18 / 54
17.クリス王子
しおりを挟む
「お呼びでしょうか、陛下」
ニコラスは息子2人を自室に呼び寄せた。
嫡子・クリスヴァルト 18歳
次男・クリスライン 16歳
2人とも父王譲りの柔らかな栗毛色の髪と、王妃譲りの葡萄色の瞳を持っている。
「ここだけの話になるが、渡り人様が亡くなっていることが判明した」
「まさかリーヴェルト家が?」
「いや…病死のようだ。だが彼女等が渡り人様を王都から遠く離れた寒村へ追いやったのだから同じようなものだろうが」
ニコラスは椅子に深くもたれる。
「渡り人様に護衛騎士との間の御子がいることも判明した」
「! では早急に王都へ…」
「クリスライン、それではかつての渡り人様と同様のことが起こる。今とある貴族の元に預けているから、その間に王都での下地を作らねばならないのだ」
「…申し訳ありません。早計でした」
弟のクリスラインはやや感情的で短絡な所があり、事を急ぎすぎて仕損じるきらいがある。
「渡り人様の御子の性別は?」
「女だ」
「それは困りましたね…。女性では側近として召し上げることは出来ないし、私たちには既に婚約者がいる…不慮の事故でも起こらない限りは難しいですね」
兄のクリスヴァルトは王太子として酸いも甘いも見てきているためか、冷淡で人を駒のように考えているところがある。
どちらも御子を任せるには少々不安がある。
クリスヴァルトの統治者としての教育が冷酷さを生み、クリスライン尾臣下となるべき教育が愚直さを生んだ。
頭の痛い話だ。
「不慮の事故は『起こさない』ようにしなさい。渡り人様なら例外的に助言役を設けても良い」
「助言役では退職する可能性がありますから側妃がよいのでは」
「”渡り人様が側妃”では諸外国から不満が出るだろうな。”ウチの国なら正妃にー”と横槍を入れられるぞ」
「貴族と言うわけではないから実際の所妥当なのですがねぇ…。使用人たちの管理や外交などの技能を養っていないのだから」
「渡り人様が持つ知識の方が価値が高いからな」
その辺りは心得ているようでクリスヴァルトは黙り込む。
クリスヴァルトが元平民の渡り人様を相手するには気位が高すぎるだろう。
「耳に入れておいてほしいのはそこまでだ。クリスヴァルトは来春結婚で忙しいだろう。もう戻りなさい」
「―はい では御前を失礼いたします」
体よく追い出されたことは明らかだが、クリスヴァルトは素直に応じて退室する。
(…会ってみてからどうするのか考えればよいか。どこに匿われているのか…探らせるか)
子飼いにしている優秀な偵察を使おうと、クリスヴァルトは自分の執務室へと向かった。
その頃クリスラインは何故自分は退室を命じられないのだろうと疑問に思いながらも、その後のことが推測できていた。
深いため息とともに
「やはりクリスヴァルトでは渡り人様を粗雑に扱い兼ねんな…。ここはクリスラインかその許嫁の”ご友人”としてまずは距離を縮めてもらおう」
「しかし友人になると言っても…」
「お前はこれから複数の領地を視察する」
「は?」
「旅程等は余が整えておこう。各地の運用状況を把握・報告すればよい。いずれかの場所に渡り人様がいらっしゃるが今は不用意に近づくな。後々『気になった』『好ましい』等理由を付けて呼び寄せればよい。そのための布石だ」
「…ただ各地を訪れ様子を報告するだけで良いのですね」
「そうだ。それ以上は動くな」
「拝命いたします」
ニコラスが去るよう手で示したのでクリスラインはようやく下がった。
(領地視察…兄上は忙しいから私が代理になって回る ということなんだろうな…。良い勉強になるだろうし、様々な家と友好な関係を築かないとな…。)
クリスラインはまだ見ぬ各領と渡り人に思いを馳せた。
ニコラスは息子2人を自室に呼び寄せた。
嫡子・クリスヴァルト 18歳
次男・クリスライン 16歳
2人とも父王譲りの柔らかな栗毛色の髪と、王妃譲りの葡萄色の瞳を持っている。
「ここだけの話になるが、渡り人様が亡くなっていることが判明した」
「まさかリーヴェルト家が?」
「いや…病死のようだ。だが彼女等が渡り人様を王都から遠く離れた寒村へ追いやったのだから同じようなものだろうが」
ニコラスは椅子に深くもたれる。
「渡り人様に護衛騎士との間の御子がいることも判明した」
「! では早急に王都へ…」
「クリスライン、それではかつての渡り人様と同様のことが起こる。今とある貴族の元に預けているから、その間に王都での下地を作らねばならないのだ」
「…申し訳ありません。早計でした」
弟のクリスラインはやや感情的で短絡な所があり、事を急ぎすぎて仕損じるきらいがある。
「渡り人様の御子の性別は?」
「女だ」
「それは困りましたね…。女性では側近として召し上げることは出来ないし、私たちには既に婚約者がいる…不慮の事故でも起こらない限りは難しいですね」
兄のクリスヴァルトは王太子として酸いも甘いも見てきているためか、冷淡で人を駒のように考えているところがある。
どちらも御子を任せるには少々不安がある。
クリスヴァルトの統治者としての教育が冷酷さを生み、クリスライン尾臣下となるべき教育が愚直さを生んだ。
頭の痛い話だ。
「不慮の事故は『起こさない』ようにしなさい。渡り人様なら例外的に助言役を設けても良い」
