お、ローヴァン坊ちゃんじゃないか、久しぶり…武器屋にデート…じゃないよな? どこの嬢ちゃん引っさらってきたんだ?」
「デートだよ。…母上が孤児院から引き取った義妹になるんだ」
「はぁ…レディに合わせてさぁ…こんなムサイ所じゃなくてもっとオシャレなアクセサリー店とか花屋とか連れて行けよ。可哀相だろ?」
「レディの希望だよ。追々辺境警備に一緒に入る予定なんだ」
「そりゃまた…もの好きな。伯爵家の養女になったんだから美味しいもの食べて綺麗なもの着たらいいのに」
「付け焼刃のマナーで人前に出ても、伯爵家の醜聞になるだけですから」
ここでミカエラが割って入った。
「はじめまして。店主…さん? ミカエラと申します。…武器を見ても?」
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