「助言役では退職する可能性がありますから側妃がよいのでは」
「”渡り人様が側妃”では諸外国から不満が出るだろうな。”ウチの国なら正妃にー”と横槍を入れられるぞ」
「貴族と言うわけではないから実際の所妥当なのですがねぇ…。使用人たちの管理や外交などの技能を養っていないのだから」
「渡り人様が持つ知識の方が価値が高いからな」
その辺りは心得ているようでクリスヴァルトは黙り込む。
クリスヴァルトが元平民の渡り人様を相手するには気位が高すぎるだろう。
「耳に入れておいてほしいのはそこまでだ。クリスヴァルトは来春結婚で忙しいだろう。もう戻りなさい」
「―はい では御前を失礼いたします」
体よく追い出されたことは明らかだが、クリスヴァルトは素直に応じて退室する。
(…会ってみてからどうするのか考えればよいか。どこに匿われているのか…探らせるか)
子飼いにしている優秀な偵察を使おうと、クリスヴァルトは自分の執務室へと向かった。
その頃クリスラインは何故自分は退室を命じられないのだろうと疑問に思いながらも、その後のことが推測できていた。
深いため息とともに
「やはりクリスヴァルトでは渡り人様を粗雑に扱い兼ねんな…。ここはクリスラインかその許嫁の”ご友人”としてまずは距離を縮めてもらおう」
「しかし友人になると言っても…」
「お前はこれから複数の領地を視察する」
「は?」
「旅程等は余が整えておこう。各地の運用状況を把握・報告すればよい。いずれかの場所に渡り人様がいらっしゃるが今は不用意に近づくな。後々『気になった』『好ましい』等理由を付けて呼び寄せればよい。そのための布石だ」
「…ただ各地を訪れ様子を報告するだけで良いのですね」
「そうだ。それ以上は動くな」
「拝命いたします」
ニコラスが去るよう手で示したのでクリスラインはようやく下がった。
(領地視察…兄上は忙しいから私が代理になって回る ということなんだろうな…。良い勉強になるだろうし、様々な家と友好な関係を築かないとな…。)
クリスラインはまだ見ぬ各領と渡り人に思いを馳せた。
0
お気に入りに追加
60
あなたにおすすめの小説

魅了が解けた貴男から私へ
砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。
彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。
そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。
しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。
男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。
元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。
しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。
三話完結です。

白い結婚をめぐる二年の攻防
藍田ひびき
恋愛
「白い結婚で離縁されたなど、貴族夫人にとってはこの上ない恥だろう。だから俺のいう事を聞け」
「分かりました。二年間閨事がなければ離縁ということですね」
「え、いやその」
父が遺した伯爵位を継いだシルヴィア。叔父の勧めで結婚した夫エグモントは彼女を貶めるばかりか、爵位を寄越さなければ閨事を拒否すると言う。
だがそれはシルヴィアにとってむしろ願っても無いことだった。
妻を思い通りにしようとする夫と、それを拒否する妻の攻防戦が幕を開ける。
※ なろうにも投稿しています。
婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪
naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。
「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」
まっ、いいかっ!
持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです
きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」
5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。
その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません
ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは
私に似た待望の男児だった。
なのに認められず、
不貞の濡れ衣を着せられ、
追い出されてしまった。
実家からも勘当され
息子と2人で生きていくことにした。
* 作り話です
* 暇つぶしにどうぞ
* 4万文字未満
* 完結保証付き
* 少し大人表現あり
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる